夫婦の働き方が子どもに与える影響

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2018年03月08日 19:00  citrus

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「男が外で仕事をして、女は家を守る」というのはいわば“戦時中のスタイル”である。

 

戦争になればどの時代でもどこの国でもそういう分業体制が敷かれる。日本の場合、鎌倉時代以降ずっと軍事政権であったから、たしかにその伝統が根強い。それでも江戸時代までは、戦いは主に武士の仕事であって、農民たちは男女の分け隔てなく働いていたのだが、明治時代の富国強兵政策によって、男はみんな戦争に行くものとされた。文明開化とともにそういうライフスタイルが定着し、しかも急速に経済が発展していったためにそのスタイルから脱却できなくなった。だから戦争が終わっても久しくは、男は戦場に赴き、女が家を守るというスタイルが続いた。「兵隊さん」という呼び名が「企業戦士」という呼び名に変わっただけである。

 

1980年の時点では、夫がサラリーマンである世帯のうち共働き世帯は約3分の1しかなかったが、2000年以降は共働き世帯数がそうでない世帯数を上回り、その差を年々広げている。いいとか悪いとか、自然とか不自然とかいう問題ではなく、これが実態である。

 

ところで、「共働き」というと、専業主婦がまるで働いていないかのような錯覚をもたらしそうなので、「共稼ぎ」と言うほうがいいように思う。いや、それにしても、「共稼ぎ」ではない家庭を何というのかという問題にぶつかる。「片稼ぎ」? 適当な言葉が思いつかない。だからここでは「共稼ぎ」のことを「ダブルインカム」、「片稼ぎ」のことを「シングルインカム」と呼ぶこととする。

 

というわけで、この違いが子育てに与える影響を考えてみたい。

 

 

シングルインカムであろうがダブルインカムであろうが、子供自身が親からの愛を十分に感じ、安心できているのなら、子供の心に与える影響に差異はないだろう。気を付けてほしいのは親の意識だ。ダブルインカムゆえに家族がそろって過ごせる時間が少なくてそれをかわいそうだと親が感じているのなら、子供は「自分はかわいそうな子」だと思ってしまう。シングルインカムでも、24時間子供と一緒にいるほうの親が常に育児ストレスを抱えているようでは、子供は「自分なんていないほうがいいんだ」と思ってしまう。親がネガティブな気持ちでいれば子供もネガティブな気持ちの中で過ごさなければならないし、どんな状況であれ親がポジティブであれば、子供もポジティブにたくましく育つことができる。重要なのはダブルインカムかシングルインカムかではない。

 

男女の役割意識についてはどうだろう。

 

ダブルインカムの家庭で育った子どもなら、「男だから一家を支えなければいけない」とか「女は家で家事や育児に専念するべき」というような旧来のジェンダー意識にとらわれにくくなるであろうことは容易に想像がつく。「女性の社会進出」という文脈で語られることが多いが、その逆だってある。女の子が「私もお母さんみたいに働きたい」と思うだけでなく、男の子が「自分が絶対に一家の大黒柱にならなければならない」という強迫観念から解き放たれる作用も果たすだろうということだ。

 

昭和以前の父親がよく口にしたという「誰のおかげでメシが食えていると思っているんだ」という甚だしい勘違いも払拭されること請け合いだ。

 

念のために言っておくが、このセリフ、たとえシングルインカムの家庭であってもあり得ないセリフである。家族の糧を得るという仕事は、家族のチームワークがあってこそ成立することである。たとえば妻が専業主婦である家庭であったとしても、その妻が夫をしっかりマネジメントしてくれるからこそ夫は仕事に専念でき、しかも子どもたちが素敵な笑顔で励ましてくれるからこそ明日もがんばろうという意欲が湧いてくるのだ。夫1人の力で稼いでいるわけではないのだ。夫は家族に支えられてパフォーマンスを発揮しているのであり、家族の代表としてサラリーを受けとっているのである。

 

 

チームスポーツをした経験のある人なら分かるだろう。たとえばサッカー。フォワードが得点をしたからといって、フォワードの力だけで試合に勝てるわけではないのと同じだ。ディフェンダーはもちろん、補欠選手やマネージャー、サポーターなどピッチ上にいないメンバーまでもが一丸となって初めてフォワードが得点し、試合に勝つことができるのである。

 

このままスポーツに例えるならば、次のようにも表現できる。ダブルインカムというのは、夫婦の両方がオフェンスもするしディフェンスもするという陣形のこと。シングルインカムというのは夫婦のどちらかがオフェンスで、どちらかがディフェンダーという役割分担を固定化した陣形のこと。

 

前者は、どちらか一方が機能不全におちいったとしても、もう片方がオフェンスもディフェンスもかろうじて続けることができる。しかし後者においてはどちらか一方が機能不全に陥った瞬間にゲームが成り立たなくなってしまうという違いがある。その意味において、ダブルインカムのほうがリスクに強い。

 

しかしダブルインカムの陣形をとったときに怖いのは、夫婦が得点王争いを始めてしまうことである。

  

最終目標は試合に勝つことであって、夫婦間で得点を競うことではない。それなのに、「夫のほうが稼ぎが多いから、夫のほうが偉いとか家事分担は少なくていい」とか「稼ぎが一緒だったら家事も平等にしよう」などという発想になってしまったら、「誰のおかげでメシが食えていると思っているんだ」と言う昭和のオヤジとほとんど同じ思考回路である。結局「金を稼ぐ奴が偉い」という浅はかな価値観を子供に刷り込むことになってしまう。

 

 

要するに大事なのは、ダブルインカムかシングルインカムかではなく、家族を一つのチームとして、「得点」以外の隠れたファインプレーも認め合う文化が育てられるかどうかである。大雪の翌朝に、公道の雪かきをするひとたちを、本当のヒーローだと思う感性が育つかどうかである。

 

シングルインカムの家庭で、子供から「パパのが働いているからお金がもらえるんでしょ」と言われたら、前述のような理由で「パパ1人が稼いだお金じゃなくて家族みんなで稼いだお金だよ」と教えてあげてほしい。

 

ダブルインカムの家庭で、子供から「パパとママとどっちがたくさん稼いでいるの?」と聞かれたら、「パパもママも1人では今のお給料を稼ぐことはできないよ。お互いに協力して、しかもキミが2人を応援してくれているからお給料をもらうことができるんだ。だからどっちが多く稼いでいるなんてことはないんだ。みんなで稼いだお金だよ」と教えてあげてほしい。

 

そうすれば、どんなコミュニティに入っていっても、常にチームプレーを理解し、みんなからも支えてもらえるひとに育つはずだ。

 

※「FQ JAPAN」vol.30に寄稿した記事を転載しています。

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  • 働くの定義を労働により金銭を得ることとするだけで前半ばっさりいらないやん。稼ぎが良い→すごい偉い→稼ぎが悪い方はダメなんて思考に行くのもおかしいでしょ…
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