高齢化ニッポンを支えるフリーランスという働き方

1

2018年03月09日 16:32  ニューズウィーク日本版

  • 限定公開( 1 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<人生100年時代を迎えて、定年後も働き続けられるフリーランスへの注目が高まっている。しかし日本では、フリーランスとしてのスキルに繋がる副業の実施率がかなり低い>


会社などの組織に属さず、自分のスキルを売りにして生計を立てるフリーランス。インターネットの普及により、個人でも仕事の受注が容易になっていることから、こうした働き方は一般的になってきている。


フリーランスは、労働統計でいう「雇人のいない業主」に該当する。ISSP(国際比較調査)が2015年に実施した労働に関する調査によると、日本の就業者でこのカテゴリーに含まれるのは6.3%、およそ16人に1人だ。数値が分かる37カ国を高い順に並べると、<図1>のようになる。


首位はインドで、働く人の3人に1人がフリーランスだ。現地に行ったことがある人なら、リキシャの個人運転手を想い起こすだろう。発展途上国が上位を占めるが、個人農園の経営者などが多いと見られる。日本の6.3%は、37カ国の平均値(9.5%)より低い。


国内の産業別のフリーランス率を出すと、農業(39.4%)、漁業(31.2%)、学術研究・専門技術サービス(15.5%)、建設業(12.7%)で高い(2015年、『国勢調査』)。フリーの芸術家、文筆家、コンサルタントなどは3番目の学術研究・専門技術サービスに含まれる。


年齢別にみると、フリーランスの割合は高齢層で高く、65歳以上は23.2%、75歳以上は36.9%、85歳以上では41.1%にもなる。働き方の内訳をみると、生産年齢層では雇用労働が大半だが、高齢層ではフリーランスの比率が高い<図2>。


人生100年の時代、定年後を引退期として過ごすのは経済的にも心理的にも不可能だ。働き続ける高齢者は年々増えているが、その多くがフリーランスであることが分かる。組織を離れた後は自分で稼ぐ。分かりやすい構図だ。


会社に依存し続けて個人での稼ぎ方を知らない人は、定年後に苦労することになるだろう。副業をして、どこででも通用する汎用性のあるスキルを身に付けることも重要だ。収入を増やし、新たなスキルを習得する観点から、政府も正社員の副業を推奨する方針を示している。


しかし、日本の労働者の副業実施率は低い。<図1>と同じISSPによると、過去1年間に副業を実施した就業者の割合は11.0%で、アメリカ(31.5%)など他の先進国と比べると低くなっている。副業の解禁を促すべきだろう。


共働き世帯が増加し、人口の高齢化が進むなかで、フリーランスという自由で柔軟な働き方への要請は高まるだろう。業務を委託する側にしても、高度なスキルを切り売りしてもらえるのは有難い。専門人材を雇用するのは莫大なコストがかかるが、必要な時の業務委託ならばそれを大幅に削減できる。


ただ、クライアントの企業との力関係から、フリーランスは不利な立場に立たされやすい(競合会社からの受注禁止、曖昧な口約束の契約、報酬不払いなど)。2月に開かれた公正取引委員会の有識者検討会では、フリーランスに無理な条件を押し付けた場合は独占禁止法違反にあたるとする初の判断が示された。フリーランスを保護する動きが出ている。


20世紀はサラリーマンの時代だったが、情報化・高齢化社会の21世紀は「フリーランスの時代」になるかもしれない。


<資料:「Work Orientations IV - ISSP 2015」、


      総務省『国勢調査報告』(2015年)>


【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。ご登録(無料)はこちらから=>>



舞田敏彦(教育社会学者)


    ニュース設定