「家族介護の定義を変えたい」NPO代表・川内氏が語る「仕事を辞めない介護」

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2018年03月14日 10:32  弁護士ドットコム

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もし明日、親が倒れたらーー。いつか来る「親の介護」を心配をしている人も、この本を読むと、少し気が楽になるかもしれない。NPO法人「となりのかいご」代表理事の川内潤さんが、「もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法」(ポプラ社)を上梓する。


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「日本の家族介護の定義を変えていきたい」と話す川内さん。本の中で、繰り返し「もし親が倒れても、仕事は辞めないで。人(介護のプロ)に任せよう。あなたは家族でしかできないケアをして欲しい」とメッセージを発する。


「人に任せよう」と言っても、介護の全てを委ねることではない。現在、日本では年間10万人が介護のために離職している。仕事を辞めずに介護は本当にできるのか。川内さんに聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山口紗貴子)


●「一生懸命介護するからこそ虐待してしまう」

川内さんは、「家族を大切に思い一生懸命介護するからこそ虐待してしまうプロセスを断ち切る」ことをミッションとしている。在宅介護の仕事をしていた時、家族による介護虐待の現場に立ち会ってしまった経験が何度もあるからだ。


「親を大切に思うからこそ、手を挙げてしまっています。実際に、家族の暴力を目の当たりにしても、心の中では『息子さん、その気持ちわかるよ』と思いながら、自分の身体を間に挟んで緩衝材になることしかできなかった。時計を巻き戻して、この方たちが在宅介護を始める前に戻したい。この本には、その時に感じた悔しさをこめて書きました」


現在は、会社員に向けた介護離職防止セミナー、介護家族のストレス緩和のためのワークショップなどをおこなっている。企業で、ビジネスマンたちから相談を受ける機会もあるが、「家族こそが介護をするべき」という根強い意識を日々、感じるそうだ。


●「仕事を辞めずに介護はできる」

「親が倒れると、『何かあったら不安だから』などと義務感から引き取ろうと考える人は多いです。その気持ちは共感しますが、その暮らしが5年、10年続いたとき、自分の親に対して同じ気持ちでいられるかどうか、よく考えて欲しい」


幸いなことに、人手も多く、経済的な余裕がある家もあるかもしれない。ただ、そうした家はごくごく例外だろう。


「経済的な負担を感じる中で、心身ともに介護でボロボロになれば、親が死んで欲しいと願ってしまうこともある。親も、子どもの苦労を目にしたり、子の今後を不安に思ったりして、生きていることに申し訳ないと思ってしまう。親子ともに追い込むのが介護離職です」


本当に仕事を辞めずに介護することができるのか。川内さんは「できます」と断言する。前提としてあるのは、介護のプロに委ねるという方法だ。


「もし親御さんが倒れたら、そのままフルタイムの介護者となるのではなく、まず短期間の介護休暇をとってみてください。この期間で、介護体制を築くこと。1か月もとれば十分です。中には1週間で諸々の体制を築き上げる方もいます。良いサービスや人を見極める選球眼はビジネスマンならではの能力です」


本書の中で、信頼できるケアマネの選び方、会社とのコミュニケーションの取り方など実践的な方法を余すことなく伝える。


●「家族は家族にしかできないこと」に集中して

ただ、家庭内で無償で行ってきた「ケア」を、有償で「外注」することに抵抗感を示す人は多そうだ。罪悪感なく親の介護を人に委ねることはできるのだろうか。


「オムツを変えたり、お風呂に入れたりするのは、家族だからという理由で簡単にできるものではありません。そこはトレーニングを積んだ我々プロに任せて欲しい。でも、私たちでもわからないことはあります。


それは、その方がどんな方で、何を望んでいるのか。それを一番よく知っているのは家族です。作業的な部分はできるだけプロに任せて、家族は家族にしかできないこと、親御さんに愛情を注ぐことに集中してください」


たとえば、親が元気だった頃、趣味は何だったのか。どんな時間が好きだったのか。改めて、親の人生に思いをはせ、親の思いと時間を共有することで、介護をきっかけに新たな親子関係を築く機会にもなりそうだ。


「愛情を注ぐことは、余裕がなければできないことです。その余裕を持つためにも、日々のケアはアウトソーシングして欲しい。現実的な話で言えば、介護のために親の年金や自分の貯金を切り崩し続けていたら辛いことです。『親が大変だから頑張って稼ごう』と前向きに気持ちを切り替えた方がうまくいきます」


●日本の「家族介護の定義を変えていきたい」

介護によって追い詰められる家族を見続けてきた川内さんには「家族介護の定義を変えていきたい」という強い願いがある。


「何となく『やらなければいけない』と思っていることと、本当に望まれるケアは実は違います。しかし、まだまだ『介護は家族でやらなければいけない』という思い込みは根強くある。であれば、いかにプロに任せることのハードルを下げていくかが私たちプロの仕事です。1人ひとりにあわせて、家族が心地よく介護を手放すことができるように」


仕事を続けながら介護をするためには、初動と情報が肝心だ。今はまだ親が健康でも、いざという時に備え、川内さんが伝える「家族介護の新しい定義」は心構えとして持っておきたい。 


【取材協力】


川内潤 (かわうち・じゅん)さん


NPO法人「となりのかいご」代表理事。社会福祉士、介護支援専門員、介護福祉士。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、在宅・施設介護職員を経て、「となりのかいご」設立。3月、「もし明日、親が倒れても仕事を辞めずにすむ方法」(川内潤著、ポプラ社)を上梓。



(弁護士ドットコムニュース)


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