「五つ星運動」が躍進でも、イタリアは再選挙に突入?

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2018年03月17日 15:41  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<イタリア総選挙で「五つ星運動」は上下院の第1党になったが、過半数には届かず連立交渉の行方は不透明に>


3月4日に実施されたイタリアの総選挙では、予想どおり「五つ星運動」が大躍進し、単独政党としては上下院で第1党となった。


政党グループでは、ベルルスコーニ元首相率いる中道右派連合が上下院の最大勢力となったが、五つ星と同様、過半数には届かなかった。そのため過半数議席を握る政党がない「ハングパーラメント」(宙づり議会)状態となり、連立政権樹立に向けた交渉が行われる。


中道右派連合内では、反EUを掲げる極右の「同盟(旧・北部同盟)」が、ベルルスコーニの「フォルツァ・イタリア」を抑えて得票率でトップに立った。中道右派連合を軸にして連立政権が発足すれば、同盟のサルビニ党首が首相に就任する見込みだ。サルビニは「イタリア第一主義」を叫び、政権を取ったら毎年10万人の難民を国外退去させると豪語してきた。


レンツィ前首相率いる与党・民主党を中心とする中道左派連合は敗北を喫し、レンツィはその責任を取って党首の座を降りると記者会見で述べた。


五つ星は09年にお笑い芸人のベッペ・グリッロと、起業家でウェブ戦略担当のジャンロベルト・カサレッジオが結成。17年9月に党首に就任した31歳のルイジ・ディマイオの下で保守・リベラル双方の政策を取り入れ、幅広い支持を獲得している。


今回の選挙の主要な争点は、難民の大量流入と経済の低迷、深刻な失業に対する処方箋だ。既成政党に失望した有権者は、こうした問題を一気に解決する「荒療治」に期待し、極右やポピュリズム政党に票を投じた。


イタリアには過去4年間に60万人前後の難民が流入。イタリアだけが重荷を背負わされているという不満から、有権者はEU各国に難民受け入れ枠を割り振る五つ星案を支持した。ディマイオはイタリア海軍が地中海で行っている難民の救助活動を「海運タクシー・サービス」と呼び、中止を呼び掛けてきた。


危機感を募らせるEU


一方で、五つ星は労働者の権利の保護・拡大を主要な政策に掲げ、労働者の経営参加や労働時間の短縮を打ち出している。現政権が進めてきた労働市場・年金改革を見直し、退職年齢を引き下げ、労働者を解雇しにくくすることも公約に入れてきた。


さらに、2050年までに段階的に化石燃料の使用ゼロを目指すほか、月額780ユーロ(約10万円)のベーシックインカムの導入も約束。外交ではロシアとの関係改善を掲げている。


今回の選挙結果に危機感を募らせているのはEU幹部だ。選挙戦でEU寄りの姿勢を打ち出したのはレンツィ率いる中道左派連合のみ。伝統的にEUの統合深化を目指してきた中道左派勢力がオランダ、フランス、スペインに続き、イタリアでも敗れたことは注目に値すると、米シンクタンクの大西洋協議会のイタリア政治専門家、バート・オースターベルドは指摘する。


極右の同盟と同様、五つ星も反EUを掲げてきた。ただ、オースターベルドによると、「投票日が近づくにつれ、(対EUでは)より穏健な姿勢を打ち出すようになった」という。


連立政権の枠組みは今のところ不明だ。交渉が決裂すれば、再選挙が行われることになる。オースターベルドはその確率を「50%以上」とみる。「五つ星と同盟が組めば安定多数になるが、この2党は主要な政策では水と油のように違う」


かといって宙づり議会では何一つ決まらない。イタリア政界の混迷は当分続きそうだ。


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[2018.3.20号掲載]


デービッド・ブレナン


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  • ぶっちゃけた話をするとM5Sには明確な「思想」がない。だからEU懐疑派などと盛んに報じられても、実は穏健姿勢を強めて居たりする。いま市場が落ち着く着地点はM5SとPDの連立政権だ。これで過半
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