私立中の懇談会で「こんな偏差値の低い学校に」と泣く母――中学受験での不合格は“負け”なのか?

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2018年04月08日 20:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Photography from AC

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 受験というものは残酷なものでもある。その結果が“合格”と“不合格”の2択になるからだ。“不”というたった一文字で“天国”と“地獄”に分かれてしまう。特に中学受験は“母子の受験”と呼ばれるほど、母の介入度が激しい世界なので、満足のいかなかった“結果”は母を悶えさせるに十分な痛みとなるのだ。

 毎年、偏差値順で2番手校以下に当たる私立中学の入学式後に行われるクラス懇談会では、こういう光景は最早、デフォルトである。

 自己紹介の席上、泣き出す母が出現するのだ。「本当なら、こんな(偏差値の低い学校の)席に座っているはずもないのに……」と。

 つい最近も、こういうメールが私の元に届いた。

「息子は滑り止めのA中学しか受かりませんでした。息子は『あんな学校、行かない! 公立にも行きたくない! どこにも行かない!』と言って暴れています。ここ数カ月、私の心はボロボロです……」

 このように、眩しい思いで入学式の桜を見上げる母ばかりではないという現実がある。

 だからと言って、私は中学受験を悪い物とは思っていない。物事は同じことが起こったとしても、自身の考え方次第で、いくらでも“意味のある現実”にすることが可能だからだ。私は中学受験において、1回は自分の番号がない掲示板を見た方が絶対に良いと思う派である。その理由は多岐に渡るが、今回は、連戦連敗を喫した子どもと母、そして塾の先生のやりとりを見ながら、「不合格だったからこそ、得られるもの」について書いてみよう。

 東京・神奈川の中学受験生は、2月1日の受験日から連日で受験していくことが一般的である。最近は午後受験の機会も多いので、午前→午後→午前→午後→午前と受け続ける子もたくさんいる。2月1日から2月6日までの間で10校受験している子もいるほどだ。これは結果が芳しくないから、後半日程まで長引いたということの裏返しであるが、“不合格”というレッテルを連日連夜貼られ続ける親子の苦しみは、想像を絶する。

 例えば、こんな話を聞いたことがある。健斗くん(小学6年生)の本命校はB中学。3回入試を行っている超人気校である。健斗くんは小学3年生でB中学の文化祭に訪れて以来、同校にあこがれ続け「絶対にB中学に入る!」という信念を持って、勉強し続けたという。

 ほかの多くの受験生がそうであるように、健斗くんも友人との放課後の遊びを封印し、塾に駆け付ける日々を繰り返し、夏休みも冬休みも朝から晩まで塾に居続ける生活を送っていた。

 これだけ長い期間にわたって準備し続けた努力が実り、6年生での模試の判定では、一度もA判定(合格確実)を逃したことがなかったという。絶対の自信校であり、熱望校であるB中学。それなのに、本番1回目入試だけならばまだしも、2回目も不合格という信じられない結果が出てしまったそうだ。健斗くんは熱望校のB中学と共に、その上のチャレンジ校を受験したが、そこも不合格。そしてさらに、滑り止め校としていた受験校も不合格というトドメが刺された。

 合格校はゼロという状態で、明日はいよいよB中学の最後の入試を迎えるという日、家の中は修羅場と化した。滑り止め校もまさかの不合格であることがわかった午後7時、健斗くんは自室に閉じこもり、そこから一歩も出ようとすらしなかったという。

 その姿を目にしたお母さんは、「私の方が泣いてしまった」とのこと。涙がとめどなくあふれてきたのは、健斗くんが布団の中で声を押し殺して、泣いているのがわかったから。まだ年端も行かぬ11歳の子どもが、母に心配かけまいとして、母には聞こえないように気を使って泣いている……「これならば、荒れ狂って、泣き喚いて、私に当たり散らしてくれた方がまだマシだとすら思った」という。

「このままではいけない。母である自分が泣いてどうするのだ? 健斗の方がつらいはず。それなのに、涙を止められない。どうにかしないといけないと焦れば、焦るほど、どうしていいのかわからない。こんな状況下でも、明日でほぼ全部の中学入試日程は終わってしまう。全落ち(全ての受験校に不合格という意味)だけは避けたい。だとするならば、明日はB中学を諦めて、より確実な中学を受験すべきなのか? でも、ここまでB中学を目指して頑張ってきたのに? 健斗はこんなに努力をしてきたのに? なんで……? どうして……?」

 中学受験は時として、母をこんな精神状態にまで追い詰めるものなのだ。

 思考停止に陥った健斗くんのお母さんは、泣きながら塾に電話を入れたという。塾長に、「健斗、電話に出られますか?」と言われ、子機を健斗くんの部屋に持って行きドアを閉める。すると数分後、健斗くんは部屋から出て来て「塾に行ってくる」と言ったそうだ。

 あとから聞いたところによると、電話で塾長は健斗くんに対し、「健斗、布団被って泣いているだけでいいのか? そんな暇あったら今すぐ、塾に来い!」と呼び出し、こんな話をしたという。

「健斗、オマエ、番号がなかった画面を目に焼き付けたな? 良し! だったら、それでいい。オマエ、ここに来たのは明日のためだよな? だったら、明日のことだけを考えろ。明日、合格するために何が必要なのかを考えろ! オマエ、なんで落ちたんだ?」

 すると、家では閉じこもって泣いていた健斗くんだが、冷静に塾長にこう返事をしたそうだ。

「先生、1回目は、僕はこの問題に手こずってしまって、パニックになっていました。それで、時間配分を間違えました。2回目は、周りが皆、できるように思えてきちゃって、『2回目の方が難易度は上がるのに本当に大丈夫かな?』っていう弱気な気持ちが出たせいだと思います。先生が『1点にくらいついていけ!』ってアドバイスしてくれていたのに、それをすっかり忘れて、雰囲気に呑まれてしまったのが敗因です。でも、僕は明日、もう一度、頑張るから、先生、問題に付き合ってくれませんか?」

 その後、塾長は「オマエほどB中学の過去問をやりこんできた奴はいない」「今までは丁度いい練習だった」「オマエの本当の実力はこんなもんじゃない」と健斗くんを励ましてくれたとのこと。お母さんが、塾から戻って来た健斗くんに、「明日はB中学にトライするの?」と尋ねると、「当たり前だろ? まだ、僕の勝負は終わってない!」とすっかり息を吹き返していたそうだ。

中学受験は最後の“蜜月”である

 中学受験は、母が子どもをサポートするものと思われるかもしれないが、母がパニックに陥ったとき、逆に子どもに救われることもある。健斗くんのお母さんは後日、私にこう話してくれた。

「あの時、健斗が私の目の前で『今、大きくなった!』って思えたんです。大番狂わせとも言われたような4連敗って状態で、それを嫌というほど叩きつけられて、でも、それを逃げずに受け止めて、自分で這い上がってきたんですよね。私は健斗の3回目の合格よりも、このことが本当にうれしくて……。『ああ、成長したんだなぁ。いつのまにか、母よりもウンと大きくなったんだなぁ』『この子はこれから先もきっと大丈夫』って心から思えたことが、私には本当にうれしいことだったんです」

 中学受験は、母が我が子に伴走できる最後の“蜜月”である。「アッ、今、(我が子が)大きくなった!」というシーンの一番近くの目撃者になれるのは、母にとって、たまらなく贅沢なことなのかもしれない。中学受験は実は、合否による苦しみ以上に、子育てにおけるかけがいのない瞬間に立ち会えるチャンスでもあるのだ。
(鳥居りんこ)

このニュースに関するつぶやき

  • 余裕と言われていた高校受験に失敗した娘は悔し泣きしてようやく「努力する」ということを覚えたので失敗して良かったと思う。大学も卒業して就職もしたし、後は車の教習所早く卒業してくれ。
    • イイネ!8
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