突然のことだった。ある日、わが子を「かわいい」とまったく感じなくなった。
キャッキャとはしゃぐ声さえ、うっとうしい雑音と耳が判断するようになった。
遊ぶことはおろか触れることも嫌になり、子どもと妻をなるたけ視界から外し、自室にこもるようになった。自室の空気はよどみ、自分が壊れる恐怖心でいっぱいになった。
僕の職業はライター。妻はフルタイムで働く会社員。僕は在宅就労者ということで、結婚以来13年すべての家事を担当している。
そんな僕が体験した“育児ウツ”について、話していきたい。
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妻のオンナ友達は、「まあ理想的」「ウチにも1台ほしい」と言ってくれていた。もともと家事は好きなため、原稿の合間の息抜きとしてできる作業、家事はこちらとしても都合がよかった。
結婚して7年目、互いに39歳のとき不妊治療を始めた。そして3年の治療、2度の流産を経て、待望の第一子を授かった。かわいい男の子だった。
四十の子育てに奮闘しながらも、子どもの世話に励んだ。先ほども述べたが僕は在宅就労者、つまりほとんど家にいるため、育児も積極的に参加した。
毎日お風呂に入れるのは僕の当番だったし、ウンチのついたオムツ替えも平気だった。寝かしつけもやったし、おくるみは力があるぶん、妻より上手だった。
夜中に泣き叫べば、何時間だってあやした。ほ乳瓶の消毒だって何百回やったか。赤ちゃんの世話だけでなく、日々の掃除・洗濯・大人の食事の準備は言わずもがなだ。
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イクメンという言葉は嫌いだが、そんじょそこらのパパには負けない子煩悩であることは自負できるレベルだった。
とにかく子どもと遊ぶのが大好きだった。日中は保育園に預けているのだが、午後3時ともなると、もう遊びたくてウズウズしてくる、俺が。
なので保育園を早抜けさせて、街へ。夏ならばジャブジャブ池、遠くに立派な子どもプールがあると知ればチャリをこいでそこへ。
2歳ぐらいになると、「おもちゃであそびたい」と言うようになった。
かわいいお前がそう言うなら任せとけ! と今度は、銀座の博品館、原宿のキディランド、台場のトイザらスとチャリを30分〜1時間こいで通う毎日。こうやって毎日遊んで、夕方からはふたりで銭湯。これが日課だ。
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「おかしかってー」「ダメだよ」も、3ラリーぐらいで「特別だよ」と買ってあげちゃう甘い親。
その結果、わが息子は世間では珍しいほどのパパっ子に。
しかしこれも計画通り。
どうしたって子どもは母親になつく。それならばと俺はとにかく遊び、ジュースを与え、「妻になんか、こんなかわいいの渡すものか」と“パパっ子推進計画”を遂行してきたのだ。
息子は3歳になった。よく喋り、よく笑い、よくふざける、かわいい盛りだ。そんな2ヶ月前の、ある土曜のことだった。
僕は土日も午前中から、子どもとふたりで出かけるのが日課だ。子どもと遊びたいというのもあるが、何より妻はフルタイムで働く会社員。
土日の休みくらいゆっくりしてもらいたい、という気持ちから週末は午前中から子どもを連れだしていたのだ。
そんな土曜の午前、20分チャリをこいで息子が大好きなミニSLに乗れる公園へ。そこで息子が何かワガママを言い出したのだ。
今となってはどんなワガママをされたのか覚えてないが、それで僕が相当怒った。それでも止まらない息子のワガママ。
堪忍袋の緒が切れた僕は思わず息子の胸ぐらをつかみ「ふざけんな!」と怒鳴り、気がつけば思いっきり頭をはたいていた。
もともとイラチで気が短い僕。そして世間体などまったく気にしない性格から、そこがスーパーだろうが病院の待合室だろうが息子を叱りとばすことはザラにあった。
しかしこの日の公園の一幕は、明らかに超えてはいけない一線を越えていた。それは頭で理解してはいたが、感情が、手が、追いつかなかった。
「パパは、お前が、嫌い」
絶対に言ってはいけない言葉が、自分の意思とは別に、口から出てきた。
終わりの始まり、“育児ウツ”に、俺はなってしまった。
(次回へ続く)
【画像】
※ NadyaEugene、Andrey Yurlov、NARONGRIT LOKOOLPRAKIT / Shutterstock
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