【今週の大人センテンス】熊本地震から2年・被災者の言葉が教えてくれること

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2018年04月17日 18:00  citrus

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写真:スタジオサラ/アフロ

巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

 

第94回 前を向いて歩いている強さ

 

「地震で失ったものより得たものの方が大きい。生かされた命を大切にこれからも生きていきたい」by豊世美文さん(地震で生き埋めになり、5時間後に奇跡的に救出された)

 

【センテンスの生い立ち】

2016年4月に起きた熊本地震。14日の「前震」と16日の「本震」の2度、震度7を観測した。前震では9人、本震では41人が亡くなり、地震の影響による関連死などと合わせた犠牲者は計267人(4月13日現在、熊本県のデータ。大分県の3人も含む)。発生から2年がたった今も、3万8112人(3月末現在、「みなし仮設」などを含む)が、仮設住宅に入居している。この言葉は、毎日新聞が「熊本地震2年」と題してシリーズで掲載した記事のひとつ「熊本地震2年 生き埋め5時間、奇跡の救出 3月仕事再開」より。

 

【3つの大人ポイント】

  • 辛い出来事を強く受け止め、意味を見出している
  • 忘れてはいけないとあらためて自覚させてくれた
  • 生きる上で大切なことを多くの人に教えてくれた

 

もちろん、辛い出来事を前向きに受け止めるだけが「正しい」わけではありません。悲しみから抜け出せなかったり、過去を悔やんだり恨んだりすることが、当人にとって必要なケースも多いはず。それがいいとか悪いとかは、誰にもジャッジできません。常に強くて前向きでいることを強いられるとしたら、それはそれで窮屈な世の中です。人は誰しも弱い存在であり、だからこそ寄り添う気持ちや助け合いが大きな意味を持つと言えるでしょう。

 

そんな大前提を踏まえた上で、あの大きな悲劇を正面から受け止め、前を向いて歩いて行こうとしている人たちの姿には、深い感動と尊敬を覚えます。熊本地震から2年が経ちましたが、まだまだたいへんな状況は続いています。4月14の「前震」と16日の「本震」の前後には、復興が進んでいない現状や問題点、辛い出来事を経て力強く歩いて行こうとしている人たちの姿が、さまざまなメディアで報じられました。

 

毎日新聞は「熊本地震2年」と題して、シリーズ記事を掲載。その中の1本で、熊本県益城町の保育士、豊世美文(とよせ・みふみ)さんを取り上げています。

 

熊本地震2年 生き埋め5時間、奇跡の救出 3月仕事再開(毎日新聞2018年4月14日公開)

 

彼女は2年前の4月14日夜、全壊した自宅の下で生き埋めになりながら、約5時間後に救助隊によって奇跡的に救出されました。約1カ月後に仕事に復帰しましたが、激変した生活によるストレスが元となって、翌年3月に14年間務めた保育園を辞職。記事はこう締めくくられています。

 

その後、ボランティア活動に参加してみるなど、立ち止まり、自らを見つめ直すことができた。そして、改めて子供たちに愛情を注ぐ仕事をしたいと考えるようになれた。今年3月から新たな職場に通っている。「地震で失ったものより得たものの方が大きい。生かされた命を大切にこれからも生きていきたい」

 

きっと、とてもたくさんのものを失ったはず。それでも「失ったものより得たものの方が大きい」と言えるところに、計り知れない強さや未来への決意、地震があってからこれまでの道のりの険しさが伺えます。

 

4月14日に熊本県庁で行なわれた追悼式で、遺族代表を務めた松野良子さんも「前を向いて歩いて行こうとしています。故郷・熊本と私たちを見守りください」と述べています。松野さんは、本震で益城町の実家が全壊し、母・ミス子さん(当時84歳)を亡くしました。現在、実家跡地に自宅を再建しているとのこと。

 

日本農業新聞は、益城町の仮設住宅で前を向いて歩いている農家の姿を伝えています。

 

熊本地震から2年 益城町は今 自宅・農地と離れ・・・続く仮設の日々 希望は捨てない(日本農業新聞2018年4月14日公開)

 

仮設住宅で高齢の両親と暮らすために、新妻や今年2月に産まれた子どもとは別居している稲作農家の永田忠幸さん。水田は2年間米作りができず、別の場所でキャベツを育ててきました。生活の再建はまだまだこれからですが、「地震をきっかけに出会えた縁を大事にしたい」と言っています。今年は、田んぼの一部で田植えができる見込みだとか。

 

白い花弁がきれいなカラーを栽培する花き農家の守江勉さん。納屋はやっと再建したものの、自宅解体は予定より1年遅れ、着工は早くて今年の夏になる見通しだとか。仮設住宅から通って農業を続けていますが、「納屋があるだけで数歩進んだ。生活は大変だが、出荷できなかった2年前に比べれば」と語っています。

 

こうした前向きな発言には、自分自身を奮い立たせる意味もあるでしょう。たくさんの辛さや苦しさを味わい、乗り越えてきたからこその発言という一面もあるかもしれません。自然災害に限らず、誰しも人生ではさまざまなことが起きます。大きな被害に遭った熊本地震の被災者の人たちが、複雑な思いや意味を込めつつ、前向きな言葉を口に出し、前を向いて歩いて行こうとしている姿は、私たちに大切なことを教えてくれます。

 

大きな被害や悲しい出来事に遭った人に対して、周囲は結局は無力です。無力なりに、自分にできることを考え、できる限りのサポートをしていくしかありません。自分に何か起きたときも、周囲は救いの手を差し伸べてはくれますが、自分の状況や気持ちをどうにかするのは最後は自分です。被災者の前向きな言葉は、何らかのことで苦しんだり悩んだりしている人たち、つまりは私たちみんなに大きな力を与えてくれました。しっかり受け止めましょう。

 

 

【今週の大人の教訓】

前を向いて歩いて行く力を与えてくれるのも、また人である

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