限定公開( 1 )
最近話題の「ことだま屋本舗」という声優イベントをご存じだろうか。
この「ことだま屋本舗」は、「ことだま屋本舗リーディング部」「ことだま屋本舗EXステージ」など、コメディにふりきったり朗読劇だったり、マンガコンテンツとコラボしたり、内容によって様々なスタイルに変わる。最大の特徴は、実力派のトップ声優陣が“超”ライブ感重視のリアルなエンターテイメントを提供してくれるということだ。
このイベントを主催しているのが株式会社スィンクエンターテインメントである。そしてその代表が鈴木考太氏だ。鈴木考太氏は鈴木コウタとして、自身も役者という顔を持つ傍ら、上記のようなエンターテイメント業を取り仕切る、いま注目のプロデューサーなのだ。
おたぽる編集部では、優秀なビジネスマンであり、役者でもあるマルチな鈴木考太氏とは一体どんな人物なのか。インタビューを敢行した。
――鈴木コウタとして役者でキャリアもあったのに、なぜ会社を起こそうと考えたのでしょうか。おたぽる初登場なので、自己紹介も含めて教えてください。
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鈴木考太(以下、鈴木):ぼくはまず、19歳のときにテアトルアカデミーに所属して、そこから役者のキャリアをスタートさせていていきました。その後ATプロダクションに所属するなど、地道にキャリアを伸ばしていき、その中で声のお仕事もさせていただくようになりました。
それから、NHK教育テレビのお仕事をさせていただくようにまでなりました。そのあと紆余曲折を経て、事務所を退所しフリーで活動を始めました。その際、NHKでお世話になったディレクターの方と「何か面白いことやりたいよね」って話をしていたんです。最初は予算や規模も分からないような状態だったので、難しいものではなく、稽古もシャープにできるものはなんだ?と考えたときに行きついたのが「朗読」だったんです。
朗読であれば、声優業をやらせていただいたときにたくさんの方々とつながることができていたし、それが活かせたんです。それが現在の「ことだま屋」の始まりであり、株式会社スィンクエンターテインメントの前身団体である「プロジェクトアイノス」の始まりです。
それからもまた、別の事務所にお世話になったりもしていたのですが、ぼくの中でおぼろげに「40歳になるまでに起業しよう」という気持ちがあったんですよね。事務所からもぼくにプロデューサー的視点を求められるようにもなってきていました。だったら本気でやっていこうかなと思い、決断はものすごく早いほうなんで事務所は退所させてもらい、周りに助けてもらいながら起業するに至ったんです。
――「ことだま屋」は実力派声優のガチでありながら、コメディ要素の強い朗読劇が話題となって人気イベントですが、最初は集客など苦労されたりはしましたか。
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鈴木:ことだま屋に関しては、最初から有名でかつ実力のある方に出演してもらっていたので、あまり集客で困ったという意識はないんですよ。
――イベントを観てみると、ファンは当然のこと、出演している声優の皆さんもずいぶんと楽しそうに演じられていますね。
鈴木:はい。「ことだま屋」は言ってしまえばなんでも“あり”なんです。もちろん台本は存在しますが、アドリブだって上等のドタバタリーディングです。なんなら衣装で着ぐるみとかもありです。
そういった普段では絶対観ることのできなさそうな声優の姿も楽しめるのも、このイベントの魅力であり、好評をいただいている理由でもあります。
――「ことだま屋本舗EXステージ」では、マンガのコマにそのままアフレコすることで、疑似アニメのようになり、非常に斬新なエンターテイメントとすることに成功されていますね。こちらを始めた経緯を教えてください。
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鈴木:昨年の夏なのですが、お食事の席で富沢義彦(※劇場版『ああっ女神様っ』の脚本や『陽大戦記』の原作などを手掛ける脚本家)さんから「自分のマンガで何かやってみてよ」と提案されたのがきっかけでした。
そこで手がけさせてもらったのが『クロボーズ』です。あれよあれよと企画が進み、11月には本番となりました。
――半年にも満たない準備期間だったのですか!? マンガのコマ割りが一コマずつ電子書籍みたいに進んでいき、セリフも抜かれていて、すごく手のかかった演出じゃないですか。
鈴木:そうなんですよ。すごく手がかかっています。ただ制作してくれるスタッフがプロ中のプロなので、短期間でもなんとかしてくれました(苦笑)。
――夏に話があがり、11月に本番という短さであの手の込んだ演出をやるのは本当にすごいですね。
鈴木:でも、最初から何かを盛り込み過ぎても混乱するだろうし、ノウハウもなかったので、スタイルとしてはシンプルなんです。純粋にマンガをスクリーンに投影して本気でアフレコをするわけなので、最も皆さんのイメージする声優像に近いと思います。
――マンガのコマが進み、そこに演出の音が乗ってきたりもしますよね。演技のタイミングや、次のコマへ送ったりするのは誰かが指示しているのですか。
鈴木:いえ。マンガのコマは全て1本のデータなので、決まったタイミングでコマが送られ、音が鳴るようになっています。役者の皆さんは、画面下に表示されるタイムコードを頼りに画にタイミングを合わせて演じているのです。
――頼りはそこだけですか?
鈴木:はい。全てのタイミングが同期されている以上、一切ミスや遅れの許されない演出になっているんです。それを生でお客様の目の前で一発勝負でやらなくちゃいけないので、役者の皆さんにはかなりのスキルが求められます。
――演じる側にとってはかなり酷なステージですね。
鈴木:確かに演じる側にはきついのですが、70年〜80年代のアニメの現場はこの状況に近かったそうなんですよ。なので、古くから活躍されている方たちは本当にすごい実力のある方々ばかりだったんだなと改めて実感します。
――ちなみに、これまでに失敗はありましたか。
鈴木:一度たりともありません。「ことだま屋本舗EXステージ」では声優の本気が目の前で見られますよ。声優の皆さんには無茶なお願いをしているんですけどね(笑)。
――「ことだま屋本舗EXステージ」は新たな可能性を感じるエンターテイメントとなりそうですが、ぜひとも取り上げたい作品とかはあるのですか。
鈴木:たくさんありますが、一つ挙げるとするならば…演劇関連ということで『マチネとソワレ』ですかね。舞台演劇をテーマにしたマンガなんですよ。こういう作品には挑戦してみたいですね。
他には『アウターゾーン』とか。すごくこの作品が大好きなんですよ。ぼく自身もやるなら出演したいくらいです。
――すでにアニメ化されている作品などはいかがでしょうか。
鈴木:出版社、原作者の皆さんとの調整次第ではやれなくはないと考えています。レジェンドクラスのマンガにはいつか挑戦してみたいですね。ただし、アニメ版とのバランスがあるので配役をどうするかなど、かなり悩みそうですが(笑)
――ライトノベルは扱わないのですか。
鈴木:ライトノベルも朗読劇スタイルであれば、やれなくはないと考えています。シーンに合ったもの、例えば森や自然、町の様子をスクリーンに動かしたり、挿絵を描き下ろしてもらったりしてもいいかもしれませんね。
――こうしてお話していると、現在の鈴木さんはビジネスマンとして、プロデューサーとしての一面のほうが大きくなっている感じがするのですが、実際、役者としての自分、ビジネスマンとしての自分の使い分け上手くいっているのでしょうか。
鈴木:プロデューサーとして、役者としての自分は同居できてはいます。とはいえジレンマもあって、葛藤することも本当に多いです(笑) そもそも根が役者なので、やっぱり演じることだけに集中したいと思うことはあるんですよ。
でも、ぼくは人との縁をつなげていくのが大好きなんです。人を楽しませ、驚かせることも大好きです。だから、自分が「出演してみたい」と思える企画を生み出していくことも同時に楽しいし、業界を盛り上げていきたい。その感覚を大切にしています。
――ここ数年の声優人気の過熱ぶりは一大ムーブメントだったかと思います。プロデューサーと役者の両方の目を持つ立場からして、業界の動きをどう感じられていましたか。
鈴木:声優が様々なところで活躍できるのは、ファンの皆様のおかげなのはまちがいありません。グッズを買ってくれたり、ライブに足を運んでいただいたりすることで、声優が重宝されるようになったことは本当にありがたいことなのだと思います。
ただ、ぼく自身、もともと声優志望でキャリアをスタートさせたわけではないので客観視できていると思うのですが、若い世代の声優の個性は、言い方は難しいですが、濃度が薄まったと感じています。同時にキャラクターの個性の差が分かりづらくなっていますね。
ビジネスである以上、外見の良いタレント、人気のあるタレントが前に出られるのは当然なので、そこに加えて実力が申し分なければ最高なのですが……。もっと中堅、ベテランを生かしていかなければ世界に誇る声優文化がどうなってしまうか、時々不安になりますね。
――御社の企画に出演される声優は実力のある方たちばかりですよね。
鈴木:はい。いまの声優アイドル化のブームはいつまでも続くものでもないと思っていますので、実力派の声優の皆さんが活躍する場を我々でも作っていければと考えています。
――今後の目標を教えてください。
鈴木:まず「ことだま屋」の知名度を上げていくことです。日本のサブカルチャーとして君臨させたいんです。
日本の声優の実力を国内のみならず、海外にも積極的に配信できるようにもなりたいですね。
ライブ感を大事にし、演技の迫力・面白さ、トラブルの解決方法も含め、声優という「職人」である俳優陣が生で見せる、最上級のエンターテイメントを提供したいんです。
それと、いまワークショップなども始めたので事務所との関係をどんどん深め、制作会社としてのノウハウも、もっともっと溜めていきたいです。そのため、将来的には劇場やスタジオも持てないか検討しているところです。
――御社でタレントをマネージメントすることは考えていないのですか。
鈴木:芸能事務所にすることは考えていないんですよ。ワークショップを通じて新人が育ち、後には各事務所に所属している信頼できる役者と関係を作っていければなと。
――役者としての目標はありますか。
鈴木:改めて映像関係の作品に挑戦したいですね。自分にしかないスタイルがやっと分かったので(笑)、いまならもっと楽しめるはずです。
――プロデューサーという一面が大きくなった現在でも、役者としての鍛錬はされているのですか。
鈴木:いまでも出られる作品については、感覚を鈍らせないためにも出演しています。芝居は楽しいものだと思っていますから、芝居をする上での悩みや葛藤などはありません。求められたら明日にでも舞台に立てる自信はあります。
それでも、役者として自分が前に出るのは…抑えています。最終的にプロデューサーとしても役者としても、どっちも必要とされる人間になりたいし、それを目指してはいますが、信頼できる右腕となるようなビジネスのパートナーができるまで、これからもプロデューサーとしての自分が前に出るでしょうね。
いまは仕事をすごく楽しくやらせてもらっていて、業界外の企業の経営者の方とかもお酒の席を一緒にしていただいたり、知り合いもかなり増えました。その中で勉強もいっぱいさせてもらっています。でも、役者仲間と役者として芝居の話を肴に飲んでいるときが「やっぱり素の自分なのだな」とふと感じることはありますね(笑)。
(文/構成=Leoneko)
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