オンナ万引きGメンが見た、「万引き凶悪地帯」――特攻服の少年&ブラジル人との死闘

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2018年05月26日 20:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Debs from Flickr(写真はイメージです)

 みなさん、こんにちは。万引きGメンの智美です。クライアントから指名していただけることは保安員にとって非常に名誉なことであるのは前回お伝えしましたが、今回は、私が初めて指名していただいて地方出張した際のエピソードを書こうと思います。

<オンナ万引きGメン日誌バックナンバー>
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 私の初指名は、長いこと可愛がってくださっている店長が、東京から中部地方に転勤されたことがきっかけでした。仕事の内容は、10日ほど現地のホテルに滞在して、そのエリアにあるスーパー数店舗を1日ごとに巡回するというものです。新幹線にも乗れるし、旅行気分で仕事ができる。お話をいただいた時には、今までのことが認められた気がして、とてもうれしかったです。

 出張初日、旅行気分が抜けないまま現場に入ると、その店の客層が私を現実に連れ戻しました。この地域は、南米系外国人が多く滞在しており、異国のような殺伐とした雰囲気が店内に充満していたのです。そのうえフードコートのある店は、たくさんの文字が刺繍されている派手な特攻服に、ポケットがたくさんついたニッカポッカのようなズボンをはいた少年グループのたまり場と化しています。まったく油断できない状況を目の当たりにした私は、得体の知れない不安を胸に、恐る恐る巡回を始めました。

 勤務開始からまもなく、特攻服姿の少年たちが分散して動き始め、そのうちの1人が私のいる菓子売場に向かって歩いてきました。その目を見れば相当にギラついており、たとえ初心者の保安員が見たとしても、絶対に万引きすると確信が持てるほどの眼力です。目を背けたくなるほどの恐怖を堪えて注視すると、複数のボトルガムを手にした少年は、それをニッカポッカに似たズボンの太い部分に次々と隠していきました。

 その後、流行のエナジードリンクやミルクティーのペットボトルをズボンのポケットに入れた少年は、ズボンの中に蓄積されたボトルガムが奏でるカシャカシャ音を気にすることなく、周囲を威嚇しながら出口に向かって歩いていきます。外に出た少年に声をかけるべく近づくと、店を出てすぐのところに、どこからどうみても暴走族であることがわかる異形のバイクに跨った少年が爆音を立てて待機していました。逃げられたらバイクのナンバーを覚えよう。そう心に決めて駆け寄った私は、後部座席に跨ろうとする少年の袖をつかんで声をかけます。

「ちょっと待って! お店の者ですけど、お金払ってないモノありますよね!?」
「ああん? なんだと、オラ?」

 声をかけると同時にオラついた少年は、肩を揺らして私に迫ってきました。待機していた少年もバイクを降りて、万引きした少年の背後から人殺しのような眼で私を睨んでいます。少年たちの勢いに慄き、助けを求められるか周囲を見回してみると、数人の通行人が足を止めてくれていました。その皆さんに、私が置かれている状況を理解してもらうべく、大きな声で少年に問いかけます。

「ズボンに入れたガムとかジュースのお金、払ってないでしょう?」
「そんなの知らねえよ。触んなよ、このブス!」

 振りほどこうとする少年にしがみつき、特攻服の袖を両手で大げさに引っ張ってみせると、状況をみていた体格の良い中年男性が「女の子相手に、なにをやっているんだ」と割って入ってきてくれました。男性の連れと思しき人は、警察に通報してくれているようです。

「なんだよ、おっさん。いいカッコしやがって」

 見た目が強そうな中年男性の登場に怯んだ少年たちは、勢いを失くすも、逃げる姿勢は見せずに悪態をつき続けました。ところが、所轄署の刑事さんが到着すると、その態度を一変させます。

「また、お前らか。こないだ帰ってきたばかりなのに、何やってんだ」

 案の定、地元で有名な不良少年だったらしい2人は、顔見知りの刑事さんを前に俯き、一言も発さなくなりました。つい先日まで、鑑別所にいたというので、現実に引き戻されてしまったようです。結局、2人とも逮捕となり、出張初日から残業する羽目になりました。このことは新聞にも載りましたが、周囲の助けがなければどうなっていたかわからないので、あまり喜べなかった記憶があります。

ブラジル人万引き犯に突き飛ばされて……

 そうそう、初回の出張では多数の商品を万引きしたブラジル人の男に突き飛ばされて、救急搬送されるという受傷事故も経験しました。この時の相手は、身長180センチくらいに見える大柄なブラジル人でした。たくさんの商品をカートに載せて、お金を払わないまま外に出る「カゴヌケ」と呼ばれる手口で、お米やビールケース、牛肉、惣菜など、1万6,000円相当の商品を持ち出したのです。

 外国人は基本的に逃げるので、それなりの心構えをしてから声をかけます。しかし、どんなに注意しても、大柄な男性に本気を出されれば、どうにもかないません。私が声をかけると同時に、男は商品を載せたカートを振り回して暴れ、執拗に上着をつかみ続ける私を突き飛ばして逃走しました。そのまま転倒して路面に後頭部を打ちつけたことで、裂傷を負い流血してしまいましたが、逃げられた悔しさや痛みよりも盗まれた商品のほとんどを取り返せた喜びの方が強かったです。

 こうした場合、万引きが事後強盗扱いとなり、警察は緊急配備を敷いて犯人の捜索にあたります。救急車が到着するまでの間、複数の刑事さんを相手に現場で状況を説明しながら実況見分を行い、救急車の車内でも同乗してきた女性警察官から詳しい事情を聞かれました。病院での応急処置を終えても、帰宅することはできません。いつもと同じように警察署に行って、被害届や調書を始め、さまざまな書類を作らなければならないのです。

 いつもより丁重な感じで刑事課の取調室に案内されると、一番偉くみえる課長さんらしき刑事さんが入ってきて、不自然な状態で壁にかかる黒いカーテンをつまみながら言いました。

「このカーテンの向こうに、被疑者と見られる男が座っています。向こうからは見えないので、この男が犯人かどうか確認してもらえますか」

 カーテンが引かれると、いわゆる「面通し」に使う暗いガラス窓が現れ、その窓を覗くと、私を突き飛ばして逃走した男が、刑事さんと向かい合って座っているのが見えました。

「この人に、間違いありません」

 どこで捕まえたのか刑事さんに尋ねると、私が病院を出発するくらいの時間に、現場近くの公園で水を飲んでいたところを発見されたということでした。

「では、そのまま見ていてください」

 そう言って隣室に向かった課長さんは、腕時計を見て男に時間を伝えると、部下の刑事さんに命じて手錠をかけさせました。恐らく男の手に手錠がかかるところを私に見せることで、被害感情を和らげようとしてくれたのでしょう。地方の刑事さんは、なかなか粋なことをやるものだと、少し感動しました。

 このことは地元のテレビや新聞などで報道されましたが、自分が病院送りにされていることから喜びはありませんでした。いま思うとぞっとするばかりで、死ななくてよかったと心から思います。

文=智美
監修=伊東ゆう(ジーワンセキュリティサービス株式会社)

万引きにお困りの方、智美も行きます!
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