「こんな偏差値、本当に俺の子か?」中学受験生の母が、“無理解な夫”との離婚を決めたワケ

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2018年05月27日 20:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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chugakuzyuken06

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 「中学受験をすると離婚が増える」とは筆者が放った格言であるが、現実問題として、中学受験は、子どもとの“親子関係”よりも、むしろ“夫婦関係”の方にダイレクトに影響を及ぼすものだと確信している。

 中学受験は、今や《ファミリープロジェクト》の観を呈する。一朝一夕では太刀打ちできないものと化しているため、数年にわたる“一家総出の一大プロジェクト”として立ち向かうことが、もはや普通になっているのだ。家族一丸での中学受験は、喩えるならば“戦場”に近いものがあると感じる。知識という武器を得て、実際に志望校という難敵に挑む“兵士”は子どもなのだが、そこには後方支援をする部隊がいなければ、とてもじゃないが戦いを続行することは不可能だ。

 後方支援活動は多岐にわたるが、夫婦のどちらかが“安全地帯”にいて、我関せずの姿勢を崩さなかったり、逆に“戦にまったく関係しない問題”を起こした日には、“兵士”の士気に関わりかねない。後方支援任務に孤軍奮闘するその夫婦の片割れの怒りは、とどまるところを知らないだろう。

「バカは何やってもバカ」と言い放った夫に怒り

 タケル君の母・みどりさんも、子どもの中学受験に対する夫婦間の温度差に悩まされた過去を持つ。彼女はある名門中高一貫校出身で、その良さを肌身で感じていたため、「自分に子どもが生まれたら、是非とも中学受験をさせよう」と、昔から心に決めていたそうだ。

 しかし、みどりさんの夫は「公立中学→公立高校→国立大学」という経歴の持ち主で、塾に通った経験はなく、どちらかと言えば、中学受験には反対派の立場であったらしい。

 みどりさんは筆者に、当時の様子をこう語ってくれた。

「確かに夫は『12歳に受験は不要』と言っていて、『もし、どうしてもと言うのならば反対はしないが、その代わり、金も出さない。俺に迷惑をかけない範囲でやってくれ』というスタンスでした。でも、夫が育った田舎の中学とは違い、この地域は、学区の中学が荒れていて、そのせいか中学受験熱が高い。息子のタケルも『あの(公立)中学には行きたくない』と言っていたんですよ。でも夫にいくら今時の事情を話しても、一切、聞く耳は持たなかったですね。それで、私も働いているので、タケルの学費くらいは自分の稼ぎでどうにかできるだろうと思い、塾に通わせ始めたんです」

 しかし、タケル君の成績は思うようには伸びてくれず、そこで、みどりさんはタケル君の家庭教師役も買って出て、深夜まで弱点科目の補強に勤しむ毎日だったという。

「私も契約社員とはいえ、フルタイムで働いていたので、タケルの勉強を見て、家事も仕事もとなると、オーバーワーク気味になってしまい……。家庭は常にギスギスした雰囲気で満ちていました」

 みどりさんは何度か夫に「日曜日は家事をまとめてやりたいから、模試の付き添いくらいはやってほしい」と頼んだそうだが、夫の返事はいつも「俺に迷惑はかけないって約束だよな?」だったそうだ。そして、妻子を残し、平気で趣味のゴルフに出かけていたという。

 そして、タケル君が6年生の12月、みどりさんにとっては決定打となる事件が起こる。

「夫がタケルの模試の結果を見て、『塾に行っててこれか!?』と、せせら笑ったんです。『バカは何やってもバカなんだよ。やるだけ無駄!』とまで言ってきて、何もしないくせに、私と息子を蔑むような態度を取る夫が許せませんでした。当然、私は『タケルはこんなに頑張っているのに、その言い方はないでしょう?』って猛抗議したんですが、そしたら、偏差値が何たるかを知りもしないくせに、『こんな偏差値、俺は取ったこともない。本当にコイツは俺の子か?』って」

 そのまま夫婦は大喧嘩に発展したそうだが、一方でタケル君は “今が大詰めの時”ということをわかっていたらしく、戦火に巻き込まれることなく自室に消えて、その日も淡々と課題をこなしていたそうだ。

 しかし、夫婦の諍いはそれだけにとどまらなかった。いよいよ受験本番が始まると、みどりさんにとっては許しがたい夫の言動が炸裂したのだという。タケル君が快進撃を見せて、本命校以外にも超難関校であるK学園に合格を決めた時、なんと夫が「タケル、良くやった! すごいじゃないか? さすがパパの子だ!!」と発言したそうだ。

 「タケル! K学園に行くよな? 当然、K学園だよ!」と言いながら、勝手に入学手続きをしようとした夫に、心底、みどりさんは嫌悪感を抱いたという。

「タケルは、自分で『僕はS学園に行きたい』とずっと言っていて、そのためにこの3年間、努力をし続けていたんです。それを中学受験の偏差値が何たるかも知らない夫がいきなり出て来て、まるで己の手柄のように言うんですから、軽蔑を通り越して、どこか違う星の人が何かを吠えているくらいにしか思えませんでしたね……」

 結局、タケル君は父親の猛反対を押し切って、S学園に入学し、念願だった部活動に勤しみ青春を謳歌しているのだが、みどりさんとその夫は、タケル君の中学入学早々に離婚している。

受験が離婚の引き金になったことは否めないが……

 筆者が、高校生になったタケル君に当時のことを聞いたところ、彼はこんな胸の内を明かしてくれた。

「そうですね、夫婦喧嘩はしょっちゅうだったんで『ああ、また始まった』っていう印象しかないです。なるべく、火の粉をかぶらないようにしないといけないので、逆に当時は勉強に集中する道しか思い付かなかったんです。これは僕の場合だけかもしれないですけどね(笑)」

 タケル君いわく、当時、「親父は会社で責任あるポジションに付いたばかりでプレッシャーもあったと思います」という。

「疲れて帰って来ても、テレビをつけてはいけないとか、そんな雰囲気でしたから、家庭で安らげないのは、親父にとってきつかったのかもしれません。離婚がショックだったか、ですか? それは、まあ、そうですが、今では両親とも落ち着いて、顔を合わせても喧嘩はしませんし、2人の仲は以前より格段に良いので助かっています。2人が別れたとしても、僕にとっての両親には違いない。受験が引き金になったことは否めませんが、僕はどちらかの親が悪いとも、ましてや受験が悪いとも思っていません。これからも、僕は親父ともお袋とも仲良くやっていきますし、2人とも大事にしたいと思います」

 夫婦のことは夫婦にしかわからないものであるが、中学受験は時として「夫婦の踏み絵」と化すことがある。タケル君のように“大人の対応”をしてくれる子ばかりではないので、やはり中学受験に踏み切る前に、予想される負担などを十分に考慮しつつ、夫婦間でコンセンサスを得なければならないと、筆者は警鐘を鳴らしたいと思っている。
(鳥居りんこ)

このニュースに関するつぶやき

  • この父ちゃん、会社でも「部下の失敗は部下のせい、部下の手柄は俺のお蔭」を無意識にやる人だったんだろうなあ。離婚から学んで良き上司になったか、降格されて肩の荷が降りたか、ちょい興味あるな。
    • イイネ!10
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