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ロヒンギャ難民に迫るコレラと洪水の新たな脅威

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2018年06月13日 17:34  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<虐殺とレイプの嵐から逃れて粗末なテントで暮らすロヒンギャの女性や子供たちにコレラと洪水の悪夢が襲い掛かる>


半年ほど前、妊娠中だったルキアは着の身着のまま故郷の村を後にした。親族のうち、生き残ったのは彼女と老いた母親と甥だけ。3人は3日間、昼も夜も歩き続け、国境を越えてミャンマーからバングラデシュに入った。村が襲撃されて「何もかも焼かれた」と、ルキアは話す。「夫も兄弟も父も......」


昨年夏以降にバングラデシュに逃れたミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャは70万人近く。大半は女性と子供だ。


難民の大量発生のきっかけは、ミャンマー軍が西部沿岸のラカイン州で行った過激派の掃討作戦だ。兵士らがロヒンギャの村々を襲撃し、男たちを殺して女たちをレイプした。国連が派遣した専門家は「ジェノサイド(集団虐殺)の特徴を示す」状況だと報告した。


現在、難民の大半はバングラデシュ南東部のコックスバザール県の海岸で、急峻な斜面に竹と防水布でテントを立てて暮らしている。ルキアはテントで母親の介添えで出産した。


筆者が難民キャンプを訪れたときは、生後3カ月の子供が下痢をしていたため、彼女はキャンプ内の仮設クリニックで診察の順番を待っていた。


もうじきモンスーンの季節が始まる。豪雨で地滑りや鉄砲水が頻発し、多数の死者が出て感染症がはびこる季節だ。


バングラデシュでは毎年この季節、サイクロン(熱帯低気圧)の直撃によって大きな被害が発生するが、難民キャンプが位置するのは特に暴風雨の被害を受けやすい一帯だ。暴力の嵐から逃れてきた人々が今度は自然の猛威に直面する――援助関係者は迫りくる二重の悲劇に危機感を募らせている。


「最悪の場合どうなるか、想像もできない」と、難民キャンプの衛生状態を継続的に調査している国連スタッフのディディエ・ボワサビは言う。コレラと急性水様性下痢症はバングラデシュの風土病ともいうべき疾患だが、特に雨期に発生率が高まる。


難民キャンプと難民受け入れ地域では、コレラの予防接種キャンペーンが2回実施された。だが接種率は十分ではない。キャンプの衛生状態は劣悪で、飲料水も汚染されており、難民は密集した状態で暮らす。豪雨になればトイレのふん尿があふれ出すため、コレラの流行は避けられそうにない。


「予防接種にばかり力を入れているが、安全な飲料水の確保が先決ではないか」と、国際NGOウォーターエイドのバングラデシュ支部長で医師のカイルル・イスラムは訴える。


数十の国際援助機関をはじめ、ロヒンギャ難民の支援に携わる130余りの組織が共同でまとめた援助計画書は、現状の密集した生活環境で「感染症が流行すれば、何千人もの死者が出る恐れがある」と警告している。


筆者はクトゥパロン・バルカリ難民キャンプ内にある国境なき医師団の仮設クリニックを訪れ、コレラの流行を想定した準備と対策を見せてもらった。脱水症状を緩和する経口補水液がストックされ、救急治療センターには排便用の穴を空けたベッドが並ぶ隔離スペースが設けてあった。


「問題は国際社会の無関心」


猛暑のなか、難民は砂袋やプラスチック、竹などを集めて、テントが豪雨で流されないよう補強作業に余念がなかった。だが洪水になれば、粗末なテントなどひとたまりもない。「モンスーンが来れば、複合災害を覚悟しなければならない」と、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のキャロライン・グラック広報官は言う。「1日や1週間で終わる危機ではない。4、5カ月、もしかしたら半年も続く」


バングラデシュにはサイクロンに備えた早期警戒システムがあるが、難民の避難計画は立案されていない。高台への避難は論外だ。高台は少なく、人間が多過ぎる。かといって頑丈なシェルターの建設には行政当局が及び腰だ。


強固な恒久的施設を建設すれば、難民の定住を認めるサインと受け取られかねない。今年末に総選挙を控えるなか、シェイク・ハシナ・ワゼド首相率いる現政権がそんなリスクを冒すはずがない。ロヒンギャ難民への世論の反発が高まっている今はなおさらだ。


実際、ハシナ首相は「不満がくすぶり、職がなければ、人間は暴力的になるもの」だから、ロヒンギャ難民の滞在が長引けば治安悪化の懸念が高まると、国内メディアに語っている。


バングラデシュとミャンマーの両政府はロヒンギャ難民の帰還について昨年11月に合意に達し、今年1月に帰還を開始する予定だったが、大半の難民が帰還をためらっている(ミャンマー政府は5月末、帰還希望者58人が国境近くの受け入れセンターに到着したと発表したが、それ以前に帰還したのは1家族だけだ)。現在のミャンマーの状況では、「自主的で安全な、尊厳のある持続可能な帰還」は望めないとして、国連難民高等弁務官はミャンマー政府に改善を求めている。


ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は最近、ロヒンギャの大量帰還に向けた準備のために、国連の人権・開発機関の代表の訪問受け入れを表明した。だが人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのミーナクシュ・ガングリーは、入居施設などのインフラを整備するだけでは帰還は進まないとみている。


ロヒンギャは法的地位と公民権、安全な生活の保障、そして自分たちの家族を殺した兵士らの裁判を求めている。だが虐殺についてはミャンマー軍が内部調査を行い、これまでに兵士7人に懲役7年の刑が下されただけだ。


帰還に代わる措置として、バングラデシュ政府は難民の移送計画を打ち出した。ベンガル湾内の無人島に6月までに10万人を送り込むというのだが、ここは06年に海面から現れたばかりの砂州で、施設が建設されているとはいえ、移送された人々は孤立無援でサイクロンの直撃を受けることになる。


迫りくるモンスーンを前に、援助機関は資金不足に手足を縛られている。3月に発表された先の援助計画書では、今年必要な資金は9億5000万ドルとされているが、これまでに調達できたのはその16%にすぎない。


問題は国際社会の無関心だと、ガングリーは言う。「悲惨な状況を見に来て口先で同情しても、具体的な動きにつながらない。観光気分の視察ツアーはもうたくさんだ。行動を起こしてほしい」


国際社会はロヒンギャを見捨てるのか。もう時間は残されていない。


From Foreign Policy Magazine


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[2018.6.12号掲載]


ソフィー・カズンズ


このニュースに関するつぶやき

  • この辺りの雨がヒマラヤ山脈にぶつかって、日本の梅雨になります、都内で買い物や食事すると大抵外国人の方に接客されます。潤いはどんどん然るべき所に流してあげれば皆豊かになると思います。
    • イイネ!5
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  • 帰還してまた迫害を受けるなら「戻りたくない」と誰だって考えるだろう。彼らが「戻らずに」生きる道を見つけ出してはやれないものだろうか。
    • イイネ!6
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