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ロシアW杯は大丈夫? あるある国歌斉唱トラブル 曲のかけ間違いや“歌詞”論争まで

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2018年06月14日 16:02  AERA dot.

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写真国歌斉唱をする日本代表=諫山卓弥撮影 (c)朝日新聞社
国歌斉唱をする日本代表=諫山卓弥撮影 (c)朝日新聞社
 14日に開幕するサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会。注目はやはり試合の勝敗と選手たちが見せる華麗なプレーだろう。しかし、スポーツの国際大会で試合前や表彰式に流れる国歌に注目すると、意外な発見があるものだ。国際交流促進を目的に活動する「国歌の輪プロジェクト」代表の淺見良太さんがリポートする。


【写真】ウルグアイ代表選手の有名すぎる“悪行”

*  *  *
■意外と起きるかけ間違い ウルグアイ国歌は2年連続

 国歌は国を象徴する歌だから間違えてはいけないものだが、しばしば国際試合で国歌の流し間違いが起こる。

 2016年、アメリカで開催されたサッカーの国際試合コパ・アメリカ、メキシコ対ウルグアイ戦の前の国歌斉唱で、ウルグアイ国歌を流すはずがチリ国歌が流れてしまうという事件があった。ピッチに並んでいたウルグアイの代表選手たちはすぐに間違いに気付き困惑の表情を見せたり無表情で前を向き続けたりし、ウルグアイサポーターがいるスタンドからは大きなブーイングが起こった。しかし途中で音が止まることはなく、そのままチリ国歌が流れ続け、その後もウルグアイ国歌が改めて流されることなく試合が行われてしまう。

 大会組織委員会はすぐに謝罪を表明したものの、試合は1−3でウルグアイが敗北。国歌のかけ間違いが原因ではないにしろ後味の悪いものになってしまった。

 しかしウルグアイの悲劇はここで終わらない。翌年、韓国で開催されたU−20W杯では日本対ウルグアイの試合前の国歌斉唱で、ウルグアイ国歌を流す所でまたしてもチリ国歌が流れてしまう。ウルグアイにとって悲劇でしかない。さすがにこの時は主催側がミスに気付き日本の国歌斉唱後、改めてウルグアイ国歌が流された。ちなみにW杯では今月15日にウルグアイがエジプトと対戦する。さて今年はどうなるのか……。

 このような悲劇に見舞われているのはウルグアイだけではない。リオデジャネイロ五輪での日本対ナイジェリア戦ではナイジェリア国歌ではなく、ニジェール国歌が流れて話題になった。

 こういった間違いはサッカー以外のスポーツでも起きている。昨年2月、フェドカップ(テニスの国際試合)ではドイツ国歌のタブーに触れた。同国の国歌『ドイツの歌』は元々歌詞が3番まであるが、国歌として認められているのは3番のみ。1番、2番が歌われることはない。特に1番は「ドイツ、ドイツ、全ての物の上にあれ この世の全ての物の上にあれ」と覇権主義と取られかねない内容で、実際ナチスドイツ時代には積極的に歌われていたため公の場で歌うことはタブーとされている。そんなタブーを知らないアメリカ人男性歌手が1番を試合前に熱唱してしまったのだ。ドイツ人選手や観客はすぐに気付き、歌手に負けじと3番を彼の歌声に被せて熱唱した。

 更にひどいのが、2012年にクウェートで行われた射撃選手権大会での表彰式。優勝したカザフスタン女性選手を讃えるため流れたのはカザフスタン国歌ではなく、卑猥な言葉を含むパロディーのカザフスタン国歌だった。この歌は同国を笑いのネタにしたアメリカのコメディー映画『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』の作中で使われたもので歌詞にはこんな言葉も。

「カザフスタンの売春婦は地域でもっとも清潔 トルクメニスタンを除いて」

 本当に国際大会で流されてしまったのかと疑いたくなるほどひどい内容だった。歌詞が英語だったため表彰台に立っていた女性選手が内容を理解していたかは定かでないが、自国の国歌とは違うと分かっていながら表情を変えず右手を胸に当てながら歌を聞いている姿は切ない。担当者がインターネットからダウンロードした曲を確認せずに流してしまったのが原因だった。この出来事にカザフスタンから猛抗議があり、後日改めて表彰式が行われた。

 表彰式は選手たちが試合に向け日々努力した成果をかみしめることができる大事な場。そこで、このような間違いが起こってしまうのはとても悲しいことだ。2020年には東京でオリンピックが開催されるが、このような間違いが起こらないことを願う。

■カナダは歌詞変更「男女平等」理由に

 国歌は"変わらないもの"というイメージはないだろうか。しかし世界に目をやると意外と変化やその兆しが見える。

 2012年1月、オーストリアが男女同権の立場から、歌詞の「偉大な息子たちの故郷」の部分に「娘たち」を加え「偉大な娘たち、息子たちの故郷」に変更した。2015年にはスイスで国歌を変更したいという民間団体が新国歌候補を決めるインターネット投票を行い、国歌変更の手続きを進めている。昨年はモーリタニアが国旗と国歌を変更。クック諸島では議会が首相に歌詞変更を提言している。

 今年に入るとサッカーW杯で日本代表が対戦するセネガルで、2019年の大統領選に出馬する現職の対立候補が国歌変更を公約に挙げている。

 こうしてみると変更の動きは結構あるが、その中でも今年もっとも話題になったのはカナダ国歌の変更だろう。2月、カナダ国歌『オー・カナダ』の歌詞を一部変更して性別を問わない内容にする法案が成立した。具体的には「True patriot love in all thy sons command(汝の息子すべてに流れる真の愛国心)」の後半、「in all thy sons command」という部分を「in all of us command」に変更する。

“sons”というのが男性しか指しておらず、女性が含まれていないという意見が以前からあり、特にオリンピックにおいて、金メダルを獲得した女性が表彰台で「全ての"息子"が持つ愛国心」と歌うことに疑問の声があった。法案が上院を通過したことを受けて、元パラリンピック車椅子競技の選手で14個の金メダルを獲得したケベック州のシャンタル・プチクレール上院議員は

「私は何度も表彰台に上がる特権を持っていたが、“わたしたちに流れる真の愛国心”と歌う機会はなかった。 彼ら(平昌五輪参加選手)が表彰台に立っている時の想いを想像する。それは素晴らしい瞬間です」

とコメント。平昌冬季五輪に向かうカナダ代表選手たちが新しいバージョンで歌うことに嫉妬しているとも語った。

 これまで国歌が変更される時は国の体制が変わる時であることが多かった。しかし現代においては男女平等など社会の変化に合わせて変更する流れができつつある。

 さらにチェコでは同国のオリンピック委員会が今年3 月、短いと45 秒しかない自国の国歌が短すぎて金メダリストが表彰台で脚光を浴びるには短かすぎるから変更してほしいと提案して話題になった。

「ヨーロッパではおそらく2番目に短い国歌でしょう。(他国の国歌の)平均は80秒ですよ。アスリートたちが彼らの成功を楽しむ時間がないのは残念だ」

とチェコオリンピック委員会のジリ・ケヴァル会長はコメントしている。

■スペインは歌わない、南アフリカは5言語

 サッカーのスペイン代表選手たちの国歌斉唱を見ると、口を開けず流れるメロディーに聞きいっている。実際、スペイン人の友人に「国歌を歌ってほしい」とお願いするとメロディーを鼻歌で歌いだした。理由を聞くと歌詞がないからだという。スペイン国歌『国王行進曲』は数少ない歌詞のない国歌だ。非公式の歌詞はあるが公式の歌詞がない。理由は中央政府が歌詞をつけるたびにバスクやカタルーニャなど独立を求めている地域から不満が出るためだ。

 歌詞がない国歌としてボスニア・ヘルツェゴビナも挙げられる。『ボスニア・ヘルツェゴビナ国歌』は歌詞がないことから別名『間奏曲』とも呼ばれている。歌詞が付かない理由は地域の問題ではなく民族問題だ。同国はボシュニャク人、セルビア人、クロアチア人が共存しているが民族間の対立が残る。歴史的背景が大きく関係していることに加え、それぞれ宗教が違う点や多くの政党が民族ごとに構成されているなど民族間の対立がとても複雑だ。過去、歌詞をつけようと何度も試みられたが、そのたび内容に対して反対の声が出て断念されてきた。最近だと2009年、サッカーW杯欧州予選において同国が本大会出場をかけたプレーオフに初めて進出したことをきっかけに国内で歌詞をつけようという動きが強まった。活動に賛同した著名人も多く、その中には過去日本代表の監督を務めたイビチャ・オシムもいた。しかし一部の政党が承認を拒否し、議会で制定案が否決されてしまっている。

 国歌の歌詞から見えてくるのは対立ばかりではない。ラグビーの強豪国、南アフリカ共和国国歌『南アフリカの国歌』はコサ語、ズールー語、ソト語という主に黒人が古くから使っている言語で歌われる『神よ アフリカに祝福を』と、英語、アフリカーンス語で歌われる『南アフリカの叫び声』をそのまま繋げて歌われる。二つの曲を五つの言語で歌う国歌はどのような経緯で誕生したのか。

 前半部分の『神よ アフリカに祝福を』は、のちに大統領となるネルソン・マンデラがアパルトヘイト政策反対運動を行っていた際、彼が率いた団体のシンボルとして歌われていた。一方、後半に歌われる『南アフリカの叫び声』はマンデラが大統領に就任するまで南アフリカの唯一の国歌だった。同国ではアパルトヘイト政策と呼ばれる白人優先の人種差別政策が行われ、少数派の白人が経済や政治などの要所をおさえて国を動かしていた歴史がある。それは国歌の歌詞が旧宗主国の言語であるアフリカーンス語(オランダ語のアフリカなまり)や英語(イギリス)であることからも知ることができる。

 この二つが一緒になったのはアパルトヘイト政策を廃止したマンデラが大統領になった後だ。マンデラが南アフリカにおいて黒人初の大統領に就任した際、大きな問題にぶつかる。それはアパルトヘイト政策によって確執が決定的になった白人と黒人の関係。もし白人を排除すれば黒人の不満は解消されるかもしれないが、経済や政治の要所を担っていた人材を失い、国の損失は計り知れない。そして何よりも南アフリカに住む白人たちは占領者ではなく、南アフリカ生まれの、れっきとした南アフリカ人ということもあり、マンデラは白人、黒人の共存の道を選んだ。彼は大統領就任演説でこのように国民たちに語り掛けている。

「私たちは一つの契約を結んだ。黒人も白人も、全ての南アフリカ人が胸を張って歩くことができ、何も恐れることなく、人間としての尊厳についての不可侵の権利が保障される国。国内でも外国とも平和な虹の国を築こうという契約を」

 黒人たちが歌っていた歌と白人中心社会で歌われていた国歌をひとつに編曲することで、人種を超えた国民の融和、虹の国の実現という希望を国歌に込めた。

 多くの国際大会において試合前に流される国歌からその国の歴史や文化、社会体制、時には社会情勢を知ることができる。今月から始まるサッカーW杯では多くの国歌が流れるだろう。試合が始まる前、少し耳を傾けてほしい。そして歌っている選手やサポーターを見てほしい。どのような歌を彼らがどのように歌っているのか。もしかしたら、その国の新しい側面を知ることができるかもしれない。(文/淺見良太)

このニュースに関するつぶやき

  • スペイン国歌のメロディかっこいいのにね。
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