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メーカーから依頼殺到 お客が思わず引き寄せられる試食販売の世界

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2018年07月13日 06:12  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

写真試食販売をするスタッフ
試食販売をするスタッフ

 スーパーで買い物をしていると試食販売をするスタッフを見かけることがある。メーカーから依頼を受けて店頭で新商品をアピールしているのだが、「試食だけして買わないのは申し訳ない」「立ち止まると商品を買わされるかもしれない」と考えて、試食をためらった経験のある人は多いだろう。



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 実はこの試食販売の世界には一般的なスタッフの40倍以上売る“凄腕”がおり、食品メーカーもその高い販促効果に注目しているという。今回は、知られざる試食販売の舞台裏を紹介する。



●新商品発表会に現れた“凄腕”スタッフ



 突然だが、まずは記者の個人的な体験談を紹介させてもらいたい。



 とあるイオンの店舗で行われた報道向けの新商品発表会に参加した際、売り場を撮影するために鮮魚コーナーに足を運んだ。鮮魚コーナーには女性の試食販売スタッフがいたのだが、声のトーンや語り掛けるしぐさに記者は衝撃を受けた。



 「なぜだろう。試食だけして立ち去っても嫌な顔をされないように感じる」



 後日、イオンの広報担当者に問い合わせをしてみると、そのスタッフは、メーカーからの依頼を受けて、主にイオンの店頭で試食・推奨販売を手掛ける「イオンデモンストレーションサービス」(以下、ADS)の“凄腕”スタッフだったことが判明した。普段は販売スタッフの指導をする立場だが、新商品発表会のような“ここぞ”というときには自ら店頭に立つのだという。



●小売業界では「マネキン」と呼ばれてきた



 “凄腕”スタッフの名前は鈴木直美氏で、勤続9年目のセールスアドバイザー(SA)トレーナーだ。ADSでは試食・推奨販売スタッフのことをSAと呼んでおり、全国に約1600人いる。SAを教育・指導するSAトレーナーは全国に32人おり、鈴木氏はそのうちの1人だ。



 小売業界では昔から試食販売を行うスタッフのことを「マネキン」と呼んでいた。商品をもってマネキンのように立っている姿からその名がついたと推測されるが、ADSでは商品の良さを説明して顧客に納得して購入してもらうことを目的にSAという名称を用いている。



 鈴木氏は通常のSAならば1日100〜200個販売できれば上出来の「お魚ステーキ」を1000個以上販売した実績がある。さらに、丁寧な商品説明が必要なことから難易度が高いオリーブオイルを通常の40倍近く販売したこともある。



 ADSの調査によると、顧客の80%は「試食をすると買わされる」と考え、試食コーナーの前を通り過ぎるという。SAはメーカーから依頼を受けた商品を顧客に推奨するのが仕事だが、警戒感を解き、試食してもらい、購入につなげていくにはどんなコツがあるのだろうか。



●お魚ステーキを1日で1000個売る方法



 ブリやタラのお魚ステーキを例に、どうすればたくさん売ることができるのか聞いてみた。



 はたから見ると気付きにくいのだが、ホットプレートで魚を焼きながら顧客に商品説明をするのは難しいという。慣れないSAだと焼く作業に気を取られてしまい、満足な商品説明ができない。さらに、魚の焼き加減や提供する量も重要で、十分な量を用意して温かいうちに顧客に食べてもらわなければ、本当のおいしさが伝えられない。



 購入する顧客の数には限りがあるので、1人の顧客にどれだけ多くの商品を買ってもらうかもポイントとなる。鈴木氏は「魚の切り身のような商品はセールストークが大事です」と説明する。「小学生の子どものいる家庭」「高齢者だけの家庭」といったように、顧客の家庭状況を瞬時に見抜き、提案する内容を変えているのだ。子どもがいる家庭ならば「お弁当作り」をテーマにしてコミュニケーションをとる。弁当のおかずとして便利なことや、冷凍保存可能なことを伝えれば、顧客は自然と何個も購入するというわけだ。



 スーパーを訪れる主婦や高齢者の8割は献立を決めずに来店しているというのが業界の通説だ。「今夜の夕食をどうしよう」「お弁当の具をどうしよう」と悩んでいる顧客にいかに魅力的な提案ができるかどうかがSAの腕の見せ所だ。



 このような地道な提案を繰り返すことで、1人当たりの購買点数が増え、結果的に1000個売れるようになるという。



●顧客の心を引き付ける実演テクニック



 顧客の目を引き寄せるためのテクニックもある。



 例えば、ある菓子メーカーから「バニラアイスを売ってほしい」「砕いたチョコチップクッキーとバニラアイスを一緒に食べる提案をしてほしい」という依頼があったとする。



 鈴木氏は事前にクッキーを砕いておくのではなく、顧客の目の前で実際に砕いてみせる。そうすれば、自宅で簡単に作れることが視覚的に伝わるだけでなく、子どもの注意を引くこともできる。何より、鈴木氏自身が楽しそうに砕いて見せるというのがポイントのようだ。



●テクニックより大切なもの



 「『商品を買ってほしい』と考えすぎたり、『楽しくない』と思っていたりするとお客さまにすぐに察知されてしまいます。こちらの気持ちばかりを押し出してはダメです」



 鈴木氏によると顧客に購入してもらうにはテクニックも大事だが、売る側の“メンタル”が最も重要だという。



 ADSでは、商品のセールストークをまとめた資料や、推奨する商品の概要を記した指示書を事前に配っており、当日までに読み込めば誰でも必要な情報をインプットできるようにしている。さらに、あるSAの成功例を翌日以降に共有できる仕組みも整えている。



 しかし、そういった“マニュアル”が充実すればするほど、「しっかり勉強しなくてはいけない」「売らなくてはいけない」というプレッシャーがかかり、自然な接客ができなくなるSAもいる。また、ベテランのSAであっても、体調が悪かったりスランプに陥っていると、表情に出てしまい、思ったような成果が出せなくなる。



 「笑顔になる、声をしっかり出す、姿勢を正すというのは基本中の基本です。お客さまはリラックスして来店されるので、スタッフもニコニコしていたほうがいいですよね。しかし、肩に力が入ったり、不機嫌だったりするとその基本がおろそかになってしまいます」



 つまり、いかにして基本を徹底し、顧客とSAとの間にあるハードルをなくすかが大切なのだ。



 鈴木氏は新人だけでなくベテランも指導するが、細かいテクニックを教えることはほとんどない。むしろ、リラックスさせるために、SAの好きな食べ物を聞き出したり、その場で10回垂直飛びさせたりするという。SAの足りないところを注意すると気分を悪くしてしまうという理由もあるが、自分の力を出し切れるような状態にすることが最も大事だと考えているからだ。



 こういった鈴木氏の話を聞いていると、“メンタル”が結果を左右するアスリートの世界に通じるものがあるように感じてくる。



●引き合いが増える実演のニーズ



 実はADSに寄せられるメーカーからの試食販売の依頼は「昨対比でかなり増えており、断らざるを得ないこともある」(エリア事業部南関東エリア統括マネジャーの大野隆司氏)。試食販売はスーパーの主要顧客である主婦やシニア層に大きな販促効果があり、メーカーも近年特に注目しているという。



 共働き家庭が増えたことで、定期宅配やネットスーパーの売り上げは伸びてきている。しかし、店舗での買い物を楽しみにしている高齢者は一定数存在しており、高齢化の進展でその数は今後ますます増える。ADSに限らず、試食販売のニーズは衰えるどころか増えることが予想されるのだ。



 試食販売というと「商品を持ってただ立っている」イメージが強いが、実は顧客に購入してもらうためにさまざまな工夫をする多くのスタッフがおり、その効果に注目している企業も増えていたのだった。


このニュースに関するつぶやき

  • 大学生のときこのバイトやってたなー! 関西一円回れてちょっとした冒険気分で楽しかった!会社から「全然売れない頼む来てほしい!」と言われて行ったお米の試食販売で完売したのは良い思い出
    • イイネ!0
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  • 柳原可奈子が試食販売のバイトをやってた時にスーパーから指名が入る程の腕前だったそうだが、当の本人は「私はただ試食品を食べながら宣伝していただけですよ」だそうだ。
    • イイネ!27
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