インドネシア、首都の強盗摘発強化作戦 10日間で320人逮捕、警官発砲で11人が死亡

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2018年07月14日 21:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<8月のアジア大会開催を控えて首都ジャカルタの犯罪取り締まりが強化された。抵抗すれば射殺止むなし、という「殺しのライセンス」まで出されたが──>


インドネシアの首都ジャカルタの治安を預かる首都圏警察は、7月3日にスタートした首都圏での強盗、窃盗、ひったくり、スリなどのいわゆる路上犯罪を集中的に捜査取り締まる「特別捜査強化作戦」の成果として532件の事案を摘発、捜査。その結果320人の容疑者を逮捕し、抵抗や逃走を試みた容疑者52人に対し警察官が発砲し、11人が死亡したことを7月13日明らかにした。


これは首都圏警察のアルゴ・ユウォノ報道官が明らかにしたもので、ジャカルタでは8月18日から日本の選手団も参加する「アジア大会」が予定されていることから、選手や応援団、観光客が安全にジャカルタ市内を移動、観光できるようにと首都圏警察トップの肝いりで始まった「特別捜査強化作戦」の成果を示したものである。


7月3日以降、ジャカルタ市内には管区警察官からなる13チーム、首都圏警察官で構成される3チームの計16チームの警察官1000人が投入され、市内各所で警戒、摘発を続けている。


そして投入された警察官に対しては首都圏警察のトップから「容疑者が事情聴取や逮捕の際に抵抗したり、逃走あるいは武器を使用したりした際には断固とした措置を現場で取るように」と発砲、射殺も止むなしとの厳しい姿勢への指示が出されていた。


射殺は11人、いずれも適正な銃の使用


こうした警察官への「殺しのライセンス」発効については7月5日掲載の「インドネシア、首都の強盗増加に強硬姿勢『抵抗すれば射殺!』」でも報告しているが、警察官の射撃の腕の問題があり、不安や懸念の声が上がっていた。


今回発表された数字をみると、容疑者52人に対して警察官が発砲している。そしてそのうちの11人が結果として死亡、残る41人の容疑者は発砲が威嚇射撃に留まったのか、銃弾を受けたものの死亡に至らなかったのか、詳細について警察は明らかにしていない。


ただアルゴ報道官は「捜査にあたった警察官や路上犯罪の被害者、周辺の一般の市民らに危害が及ぶ恐れがあった場合にのみ銃を使用している」として、銃器の使用はいずれも適正で問題はないとの立場を強調している。


首都圏警察ではジャカルタ市内のいわゆる「路上犯罪(ストリート・クライム)」をいくつかのカテゴリーに分類して対処している。


主に通りでバイクに乗って歩行者を狙う「路上強盗」は刃物などの武器を犯人は使うことが多い。家人の留守の昼間や就寝中の夜間に民家、商店を狙う「空き巣」、民家や商店に押し入り武器で脅して金品、バイク、車両を盗む「強盗」、武器は使わずバイクに乗った2人組の犯人が歩行者やバイク後席の人のカバンやバックを奪って逃走する「ひったくり」、そして人混みや公共交通機関内で気づかれずに携帯電話や財布を盗んで徒歩で逃走する「すり」などである。


かつては日本人も路上犯罪の被害に


かつては陸橋や横断歩道で日本人が「ハンカチ落としましたよ」と声をかけられて指さした後方を見ている隙にズボンなどのポケットから財布や携帯がすられ、慌てて追いかけようとするが複数人がいて犯人が分からず、親切な人がたぶんあっちに逃げた男が犯人と教えてくれる、という手口の被害が相次いだ。声をかけた人、盗んだ人、親切に教えてくれた人、全員てがグルであり、決して犯人は捕まらなかった。


日本大使館に近いタムリン通りの陸橋や横断歩道、日本人が多数宿泊するタムリン通りやスディルマン通りにあるホテル周辺の陸橋や横断歩道などでこうした路上犯罪が頻発。日本大使館は「たとえ近距離でも信頼できるタクシーか運転手付きの車での移動を心がけてほしい」と注意を喚起した時期があった。


市民にも自己防衛策を呼びかけ


7月3日からスタートした特別作戦では、6日までの最初の3日間で69件の事案を摘発して73人を逮捕、27人の容疑者に対して発砲したものの死者は報告されていなかった。そしてその後12日まで10日間で、摘発件数の総合計は強盗、空き巣、車上荒らし、暴力行為など532件に達したとしている。


この数字はあくまで警察官が現認したり、通報を受けて現場に駆けつけたりした場合、さらに目撃情報に基づいた捜査の結果であり、警察が認知していない犯罪、いまだに検挙に至っていない犯罪の件数を勘案すると、首都ジャカルタの路上の治安がいかに悪いか、が浮き彫りとなる。


それだけに警察では周囲への警戒の徹底と同時に、歩行者やバイク後席の同乗者はリックやバッグを肩掛けにしたり前方に抱えたりするなどのほか、腕時計を外し路上では携帯電話の使用を控える、ズボンの尻のポケットに貴重品を入れない、などの自己防衛策を市民に呼びかけている。


[執筆者]


大塚智彦(ジャーナリスト)


PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



大塚智彦(PanAsiaNews)


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