「熱中症」で小1死亡、全国で倒れる生徒相次ぐ…学校の「責任」は問える?

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2018年07月20日 11:12  弁護士ドットコム

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熱中症となった児童、生徒が緊急搬送されるケースが相次いでいる。愛知県豊田市では7月17日、校外学習から小学校に戻った1年生の男子児童が倒れて、搬送された病院で死亡が確認された。重度の熱中症である「熱射病」と診断されたという。


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報道によると、この小学校では7月17日午前10時ごろ、1年生112人が校外学習の一環で、1キロ離れた公園まで歩いて、虫取りなどをしたあと、午前11時半ごろ学校に戻った。亡くなった児童に持病はなく、出発前の健康診断でも異常を訴えてなかった。しかし、公園に向かう途中で「疲れた」と話していたという。


この日、豊田市は午前9時から気温30度を超えて、午前11時は33.4度、正午は34.8度を記録した。児童たちは水筒を持参しており、こまめに水分を補給するよう指示していた。校外学習のあと、ほかの3人の女子児童が体調不良をうったえたという。


ほかにも、宮城県名取市の小学校で7月18日、校庭で航空写真を撮ったあと、児童38人が熱中症で搬送された。熊本県の高校では19日、部活練習中の女子生徒4人が熱中症とみられる症状で搬送された。さらに都内の高校でも19日、体育館で講演を聞いていた生徒25人が頭痛や吐き気など、熱中症のような症状を訴えた。


児童、生徒たちが熱中症になったことについて、学校側に責任を問えるのだろうか。秋山直人弁護士に聞いた。


●熱中症事故で、学校側の責任を認めた裁判例は多数ある

「これまでも、中学校や高校での部活動中に生徒が熱中症にかかり、死亡するなどした事故について、校長や部活顧問の責任を認めて、地方公共団体などに賠償を命じた裁判例は多数あります。


校外学習で小学1年生の児童が亡くなった事故でも、基本となる法律的な考え方は同じだと思います。


すなわち、熱中症は、重篤な状態になると、生命の危険まで生じる疾病であることが広く知られています。学校管理下での事故も多数発生していますから、学校長や担任には、児童が校外学習中に熱中症にかからないように防止すべき安全配慮義務があると考えられます。


そして、今回の事故当時の温度、湿度、輻射熱の状態や校外学習のおこなわれた場所の環境、児童が暑さに慣れてきた時期かどうか、校外学習の内容・活動時間、休憩・給水の頻度、その児童の体力・体型(たとえば肥満体型の場合には熱中症のリスクが高いとされています)・性格(休憩・給水を教師に言い出しにくい性格の児童もいます)、その児童からの体調不良の訴えの有無・内容などの具体的事情を考慮に入れます。


そのうえで、引率にあたった担任教諭に具体的な注意義務が認められる場合、そのような注意義務に違反したとして、担任教諭、ひいては学校設置者に賠償責任が認められることは十分考えられると思います」


●愛知県豊田市のケースにおける学校側の「注意義務」

「注意義務の内容としては、具体的諸事情によりますが、そもそも、その校外学習自体を差し控えるべき注意義務や、その校外学習を短時間で中止して学校に引き返す注意義務、その校外学習の実施自体は許されても、疲労を訴えた児童を日陰に誘導して休憩・給水させたり、適切な冷却措置を取ったり、校外学習から離脱させる注意義務などが考えられます。


今回のケースでは、児童がまだ1年生と幼く、体力も十分でないこと、気温が33〜34度を超えていたこと、児童が公園に向かう途中から『疲れた』と話しており、異常が見られたと評価できること、同じ校外学習の際にほかにも3人の女児が体調不良を訴えたことなどは、担任・学校側の責任を認める方向にはたらく事情です」


●学校の管理下で熱中症にかかることを防ぐため「積極的な対策」を

「ただ一般的に、裁判所で法的な責任が認められるハードルというものは、それなりに高いので、単純に熱中症の注意喚起情報が出ていたら校外学習自体を控えさせないと、ただちに校長が法的責任を問われるとか、教室にクーラーを設置していないと、ただちに校長が法的責任を問われるといった話ではありません。


しかし、年々、日本の夏が暑くなっている実感がある中、今回のように、学校にあずけた幼い児童の命が失われるという悲劇を繰り返さないよう、学校の管理職・担任や学校設置者においては、児童・生徒が学校の管理下で熱中症にかかることを極力防ぐために、法的責任うんぬんにとらわれない積極的な対策を期待したいところです。


文部科学省は、豊田市の事故を受けて、全国の都道府県教育委員会に対して、熱中症を防止するため、適切に対応するよう求める通知を出したようです。学校管理下での熱中症を防ぐため、ガイドライン・通達などの制定・周知のほか、学校教室内のクーラー設置をすすめてもらいたいものです」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
秋山 直人(あきやま・なおと)弁護士
東京大学法学部卒業。2001年に弁護士登録。所属事務所は溜池山王にあり、弁護士3名で構成。原発事故・交通事故等の各種損害賠償請求、不動産関連、離婚・相続、労働事件・労災事件、企業法務、契約紛争、高齢者の財産管理、債務整理、刑事事件等を取り扱っている。
事務所名:たつき総合法律事務所
事務所URL:http://tatsuki-law.com


このニュースに関するつぶやき

  • 「心頭滅却すれば火もまた涼し」なんて、この酷暑の中では使えない!自然災害時同様に命を守る行動にでないとね。今の暑さは私たちが過ごした夏の暑さとは段違いに暑いのだ。
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