『花のち晴れ〜花男Next Season〜』は、2000年代に大ヒットしたコメディティストの恋愛ドラマ『花より男子』(TBS系)の続編だ。
物語の舞台は主要メンバーが卒業してから10年後の英徳学園。主人公の江戸川音(杉咲花)は、裕福な家庭の生まれだったが学園入学前に父の会社が倒産し、今は母親とアパートで2人暮らし。元の優雅な暮らしに戻る唯一の方法は、許嫁の馳天馬(中川大志)と結婚することで、その条件である「英徳学園に在籍すること」を満たすべく、貧乏暮らしを隠してセレブ学校に通っていた。
ある日、音は学園を牛耳るC5(コレクトファイブ)のリーダー、神楽木晴(King&Prince・平野紫耀)と知り合う。「庶民狩り」という、学園の中に紛れ込んだ一般人を退学に追い込む行為の首謀者・神楽木に警戒する音だったが、2人はいつしか惹かれ合うように。
ドラマは、前作で描かれた庶民の娘と御曹司の息子による恋愛物語をなぞるように、庶民として暮らす音と神楽木グループの御曹司・神楽木晴の、喧嘩しながらも惹かれ合っていく姿を描いていく。そこに音の許嫁の馳天馬と、神楽木に一目惚れして積極的にアプローチするカリスマモデル・メグリンこと西留めぐみ(飯豊まりえ)が絡む、恋愛群像劇だ。
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興味深いのは、彼・彼女たちの恋愛の背景に、家や学校の伝統を守らなければならないという苦悩がある点だ。音が許嫁の天馬と結婚したいのは江戸川家を立て直すためで、神楽木がメグリンとの交際をC5メンバーから急かされるのは、彼女が英徳学園に転入すれば、入学希望者が殺到して学園に栄華が戻るからだ。自由な生活を送っているようで、神楽木たちを取り囲む環境はシビアに見える。
そのせいか、没落貴族の悲哀みたいなものも感じられる。かつて学園を牛耳っていたF4の道明寺司(嵐・松本潤)に神楽木があこがれているという設定もあってか、過去の栄光に縛られている二世の苦しさが裏テーマとして際立っていたように思う。さらに、そんな神楽木の姿と、神楽木を演じる平野の姿がどこか重なって見えた。
平野は現在21歳のジャニーズ事務所に所属するアイドルだ。15年に結成されたグループMr.King vs Mr.Princeに所属し、今年King&Princeとして『花のち晴れ』の主題歌「シンデレラガール」でCDデビューした。
14年の『SHARK』(日本テレビ系)でドラマ初主演を果たしているが、演技経験は浅く、主人公の音を演じた杉咲花はもちろんのこと、中川大志、飯豊まりえと、今の若手の中ではダントツに演技力のあるメンバーに囲まれていたため、芝居のぎこちなさが目立つ形となった。しかしそこがかえって、いつも行動が空回りしてジタバタしている神楽木の青臭さを引き立たせることとなり、その初々しさに好印象を持った。
一方、松本潤が道明寺を演じた頃は華やかな英徳学園だったが、それから時がたち、寂れつつある学園の姿は、そのまま今のジャニーズ事務所を反映しているように見えてしまう。
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2年前のSMAP解散以降、TOKIO・山口達也の未成年暴行未遂、NEWSメンバー(加藤シゲアキ、小山慶一郎)の未成年との飲酒騒動など、次から次へとジャニーズ事務所所属のタレントに問題が起こっている。圧倒的優位を誇っていた男性アイドル市場の立ち位置も、新興勢力としてのEXILEグループや特撮ヒーローもの出身の2.5次元の舞台から出てきたイケメン俳優がテレビドラマに出演するようになってきている。すぐに転落することはないだろうが、現在の10〜20代のジャニーズアイドルに関していうと、ファンコミュニティの間では知られていても、その外側には存在が届いておらず、上の世代に比べると小粒で力不足に見えてしまう。
そんな逆風の中で満を持してCDデビューしたKing&Princeに対する、ジャニーズ事務所の期待は相当なものだろう。平野が『花のち晴れ』で主演を務めたのは、「これからのジャニーズは彼で行きます」という宣言みたいなものだったのかもしれない。デビュー曲「シンデレラガール」は大ヒット(上半期シングルランキングでは62.6万枚を売り上げて5位にランクイン)して、順風満帆のスタートだったと言えるが、しかしドラマが成功だったかというと、最後まで中途半端だったように思う。
それこそ、歌番組でキンプリが見せる華やかな王子様像を反映したイケメンドラマとして、もっと突き抜けてもよかったが、寂れつつある学園を守ろうとする神楽木の姿を描くことで、妙に生々しいドラマとなった。ジェームス・ディーン的な苦悩する青年像は平野にハマっていただけに、本作のようなイケメンドラマではなく、もっと暗い青春ドラマの方が良かったようにも思う。
ステージでは華やかな王子様キャラが眩しい平野も、悩める青年像を演じられることが本作で証明された。3月に公開された映画『honey』で主演を務め、こちらも神楽木のような不良だが可愛げのある男の子の役だった。ヘタにコメディに寄せずに、影のある青年をシリアスに演じた方が、本人の魅力が際立つのではないかと思う。
(成馬零一)