GU(ジーユー)が抱える3つの地雷! 「ガウチョパンツ100万本ヒット」以降、停滞するワケ

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2018年07月21日 21:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

GU公式サイトより

 数多くある低価格カジュアルブランドの中、この10年間で最も売り上げ規模を拡大したのは、ファーストリテイリングが展開するGU(以下、ジーユー)でしょう。2006年にスタートしたジーユーは、2018年8月期の売上高が2000億円を超える見通しとなっています。12年間で売上高2000億円を突破することは、すごいと言わねばなりませんが、その一方で伸び率は鈍化してきています。単独で売上高2000億円を超えている国内ブランドはユニクロ、ファッションセンターしまむらなど、数えるほどしかないので、伸び率鈍化は巨大ブランドゆえの苦しみといえるでしょう。

 今回は、そんな一躍巨大ブランドにまで成長したジーユーについて見ていこうと思います。

 ジーユーが急成長できた最大の要因は、「低価格・高トレンド」対応ブランドへの転身に成功したからです。意外に思われるかもしれませんが、06年に鳴り物入りでデビューしたものの、しばらくは鳴かず飛ばずの状態が続いていました。理由は簡単です。ジーユーは「廉価版ユニクロ」としてスタートしたから。もともと定価でも安いユニクロに、さらにその廉価版を求める人はどれほどいるでしょうか。デザインはユニクロとほぼ同じ、しかし廉価版なので製造コストが抑えられているため、素材や縫製の品質は低いのですから、売れなくても当たり前でした。また、ユニクロは期間限定値下げや売れ行き不良でどんどん値下げしますから、わざわざ出来の悪い廉価版を買う必要もなく、値下げされた時点で買えば済む話。「廉価版ユニクロ」が成長できなかったことは当然といえるでしょう。

 転機となったのは10年、ジーユーが、価格帯はそのままにトレンド対応ブランドへ変身したことです。これがヒットして、あっという間に、12年8月期には売上高500億円を突破し、13年度は837億円、14年度は1075億円と売上高を増やしました。たった2年でほぼ倍増ですから、すさまじい売れ行きだったといえます。

 さらに、ジーユーの名前が世間に鳴り響いたのは15年夏のこと。当時トレンドだった「ガウチョパンツ」を販売2カ月で100万本販売という実績を築いたのです。アパレル業界では年々大ヒット商品が出にくくなってきているので、これには大いに驚かされました。近年、生まれた大ヒット商品というのは、ヒートテックやウルトラライトダウンといった、機能性がクローズアップされた商品ばかり(しまむらの「裏地あったかパンツ」も機能性商品)だっただけに、何の機能性も持たず、トレンドだけの切り口で100万本もの大ヒットがあったのは、本当に久しぶりといえるでしょう。ガウチョパンツの大ヒットを受けて、16年8月期は売上高1,878 億円(前期比 32.7%増)、営業利益が 222 億円(同 34.8%増)と大幅増収増益となりますが、ジーユーの急成長はここを最後にストップしてしまいます。

 では快進撃を続けてきたジーユーがどうして停滞期に突入してしまったのでしょうか。ジーユーの“3つの落とし穴”を考えてみたいと思います。

1.ステイタス性は皆無……元ルイ・ヴィトンデザイナーとのコラボ商品が大量売れ残り!

 低価格トレンドという部分は評価されていますが、“ステイタス性”は今のところ皆無です。ユニクロが過去にジル・サンダーや、「UNDERCOVER(アンダーカバー)」の高橋盾など、著名デザイナーとコラボし、今また、クリストフ・ルメールやJWアンダーソン、トーマス・マイヤーなどの著名デザイナーとコラボをすることでステイタス性を確立してきたのとは対照的です。ジーユーも、今春にはルイ・ヴィトンやディオールオムのデザイナーを歴任したキム・ジョーンズと組み、コラボ商品を初めて発売しましたが、大量の売れ残り品番が390〜990円というひどい投げ売り状態となっており、ステイタス性の確立的には今のところ寄与していません。この実績が示す通り、ステイタス性を確立するには今後長い時間が必要となり、そこまでジーユーは我慢し続けられるのかということになります。消費者にとって、ジーユーのアイテムを身に付ける意義が、今のところ薄いともいえるかもしれません。

2.トレンド商品主体で大ヒットアイテムが生まれにくい!

 ジーユーが支持された理由は、間違いなく10年に「トレンド対応」を強化したことです。ちょうどH&Mやフォーエバー21などが、前々年や前年に日本に上陸しており、トレンド対応ブランドに注目が集まっていました。しかし、そこを強化して、なおかつユニクロのように同一品番が大量に売れることは、ちょっとあり得ません。トレンドという嗜好に対応するわけですから、品番数が多くなり、それぞれが一定数量売れるということになります。ですからガウチョパンツが100万枚も売れたことは、かなり珍しい状況だったというわけです。

 品番数が多くなると、必ずそれぞれに売れ残りが生じますから、その分、管理が煩雑になります。ジーユーがガウチョパンツの後に大ヒット商品を生み出せないことは、しまむらが「裏地あったかパンツ」の後に大ヒット商品を生み出せないことと似ています。「ジーユーの“今”はやってるあのアイテムが欲しい!」と思えないのは、消費者には魅力減となるでしょう。

3.「ジーユーといったらコレ!」というアイテムがない

 これは2と少し関係しますが、多様な嗜好に対応するために品番数やデザイン数を増やせば増やすほど、商品は多岐にわたり、その結果、ブランドとしての「顔」「シンボル」が見えにくくなります。例えば、(実際の売れ筋とは別として)、ユニクロなら「フリース」「ウルトラライトダウン」「ヒートテック」などが、またリーバイスなら「501」というアイテムが思い浮かびますが。ジーユーでは、そういうシンボリックなアイテムがパッと思いつかず、ある意味、ブランド化しにくいとも言えます。

 ジーユーが今後、さらなるビッグブランドを目指すなら、どのようにしてシンボルを作るのかが課題になります。もちろん、それは商品でなくてもいい。ロゴでも店舗の外観でも内装でもなんでもいいのです。ジーユーといわれたときに、消費者が思い浮かべられるシンボルがないと、長く愛されるブランドにはなれないのではないでしょうか。

 ジーユーは中長期的に売上高1兆円を目標として掲げました。しかし、今の「トレンド対応」路線を取っていると、国内市場はそろそろ飽和点に達しようとしているといえ、伸び率の鈍化はそれを表していると見ています。仮にさらに伸びたとしても売上高3000億円が頂点なのではないかと個人的には感じている次第です。

 先ほども書いたように、単独で売上高2000億円を超えるブランドは日本でも数えるほどしかありません。そして売上高が大きくなればなるほど、売上高を伸ばすことは苦しくなります。メディアはよく「〇〇%増」という数字だけで好調不調を判断しますが、それが常に正しいとは限りません。例えば、極端なことをいうと、売上高1億円のブランドが20%売上高を伸ばしたとしたら2000万円伸ばしたということになります。新店を1店舗出せば2000万円くらいはすぐに売上高が上がります。

 一方、2000億円のブランドが10%、20%売上高を伸ばすことはかなり難しくなります。なぜなら10%で200億円、20%で400億円です。こんな巨額の売上高がたった1年で作れるはずもありませんし、400億円と言ったら、TOMORROWLAND(トゥモローランド)と同じくらいの売上高です。

 1兆円を達成するには海外進出が不可欠ですが、国内トレンド密着型のジーユーがどこまで海外で受け入れられるのか未知数。消費者を飽きさせないようどんな戦略を取るのか、今後も見ていきたいと思います。
(南充浩)

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