安室奈美恵はヒールを履いた美しきアスリートだ 体感型展覧会開催を機に振り返る“ライブへの情熱”

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2018年07月22日 11:42  リアルサウンド

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 ステージを去るという衝撃的な知らせが届いてから約一年。エンターテイナーとしての最後の一年をかけ、自分を支えてくれた多くのファンとの思い出作りとして、安室奈美恵はさまざまなサプライズを提供し続けている。最後のベストアルバム『Finally』のリリース、最後のNHK紅白歌合戦への出演、最後のドームツアー『namie amuro Final Tour 2018〜Finally〜』、最後のメディア出演。そして、”最後の空間”として開催されるのが体感型展覧会『namie amuro Final Space』だ。


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 すでに大阪で7月14日から開催されている『namie amuro Final Space』は、7月26日から始まる東京、沖縄(8月2日〜)、福岡(8月12日〜)の計4会場を舞台に、これまでの衣装や映像、写真などの貴重なアーカイブを通して、安室奈美恵の25年の軌跡をドラマティックに鑑賞できるエキシビションである。大阪と福岡の会場では、衣装やステージ映像を中心にした展示が行われ、安室奈美恵の故郷である沖縄会場では、昨年開催された25周年記念ライブ『namie amuro 25th ANNIVERSARY LIVE in OKINAWA』の衣装など、特別なラインナップが揃う。さらに、アトラクション型の空間が楽しめるという東京会場には、最後のドームツアーで使用された可動式ステージも登場。2009年に発表されたナンバー「Dr.」(シングル『WILD/Dr.』収録)に登場するクロノス博士の指令をガイドに、来場者それぞれが安室奈美恵の25年の軌跡をたどる体感型の展覧会となる。


 安室奈美恵が14歳でガールズグループのリードシンガーとしてデビューしたのは、1992年のこと。CMやドラマにも出演するなど、地道に活動を続ける中、1995年にソロシンガーとしてデビュー。プロデューサー、小室哲哉との出会いを機に社会現象を巻き起こす大ブレイクを果たし、トリプルミリオンを叩き出す大スターへと飛躍。結婚&出産による一年間の休養を経た20代以降は、スペシャルプロジェクト、SUITE CHICに参加するなど、自ら楽曲選びやアイデア出しなどを行うセルフプロデュースを開始。コアなR&Bサウンドを武器に、自立した強い女性像をクールでアグレッシブなダンスと歌で表現。同世代の女性を中心に、日本国内だけでなくアジア各国のオーディエンスをも魅了した結果、10代、20代、 30代、40代の四年代にわたってミリオンを突破するという偉業を成し遂げた。


 その輝かしい軌跡の中で、安室奈美恵の基盤はつねにライブパフォーマンスにあった。とくに彼女自身が歌う楽曲を自ら選ぶようになって以降は、曲選びの基準はいつも、「その曲を歌い踊る自分の姿がイメージできるかどうか?」が最大のポイントとなった。メディアに出ることも、音楽界の新たな才能とクリエイションし、次々とエッジィな挑戦を続けてきたのも、すべては“最高のステージ”を作り、多くのオーディエンスと直にそこで熱狂を分かち合うためのものだった。


「もともと音楽好きというよりも、歌うのが好きで、それは昔から変わらない。だからコンサートで歌うのが好きなんだと思う」


 ステージで歌って踊ることの魅力について、彼女はいつもそんな風に語っていた。どんな時もライブで歌うことは彼女の原点であり、目標だった。グループで活動していた下積み時代、観客のほとんどいないステージに立った時も、満杯の観客が見守る巨大なステージで歌い踊る日を夢見て彼女は全力で歌い踊った。社会現象を巻き起こす時代の寵児となった時も、セルフプロデュースし始めた直後、なかなか結果が出ずに葛藤した日々も、ステージで歌い踊ることだけをまっすぐに見つめ、彼女は懸命に邁進した。だからこそ周囲の雑音に惑わされることなく、安室奈美恵はステージの上で輝く美しき孤高のポップ・クイーンであり続けることができたのだろう。


 ライブにかける安室奈美恵の情熱がどれほどのものだったか? それは、『namie amuro Final Space』に展示されている貴重なアーカイブからぜひ直に感じ取って欲しい。とくに彼女のスタイルをより魅力的に輝かせてきた衣装や、信じられないほど細くて高いピンヒールのブーツの数々を見ると、いずれもステージでの激しい動きを最大限に配慮したものであることがよくわかる。可動域を重視し、かつ、ダンスのボルテージと並行して上昇する体温が体力を奪わないよう、できるだけ風通しの良い素材を使い、身体を覆う面積を可能な限り小さくする。それらの厳しい条件に応えつつ、各ツアーのイメージやセットリストに合わせたデザインが施された衣装のディテールを、この機会にじっくり観察してみると、中には、ツアーの過程で変化する体型や動きに合わせ、何度もメンテナンスされたものがあるはずだ。ステージの上のアスリートと形容されるほど、そのダンスがいかに激しく、どれほどそのツアーが過酷だったか? 彼女自身が実際に身につけて歌い踊った衣装、足首や甲にその動きが刻まれたブーツを真近に見ることで、安室奈美恵のライブにかける並々ならぬ思いが実感できるという意味でも、今回の展覧会は間違いなく貴重な機会と言える。


 テクノロジーの進化と普及により、LEDやVRを駆使し、トリッキーなステージ演出や衣装を用いるアーティストも多い。安室奈美恵ほどのトップスターなら、どんな規模のどんな演出も容易に実現できたはずだ。だが彼女は最後まで最小限のテクノロジーだけを用い、自身の肉体と歌声で表現できるものにこだわった。おそらくそれは、歌って踊るシンガー&エンターテイナーとしての彼女のプライドであると同時に、ライブこそがファンと直にコミュニケーションできる唯一の場であることを、彼女が何よりも大切にしていたことの証だと思う。


 そんな唯一無二のシンガー&エンターテイナー、安室奈美恵が歩んできた25年間の軌跡を振り返る体感型展覧会『namie amuro Final Space』。東京、大阪、福岡、沖縄の各会場にて、引退の日となる9月16日まで開催される。(早川加奈子)


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