テレ東ドラマBizはTBS日曜劇場を超えるか? 『ラストチャンス』に見るビジネスブランディング

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2018年07月31日 06:02  リアルサウンド

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 2018年の4月から新たにスタートした連続ドラマ枠のドラマBiz。働くことをテーマにビジネスドラマを展開するというのがコンセプト。今年4月期に放送された第1弾の『ヘッドハンター』は、リサーチ会社のヘッドハンターの主人公を『日経スペシャル ガイアの夜明け』の江口洋介が演じたほか、テレ東22時台の番組に出演する俳優たちも総出演し、この枠のイメージ、ブランディングを強く印象付けることに成功していた。


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 しかも、第1弾の企画はオリジナルであった。テレ東がビジネスの現場を取材してきた経験も存分に生かされているのではないかと思われたし、第1話から、ヘッドハンター同士の攻防と同時に、ヘッドハンティングされる側の心情――信頼している上司にもヘッドハンティングされていることを言えない苦悩や葛藤――などもうまく描かれており、人間ドラマとしてもアツかった。


 そして7月から始まった第2弾の『ラストチャンス 再生請負人』は、前作と違い、原作ものである。原作者は、元銀行員の江上剛。彼の実体験をもとに書かれた2011年の小説をドラマ化している。そこは、TBSの日曜劇場でおなじみの池井戸潤(彼も銀行で働いていた経験をもとに多くの作品を書いている)の原作をドラマ化することと、意義としては似ている。


 実際、江上剛の小説も、2009年に『隠蔽指令』がWOWOWの連続ドラマWで映像化されたほか、その後も2017年のテレビ朝日系日曜ワイドで『庶務行員 多加賀主水が許さない』が単発で、また『ザ・ブラックカンパニー』は、フジテレビTWOで2018年の2月からドラマ化されたばかりだ。本作はドラマ化4作目となる。


 TBSの日曜劇場や、WOWOWの連続ドラマWの名前に触れたが、ドラマBizは、やはりこの枠の競合として見る人は多いのではないだろうか。


 ビジネスの現場で、組織の再建を描きつつ、その中の権力闘争や人間関係を描くものが多いという意味では、これらの枠はある程度イメージやブランディングができている。そこに参入したのが「ドラマBiz」だと言っていいだろう。


 ただ、テレ東の場合は後発なだけに、差別化を図るビジネスの現場を描くということを、最初からきっちりとうたっている。しかも、テレ東の22時台はほかの日も、ビジネスの現場を追ったドキュメンタリー、バラエティを連日放送しているため、週を通してのブランディングにも成功している。


 しかも、それらの番組を作る上で得たノウハウや知識も、オリジナルであれば盛り込めていたりするのではないかと思えるし、原作ものをドラマ化する際にも、細部のリアリティが増しているということもあるのではないか。


 今回の『ラストチャンス 再生請負人』は、主人公が銀行から飲食業界に転身し、再建をはかるという内容だが、その中で、フランチャイズの権利をさまざまな企業に売りつけ、資金繰りを行い、そのせいで窮地に陥っているというエピソードも描かれる。こうした描写を見ていると、確かに続々と増えるフランチャイズチェーンを実際に見ている我々にとっても、身近な問題に思えてくるのだ。


 本作の原作のもとの題名は『人生、七味とうがらし』というものだったという。七味とうがらしというのは、ある占い師が主人公に言ったことがもとになっている。人生においての七味とうがらしとは、うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、いやみ、ひがみ、やっかみを意味する。主人公は、「これから七味とうがらしをたっぷりきかせた、味に深みのある人生になる」と占い師に言われるのである。


 この七味のエピソードもドラマの中では要所要所に出てくるのだが、本作は、そうした人情話や教訓を中心におかず、ビジネスの現場を描く方向に舵をきっている。しかし、ビジネスの問題をきっちり描いているからこそ、このようなちょっとしたエピソードが、まさに七味のように効いてくるのだ。(西森路代)


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