トルコ通貨リラ急落を招いた、トランプの関税引き上げ「攻撃」

3

2018年08月14日 17:02  ニューズウィーク日本版

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ニューズウィーク日本版

<双方の宗教関係者の身柄引き渡しを求めるアメリカとトルコの対立の裏には、トランプとエルドアンそれぞれの政治的思惑が>


先週末以降のトルコ通貨リラの急落は、対米関係の急激な悪化がそのきっかけとなった。


ドナルド・トランプ米大統領は先週10日、アメリカとトルコの関係は「現時点では良好なものではない」とツイートし、トルコ製の鉄鋼・アルミニウムを対象とした関税を引き上げると発表した。一方トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は週明けの13日、アメリカはトルコの「背中を刺した(裏切った)」と非難した。


アメリカとトルコは共にNATO(北大西洋条約機構)加盟国で、7月にベルギーで開催されたNATO首脳会議では、トランプとエルドアンの良好な関係が噂されていた。だが今の両者の態度は、両国のこれまでの協調的な関係からは逸脱しつつある。


トランプとエルドアンの対立の中心にいるのは、複数の宗教関係者。なかでも問題となっているのは、数十年にわたってトルコで暮らし、2016年にトルコ当局に逮捕されたアメリカ人牧師のアンドリュー・ブランソンだ。


ブランソンは、エルドアン政権転覆を狙った16年のクーデター未遂後、強化された取り締まりで逮捕され、収監された。エルドアンは、かつての盟友で現在は米ペンシルベニア州で暮らすイスラム聖職者フェトフッラー・ギュレンが、クーデター計画の首謀者だと非難。今月10日付のニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論説で、ギュレン派が「私の政府に対して流血のクーデターを起こそうとした」と主張した。


宗教関係者をめぐる対立がエスカレート


エルドアンは、ブランソンがギュレンの支持者らと協力したほか、エルドアンと対立関係にあり分離独立を掲げるクルド人政党のためにスパイ行為をはたらいたとも主張した。しかしギュレンの支持者は伝統的にクルド人とは同盟関係にないため、ブランソンに対する告発の妥当性を疑問視する声もある。


ブランソンは身柄を拘束されて以降も無実を主張しており、米国務省が釈放に向けて働きかけを続けているが、今も自宅軟禁状態にある。


一方でトルコもアメリカに対してギュレンの身柄引き渡しを要求しているが、歴代の米政権に断られてきた経緯がある。また複数の報道によれば、エルドアンはイランの米制裁逃れを手助けした罪で禁錮2年8カ月の有罪判決を受けたトルコ人銀行家ハカン・アッティラを釈放させるために、ブランソンを交渉材料として利用したいと考えている可能性もある。


しかし収監者の交換をめぐって始まった両国の対立は、あっという間に双方に長期的な影響を及ぼしかねない危機へと変わった。リスク分析サービス会社コニアス・リスク・インテリジェンスの上級アナリストでトルコ情勢を専門とするマグダレナ・キルチネルは、こう指摘する。


「アメリカもトルコもこう着状態を打開するための戦略を見出しているようには見えないことから、両国間の緊張が近いうちに緩和される見込みは薄いだろう。トルコ政府にとって、重要なのはもはや『宗教関係者同士の身柄交換』によってギュレンをトルコに引き渡させることではない。経済政策の失敗がもたらした結果を、トルコに対する「経済戦争」の影響の一環だとイメージ転換し、エルドアン率いる公正発展党(AKP)と世俗派のナショナリストたちを政府の味方につけることだ」


さらにキルチネルは、「ブランソンの問題でトルコに対する圧力を強化するまでに1年以上かかった米政府にとっては、トルコに対して厳しい姿勢で臨むことが、今やすべての党派が納得する数少ない事案の一つになっている」と続けた。


確かに、深刻な経済危機に直面しているトルコにとって、アメリカとの外交トラブルは恰好のスケープゴートだ。エルドアンは通貨リラの急落について陰謀説を唱えており、トランプが10日にトルコ製の鉄鋼とアルミニウムに高率の関税を課すと発表したことは「世界が自分の足を引っ張っている」というエルドアンの主張を裏付ける結果になっている。


トランプは、関税引き上げを外交上の戦略として使う姿勢を見せている。トルコ製品に関税を課す今回の決定についても、両国の関係悪化にはっきりと結び付けている。


(翻訳:森美歩)



クリスティナ・マザ


このニュースに関するつぶやき

  • トルコがNATO離脱して土露接近するようならロスケを封じ込めてる黒海の蓋が開いちまいますわねw
    • イイネ!3
    • コメント 0件

つぶやき一覧へ(2件)

前日のランキングへ

ニュース設定