恋愛マスター・くじらの“お悩み相談”の巧妙さ――「都合のいいオンナ量産」の仕掛けとは?

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2018年08月17日 00:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

くじらオフィシャルブログより

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます。

<今回の有名人>
「思い通りの恋愛より、思いもよらない恋愛を」くじら
『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系、8月14日)

 人が生きていくためにはカネが必要だが、「カネをもらう」には、もらう側が払う側の要求を充たす必要性が出てくる。ネイルサロンで、客が赤のネイルを希望したら、赤を塗るのが、カネをもらう側にとっての正解なのだ。払う側の要求を充たすことにより、リピーターが増えて、もらう側が潤うのである。

 しかし、この原則があてはまらないのが、有料の悩み相談だ。というのも、悩んでいる人が、悩みを解決する直接的な方法を求めて相談に来るとは限らないからである。悩む人は自責傾向が強い思考回路をしているか、反対に、自分は悪くない、だから自分を変えるつもりはないと願う人のだいたい2つに分かれるのではないだろうか。自責傾向が強い人は、アドバイスを忠実に実行するので問題を解決しやすいが、悩みが解決すればリピーターになる可能性は低そうなので、カネを落とさない。となると、有料悩み相談は、自分は悪くない、自分を変えるつもりはない人を、いかに顧客にするかがポイントになってくるだろう。

 以前この連載で、「瀬戸内寂聴の人生相談は具体的ではない」と書いたが、寂聴はこのあたりの機微を熟知しているのだろう。そして、悩み相談界に、男性の若きカリスマが現れた。お笑い芸人のくじらである。ものまねタレントとしてデビューし、芸人として売れているとは言いがたいが、オードリー・若林正恭が『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で、“恋愛マスター”として紹介してから、徐々に知名度を上げている。最近は恋愛に関するカウンセリングやセミナーも開催し、人気を博しているようだ。

 恋愛相談に乗る男性陣の答えというのは、だいたいパターンはだいたい決まっていて、「オトコってのはそういう生き物だから」と、オトコを下げることでオンナの溜飲を下げさせようとするが、くじらは違う。男性に不満を持つ女性に対し、「思い通りの恋愛より、思いもよらない恋愛を楽しめ」「相手を変えようと思った瞬間から、恋愛はつらい」と言ってのける。これはつまり、恋愛はうまくいかないのが当たり前であり、今、恋愛で悩んでいるのは、自分が相手を変えようとしているからと言い換えることができるだろう。

 思いもよらない恋愛ができているのは幸せなことなのに悩んでしまうのは、自分が相手を変えたいという欲を持っているから。しかし、それはあなたが悪いのではなく、“世間の基準”というものが悪い。あなたは、その基準を、無理やり強いられているのではないの? といった具合に、別の“犯人”を仕立てあげる。恋愛相談でありがちな「そんなクソ男はやめておけ」とも言わない。相手のことがクソ男だと思えたら悩みもしない、という恋愛相談の超基本をがっちり押さえている。自分は悪くない、自分を変えたくない派の女性にとって、彼氏を責めず、自分の非をとがめられることもない、くじらのアドバイスは“響く”のだろう。

 相談した側(女性)が喜び、悩み相談のブログがPVを稼ぎ、セミナーなどもにぎわっているようだから、ビジネスとしては成功である。しかし、くじらの恋愛セオリーをあまり真に受けると、つらい現状からあえて目をそらす、都合のいいオンナが量産されるという懸念がある。

 例えば、くじらのオフィシャルブログには、「同僚とデートをし、カラダの関係を持ったが、付き合いたいと言ったら相手にはぐらかされた。それなのに夏休みには一緒に旅行に行きたいと言われているが、社内なので穏便に別れたい」という女性からの悩みが掲載されている。

 恐らくその男性は、真面目に交際するほどではないが、ヤる相手としてキープしておきたいというのが本音だろうと私は推測するが、くじらは女性に対して「何もかも、相手からもらおうとしている」「物乞いみたいな恋愛」と辛らつである。くじらいわく「愛は自分でいくらでも生産できるもの」「恋愛とは、それを与えたい人を見つける作業」だそうだが、くじら理論だと「自分が捧げるだけで、満足するのが恋愛」になってしまい、相手、つまり男性だけがトクをすることになってしまうことに、読者の女性たちは気づいているのだろうか。今の状態に疑問を持ったり、相手に関係性を尋ねることを「物乞い」と怒られたら、女性は「自分が黙っていさえすれば、いい関係を保てるのだ」と思ってしまう可能性がある。

 くじらは2回結婚しているが、『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で、若林が「(くじらは最初の)結婚式の帰り、その足で浮気相手の家に向かった」と暴露している。実家が資産家なこともあって溺愛されて育ち、芸人として売れなくても生活には困らない。離婚が成立して慰謝料が発生しても、親に払ってもらうというダメぶりを発揮したそうだ。くじらの行動と恋愛理論を重ねてみると、クチのうまいダメ男の自己弁護のように感じられるのだ。

 悩みを相談することで、さらなる問題が発生しては意味がない。あまりに心地いい理論には、何かワナがあるくらい思っておいてもよさそうだ。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの

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