高級スーパーで万引きしたシングルマザーに再会……Gメンが目撃した、あまりにも切ない“その後”

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2018年09月22日 20:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Photography from AC

 こんにちは、保安員の澄江です。

 いわゆる職業病なのか、行き交う人を確認してしまう習性を持つ私は、電車に乗っても乗客を確認してしまいます。そのため、電車内で女子高生を狙う痴漢を捕まえたこともあれば、網棚にある酔客の荷物を盗んで立ち去る置き引き犯を、駅員さんと一緒に追いかけて捕まえたこともありました。街中で忘れ物や落とし物に気付くことも多くて、年に何度か芸能人も見かけます。あまり人に言えない変な習性ですが、それなりに楽しんでいるわけです。

 つい先日は、現場に向かう電車の中で、以前に捕まえたことのある女性と鉢合わせになりました。自分が捕まえた被疑者と、電車内で遭遇するのは初めてのこと。どことなくどんよりした彼女の姿が目に入った時には、申し訳ないことに、万引き犯を見つけた時と同じ気持ちになってしまい、ついつい目線を外した次第です。その姿を視界に入れないよう、ドア脇の手すりに寄りかかりながら雨に濡れた街並みを眺めていると、彼女を捕まえた時の情景が鮮明に思い出されました。

「パン屋をやっているんですけど、お店の売り上げが悪くて……」

 およそ2カ月前、高級食品スーパーで、Mサイズのエコバッグがいっぱいになるほどの食品を盗んだ30代後半の彼女は、事務所の被疑者席で涙ながらに犯行理由を呟きました。聞けばシングルマザーだといい、離婚時にもらった慰謝料でパン屋を開業して以降、毎月の赤字に苦しんでいるというのです。

「腕に自信はあるんですけど、この1年半、ずっと赤字で……。前の旦那も、あまり養育費を入れてくれないから、本当に困っているんです」
「ご両親とか、誰か助けてくれる人はいないんですか?」
「みんな死んじゃって、頼れる人はいません。銀行もカードも目一杯借りちゃっているし、いまは滞納しているので貸してもらえないんです。実をいうと、今月は、家とお店の家賃も払えていなくて……」

 今回の被害は、おにぎりや海鮮丼、たこ焼き、高級トマト、アボカド、カマンベールチーズ、地ビール、缶チューハイ、ラーメン、メンマ、煮卵、餃子など14点で、被害総額は3,000円ほどになりました。盗んだ商品を見ると、割と高額で品質にこだわったモノも混在しており、“どうせ盗るなら良いモノを”という万引き犯特有の心理が垣間みえます。彼女の話が本当だとしても、盗んだ商品を見る限り食うに困っての犯行といえるようなものではなく、同情の余地はなさそうです。

「買い取れるだけのお金はありますか?」
「ありますけど……これを使ってしまうと携帯が止まってしまうので、使えないんです」

 すると、むせび泣く彼女の話を私の隣で黙って聴いていた店長が、不意に立ち上がって言いました。

「そうですか。いろいろ大変みたいだけど、それとこれとは話が別だからね。ルールなので、警察を呼びます」
「ちょっと待ってください。家で小学生の子どもが待っているんです。買わせていただきますから、警察だけは許して!」

 自身の右腕にすがりつく彼女を振り切った店長は、スマホを片手に事務所を出て、所轄の警察署に通報しました。この上なく不安気な面持ちで俯き、涙を落とし続ける彼女にかける言葉はありません。しばらくのあいだ無言の時を過ごしていると、臨場する警察官が奏でる特有の足音が聞こえてきました。

「あれ、お姉さん。この前も会わなかったっけ?」
「…………」

 あたりまえのことですが、短期間に犯行を繰り返してしまうと逮捕される可能性は高まり、警察官のあたりも強くなります。犯歴照会の結果、2週間ほど前にも駅前のスーパーで捕まっていた彼女に、どちらかというと意地悪な警察官が吐き捨てるように言いました。

「あんた。今回は、しばらく帰れないかもしれないな」
「子どもが家で待っているんです。もう2度としませんから許してください!」
「それ、この前も聞いた」
「う、う、うわあーん……」

 幼い子どもを持つシングルマザーの場合は、子どもの生活を保護するために在宅調べとなることも多く、いまのところどちらに転ぶかわからない微妙な状況に置かれているといえるでしょう。おそらくは戒めのために脅したのだと思いますが、それを真に受けた彼女は、膝から崩れ落ちると床に伏して、背中を丸めて子どものように泣き始めました。大音量で泣きわめく彼女を見下ろす店長の嫌気の差した顔が、とても冷たく、どこか幻滅した気持ちになったことを覚えています。最終的に、逮捕されることなく基本送致された彼女は、お店の従業員に身柄を引き取られることで帰宅を許されました。その後の処分を、私が知る由はありません

 図らずも同じ駅で降りた彼女の背中をみながら改札を出ると、彼女もまた私の行く方向に向かって歩いていきます。このまま現場に来られて万引きされたらどうしよう。一抹の不安を抱きながら素知らぬ顔で歩いていると、彼女がパン屋さんに入っていくのが見えました。

(ああ、ここなのか……)

 なんの気なしに店の入口をみれば、明るく可愛らしい店の雰囲気には似合わぬ、どこか重々しい感じがする張り紙が貼られています。その内容は、今月末で閉店するというもので、女が1人で生きていくことの難しさを思い知らされました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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  • このうら寂しい記事を読んだ後に、”ポテトとザンキが食べ放題”というバナー広告の方に、目を奪われたオレの貪食脳をなんとかしたい。@@
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