米中間選挙前に飛び出した、最高裁判事候補キャバノーの性的スキャンダル - 冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代

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2018年09月25日 17:32  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<高校生時代のレイプ未遂疑惑に加えて学部生時代のセクハラ疑惑が浮上した最高裁判事候補のキャバノー。中間選挙前の共和党と民主党の政争の格好のネタになってしまった>


アメリカ連邦最高裁の判事選びは、常に国政の最重要トピックになります。中には、大統領は誰でも構わないが、自分の主義と相容れない人間が最高裁判事になると困るから、その指名権を自分の支持政党が取って欲しいと言う共和党支持者(あるいは民主党支持者)の声もよく聞きます。


そんな中で、今回の最高裁判事指名は、大きなトラブルになりつつあります。まず、今回の指名の意義ですが、現時点での最高裁判事9人の構成は、


▼保守派......ロバーツ(長官)、トーマス、アリトー、ゴーサッチ(4人)


▼リベラル派......ギンスバーグ、ブライヤー、ソトマイヨール、ケーガン(4人)


▼中間派......ケネディ(1人)


となっています。ケネディ判事は、保守派のレーガン大統領に指名されたのですが、妊娠中絶、同性婚などの重要な判決では、リベラル側の判断に回っており、中間派とみなされていました。このケネディ判事が引退を表明したことから、新たな判事の指名が必要になっているのです。


トランプ大統領が指名したのは連邦巡回控訴審のブレット・キャバノー判事で、法律家として高い見識があると同時に、保守的な判断傾向があり、共和党としては「自分たちに近い判断をしてくれる」と言う期待感がありました。具体的には、「彼こそ、同性婚合憲判決や、中絶合憲判決を葬ってくれるかもしれない」という期待で、宗教保守派には特にそうした思いが強いようです。


つまり、アメリカの宗教保守派というのは、実はトランプのことをそれほど「好き」ではないのです。ポルノ女優と浮名を流し、カジノを経営し、以前は中絶容認の立場を取っていたこともあるトランプというのは、まったく宗教的ではないし、そもそも保守であるかも疑わしい、そんな距離感があったのでした。


キャバノー判事は、その距離を埋める存在であり、11月6日の中間選挙の投票日に向けて、トランプと宗教保守派に強い「同盟関係」を形成する、そんな存在だったのです。


これに対して、民主党の側には危機感がありました。このような保守系の判事が誕生して憲法判断の判例、例えば「中絶合法化」や「同性婚合憲判断」などをひっくり返されては大変だという思いです。また、上院における承認プロセスを通じて、キャバノー判事の承認をストップすることができれば、中間選挙へ向けた勢いがつく、そんな考えもあるようです。


そんな中、2つの疑惑が浮上しました。1つは、キャバノー判事が高校生時代に、もう1人の男性とともに当時15歳だった女性を押し倒してワイセツな行為をしようとしたというもので、これは民主党のファインスタイン上院議員のオフィスに告発があったことから明るみになりました。被害を訴えているのは、パロアルト大学の教授であるクリスティーン・フォードという女性です。


もう1つは、雑誌「ニューヨーカー」のスクープで、これはイエール大学時代のキャバノー判事が、下半身を露出して女性に嫌がらせをしたという生々しい内容です。判事自身は、この2つの疑惑について、全面否定の構えです。また、トランプ大統領は、フォード氏の告発状について「悪しきリベラル政治家の作文」と、これを一蹴するようなことを言っています。


キャバノー判事の過去の判決文などを見ますと、保守的であるものの、憲法判断をひっくり返すほどの過激な偏向は見られません。また、最高裁の場合、実際に歴史の歯車を逆転させるような深刻な判例変更が起きそうになった場合には、ロバーツ長官が「歴史の審判」を意識してストップをかける可能性もあると思います。


ですから、ここまで露骨な「30年以上前の過去の暴露」には、少々「やり過ぎ感」がないわけではありません。ですが、この2018年秋は、中間選挙を目前にした与野党の激しい政局が渦巻いています。


ですから、キャバノー判事の指名承認プロセスの結果は、中間選挙へ向けた民主・共和両党の勢いに影響してしまう、これはどうしても否定できない要素になっています。そして今週は、議会の公聴会で告発者のフォード氏とキャバノー判事が「直接対決」する見通しになっています。


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