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CSIRT小説「側線」: シンジケート

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2018年10月12日 15:43  ITmediaエンタープライズ

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ITmediaエンタープライズ

写真羽生つたえ:前任のPoCの異動に伴ってスタッフ部門から異動した。慌ててばかりで不正確な情報を伝えるため、いつもCSIRT全体統括に叱られている。CSIRT全体統括がカッコイイと思い、憧れている
羽生つたえ:前任のPoCの異動に伴ってスタッフ部門から異動した。慌ててばかりで不正確な情報を伝えるため、いつもCSIRT全体統括に叱られている。CSIRT全体統括がカッコイイと思い、憧れている

●この物語は



【その他の画像】



一般社会で重要性が認識されつつある一方で、その具体的な役割があまり知られていない組織内インシデント対応チーム「CSIRT(Computer Security Incident Response Team)」。その活動実態を、小説の形で紹介します。コンセプトは、「セキュリティ防衛はスーパーマンがいないとできない」という誤解を解き、「日本人が得意とする、チームワークで解決する」というもの。読み進めていくうちに、セキュリティの知識も身に付きます



●前回までは



機密情報を失いかねない危機にさらされたひまわり海洋エネルギー。ソリューションアナリストの道筋聡は志路からのキツい一言に落ち込んでいたが、セキュリティベンダーとの打ち合わせからヒントを得て、新たな防御システムの企画に着手した。その仕事は道筋の得意分野であり、次第に元気を取り戻していった。一方、羽生と小堀は、インベスティゲーター、鯉河の話で盛り上がっていた。



これまでのお話はこちらから



 10月、オレンジ色のキンモクセイの花が咲き、ふわっと香る。秋の訪れを感じさせる香りだ。



●@CISO室



 羽生つたえ(はぶ つたえ)と小堀遊佐(こぼる ゆうざ)が話をしている。



 小堀が話す。



 「そういえば、廊下で道筋君(みちすじ さとる)と会ったが、彼、ご機嫌だったぞ。この前の案件でがっかりしているかと思ったが、そうでもないみたいだな。彼は案外、打たれ強いのか?」



 つたえが困った顔をしながら答える。



 「私が言うのもなんですが、打たれ強いわけではないと思います。ただ、最近、志路さんに褒められまくっているようだから、それで機嫌が良いのではないでしょうか?」



 小堀がぼやく。



 「うーん、彼も褒めて伸ばす世代かー。志路(しじ たいが)や見極(みきわめ たつお)とか、鯉河(こいかわ へいぞう)とかを育てていた世代とは変わってきているな。おお、そういえば鯉河君、シンガポールに出張らしいじゃないか」



 つたえが応える。



 「インターポールで話を聞いてくると言っていました。インベスティゲーターとして必要な仕事だと」



 ――鯉河さんか。そういえば以前、見極さんから一度話に行くといいぞと紹介されたわ。あのときは見極さんからインテリジェンスの話をたっぷり聞かされて頭が痛くなったのでしばらく行かなかったけど。つたえは見極との話を思い出した。



 小堀が目を輝かせて聞く。



 「インターポール? 漫画でよくやっている、怪盗を追っかける警部のあれか? 待〜て〜、タイホだー、という」



 「いや、実態は職員があんな風に拳銃を撃って、追っかけるようなことはしないみたいですよ。情報を国際連携して各国の警察を有効に機能させる役目が多いようです」



 つたえが答える。



 小堀ががっかりした顔をしてうなずく。



 「なるほど。漫画は漫画ということだな。それでインベスティゲーターというのはどんなことをしているんだ? まさかスパイ活動ではないよな」



 つたえが答える。



 「漫画や映画とは違いますよ(笑)。私もあまりよく分かっていないのですけど、社内の不正行為の内偵や外部、特に警察などと連携して外部からの犯罪に対して調査を行うようです」



 小堀が言う。



 「ああ、鯉河君は警視庁からの出向だったな。警視庁では捜査の赤鬼の異名を持っていたそうだ。常に白黒カラーの車だったのが今では赤い車に乗れるので、喜んでいたぞ。彼、赤鬼というより、ただのカープファンなのではないか?」



 「知りません。それより、鯉河さん、内偵というお仕事から、女子には気味悪がられています」



 「ん? どうしてだ?」



 「メールやインターネットの利用状況、どこを見ているとか、どういう文章を誰とやりとりしているか、とかいった情報を、全部見られているのはないかとウワサです」



 「まぁ、建前上は業務利用でコンピュータを使っているはずなので、通信内容を見られても文句は言えないと思うのだが」



 小堀が不思議そうな顔で意見する。



 つたえがすぐに答える。



 「建前はそうとは分かっているのですが、ほら、親睦会やなんかだとメールで誘うこともあるじゃないですか。それが会社行事なのかそうでないのかも含めて。そんな時に誰を誘ったとか誘わなかったとか。インターネットの閲覧でも、どの化粧品を見ているとか、ダイエットサプリを見ているとか、どの服や靴を見ているとか」



 小堀は面倒くさそうな顔で聞いている。



 「そんな中で、ワイス(りっぽう わいす じゅんこ)さんが鯉河さんに意見しているのを聞いたことがあります。『鯉河さん、それ、日本だと大丈夫かもしれないけど、ヨーロッパの従業員にやったら訴えられますよ。彼らに対してこのようなモニターをする場合には、事前にその人に連絡して承諾をとることが必要です』と。その時、鯉河さん、『内偵をするのに本人に知らせるばかがあるか』とまくしたてていましたけど、ワイスさんは『それが法律ですから』と涼しい顔をしていました」



 小堀がため息をついて言う。



 「我が社はまだヨーロッパに支社がないからいいが、そんなことも考えなければいけないのか……。鯉河君の気持ちは分かる。ヨーロッパでは異常にプライバシーにこだわるな。会社と従業員の距離感が日本とは根本的に違う。たまらんな」



 「日本でも女子はたまらないんですけど」



 つたえがつぶやくのを無視して小堀が聞く。



 「それでインターポールでは何を聞いてくるんだ?」



 つたえが答える。



 「今年の4月に起きていた短い通信の観測、先日の情報漏えい騒ぎなどの件に対して見極さんといろいろ話していたようです。その中で、同じような手口の事象がどこか他の企業でも起きているのではないかと調査を進めているうちに、類似のものが見つかりました。最初に日本の官民情報連携機関に聞きにいったのですが、国際的な案件になりそうなので、日本の警察では手が出せないところもあるみたいで。そんなわけで、インターポールで話を聞いてみようということになりました」



 小堀が聞く。



 「日本の警察ではできないこともあるのか?」



 「日本の警察は日本の法律によって行動するため、犯人は日本で犯罪を犯さない限り、日本の法律が適用できないようです。現在はインターネットで全ての犯罪を完結することもでき、それが全て海外で行われていれば、日本の法律の適用外なので手が出せないようです」



 つたえは、鯉河から聞いた知識を受け売りした。



 小堀がため息をついてつぶやく。



 「あちらのほうが今のところ、一枚上手だな」



●@チャンギ国際空港



 空港に着いた鯉河は、出口で迎えの人をすぐに見つけた。太っている男だ。



 「こんにちは。お世話になります。鯉河です」



 太った男は笑顔で応えた。



 「シンガポールへようこそ。デーブ奥須(でーぶ おくす)です。よろしくお願いします」



 「よろしくお願いします。デーブさんはこちらの人ですか?」



 デーブは名刺を鯉河に渡した。そこには奥須美津雄と書かれていた。



 「いいえ。純粋な日本人です。こちらの習慣に合わせて最初はニックネームとして、biz奥須(びず おくす)と紹介していたのですが、ほら、この身体ですので、誰もbizとは呼んでくれずにデーブと呼ばれています。失礼なことに、最近ではさらに短縮されてデブオクスと呼ばれる始末です。あっはっはー。でも仕事は速いですよー」



 陽気な男だ。デーブはその名称はまんざらでもないようだ。



 「ところで鯉河さんはシンガポールは初めてですか?」



 駐車場の車に向かいつつ、デーブが聞く。



 「いや、何回か来たことはありますが、来る度に大きくなっていますね」



 「はい。今は第5ターミナルの建設中です。2025年開業を目指しています」



 感心しながら鯉河が言う。



 「チャンギ空港はシンガポールの国としての意気込みを感じます。前回、来た時に説明していただいたのですが、エアラインが利用する空港事務所には空港のサービスとしてセキュリティ監査サービスが付いていると聞いています。不適切なところがあれば指摘していただけるようです。



 また、これはあってはならないことですが、航空機の事故の場合などの、家族や関係者の待機部屋も無料で用意されていて、不安な気持ちの家族を支えるための心のケアをする医師もいるそうです。あらゆるサービスを空港の付加価値として提供してシンガポールをアジアのハブとして機能させる、という目標と実現スピードには感心するばかりです」



 用意された赤い車に二人は乗り込み、デーブが話す。



 「シンガポールは水の問題があり、いままでマレーシアから水を輸入していたのですが、今では海水を淡水化する技術も進んでおり、自国でまかなえる日も遠くないです。車についてはごらんのように渋滞が日常であり、車の税率を非常に高くして自家用車を抑制しようとしているのですが、なかなか解決しません」



 しばらくして、インターポール事務所に到着した。インターポールは、2015年4月にサイバー犯罪対策に特化した組織「IGCI」がシンガポールに開設されている。もともとインターポールは現実世界の国境を超えた犯罪の捜査や捜査協力を行ってきたが、国境を超えたサイバー犯罪の脅威が増大する現在、これに対応すべき超国家的組織が必要であるというのが設立理由だ。



 ちなみにIGCIの初代総局長が日本人であることはあまり知られていない。



【第10話前編 完 後編に続く】



イラスト:にしかわたく


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