万引きGメンに捕まって“失禁”――店長も呆れ果てた「タワマン専業主婦」が盗んだモノ

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2018年10月13日 20:03  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 みなさん、こんにちは。保安員の澄江です。大阪の富田林署から逃走した樋田容疑者、ようやくに身柄確保されてよかったですね。最後は山口県にある道の駅で万引きをした結果、女性保安員のタッグチームに捕まったと聞いて、あらためて万引きの現場におけるリスクを再認識させられましたよ。

 犯行に及ぶ被疑者の動画を見れば、私たちが反応してしまう要素に溢れており、目に入れば誰もが警戒するレベルにありました。犯行の現認はたやすいでしょうが、比較的強面の被疑者に声をかける勇気が出るかの勝負といった感じがします。道の駅での勤務は、保安員にとって決して楽なものではないので、樋田容疑者を捕捉できた喜びは大きいことでしょう。

 ただ、民間の建設会社や大阪府警OBによる懸賞金は、「万引き犯を捕まえた」という内容の通報では、被疑者の逮捕につながる情報提供とはいえないために、その支払いを留保されていると聞きました。指名手配者などの大物を業務中に捕まえても、警察から感謝状などが発行されることはないので、個人的には頷ける思いがいたします。それでも逮捕者にとっては、一生忘れられない事案になったと思われ、お二人の女性保安員が、この仕事の価値を世間様に再認識させてくれたことを、同業者の1人として感謝していることをお伝えしたい気持ちで一杯です。

 その一方、つい先日に66回目の誕生日を迎えた私の捕捉率は、雨の日による客足の悪さに比例して悪化しています。万引きは、一般客に混じって行われる犯罪のため、お客さんが少ない雨の日は、万引きする人も少ないのです。先月は、その影響なのか5日連続で成果があがらなかったこともあり、自分の存在意義を否定されているような思いで過ごしました。何もないことが一番だと、お店の人たちは言ってくれますが、実績がなければ信用されません。この仕事を長いことやっていると、ついつい油断してしまう部分もあり、スランプに陥ることもあるのです。もちろん、まったくやられないというわけではなく、人影のない店内で万引きを繰り返す人も存在します。

 先日は、台風の中、東京の湾岸地域にあるショッピングモールで体格のいい専業主婦を捕捉しました。カゴを持たずに怯えた様子で、しきりと後方を振り返りながら、店内を徘徊する彼女を追尾した結果、自分のトートバッグに商品を隠すところを現認したのです。被害品は、ブランド物のハムやベーコン、ウインナーなどでした。

「あの、お客さま。なんで声をかけられたか、おわかりですよね?」

 気が小さいのか、店の外に出るまで執拗に後ろを振り返り続けた彼女は、私に声をかけられると目を見開いて、体を震わせました。風雨がひどく、返事を待っているだけでも大変な状況なので、彼女の手を引いて店内に引き戻します。

「おわかりですよね? 事務所まで、ご一緒いただけますか?」
「はい、ごめんなさい。わかりましたから、先にトイレに行かせてください」

 先述した樋田容疑者も「トイレに行かせろ」などと、逃走の機会を窺うような発言を繰り返していたそうですが、こうした要求に我々保安員が応えることはありません。盗んだ商品を特定して、身分確認を済ませ、警察官に引き渡すまでは我慢してもらうのがセオリーなのです。もちろん逃走や証拠隠滅をさせないためというのが大きな理由ですが、過去にトイレで手首を切って自殺を図った被疑者もいたので、あらゆる事故を防止するためというべきかもしれません。堪えきれなかったのか、嫌がらせなのかはわかりませんが、もう我慢ならないと、事務所で大きい方をしてみせたホームレス男性もおりました。しかもそれは、固形ではなく液状化している方。そのニオイも強烈で、思わず事務所から逃げ出しましたが、なぜか店員さんと2人で後始末する羽目になり、半ベソをかきながら掃除したことを思い出します。

「申し訳ないけど、ちょっとだけ我慢していただけませんか?」
「あの、我慢とかじゃなくて、出ちゃったんです……」
「あらー……」

 俯く彼女と同じ方向に目線をやると、彼女のパンツには雨で濡れたのとは違う大きなシミが、内股から膝にかけてまで広がっていました。それでも、盗んだ商品と身分確認を終えてからでないと、なにをされるかわかりません。否応なく事務所に連れて行くと、わずかな距離を歩いただけで息切れしてしまった彼女は、事務所に入るなり断ることなく目の前の丸椅子に腰を下ろしてしまいました。

「ちょっと、あなた。座ったら椅子が汚れちゃうじゃないですか」
「ごめんなさい。私、若年性更年期障害で疲れやすいもんですから、つい……」

 お立ちいただいた状態で身分確認などの事後処理を進めていくと、31歳だった彼女は、この店の近くにあるタワーマンションに住む専業主婦であることがわかりました。末尾の番号を見れば3500番台なので、さぞかし景色のよろしいお部屋なのでしょう。それを見た女性店長が、嫌味たっぷりな様子で彼女に言いました。

「あんなに立派なタワーマンションにお住まいなのに、なんでこんなことするんですか。粗相までして、どれだけ迷惑かければ気が済むのよ」
「本当に、すみません。実は、夫と離婚することになって、来週には引っ越さないといけないんです。生活費ももらえてないし、なるべくお金を使いたくなかったから……」

 続けてバッグに隠した商品を出させると、この店で盗んだ高級ハムやベーコン(2,500円相当)のほかに、この店では扱っていない可愛らしい子ども向けのハンドタオルやキーケース、ハンドバッグなどの商品も出てきました。全てが新品である上、値札がついたままの状態なので、いましがた盗んできた感じにしか見えません。それを彼女に尋ねると、この店に隣接する人気雑貨店で盗んできたと、呆気なく白状しました。複数の店舗で万引きすることを、我々は「ハシゴ」と呼んでいますが、ここにまで至るのは常習者の証といえるでしょう。

「こんなに盗んじゃって……。今日は、どうしちゃったんですか?」
「明日は、娘の誕生日なんです。誕生日プレゼントを買ってあげるお金もないから仕方なかったんです」

 彼女の話に嘘がないとすれば、かなりの苦境にあるようですが、盗んだ商品で愛娘の誕生日を祝う心境は理解できません。それを聞いた店長も呆れてしまい、近くの店員さんに、商品である下着とスウェットを用意させると、彼女のトイレに付き添うよう指示してから売場に戻っていきました。まもなくしてキッチンペーパーと除菌スプレーを手に戻ってきた店長が、それを私に押しつけるようにして言います。

「通報してきますので、あとはお願いします」

 どうやら掃除を担当するのは、またしても私のようです。濡れた丸椅子の黒い合皮には、彼女のお尻の形がくっきりと残されており、とても嫌な気分になりました。

(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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