【コラム】 レトロと文学が薫る幻のカクテル「デンキブラン」

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2008年07月02日 12:05  よりミク

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ちまたで「幻のカクテル」「文明開化の味」などという呼び声が聞かれるお酒があります。その発祥は東京の下町、浅草でした。雷門や隅田川と並んで、浅草の代名詞のひとつとして数えられる神谷バー。そこは明治の創業当初から庶民たちの憩いの場であり、名物として親しまれたカクテルの名前はデンキブランと言いました。
浅草の老舗、神谷バー
浅草の老舗、神谷バー
 デンキブランが誕生してからおよそ120年の歳月が過ぎ去りました。レトロな雰囲気の漂うこの不思議なネーミングには、当時の時代背景がうかがえます。まだ電気が珍しかった明治の頃、西洋風の洒落たものには「電気○○」と名付けるのが流行だったのです。また、デンキブランの「ブラン」は、ベースとなっているブランデーから来ています。その他にもワイン、ジン、キュラソー、薬草などがブレンドされていますが、その混合比率は未だに秘伝。けれど、秘密にされればされるほど、人は興味をそそられてしまうもの。そんな「秘伝」の部分もまた、味わいのひとつなのかもしれませんね。
デンキブラン
デンキブラン
 あたたかみのある琥珀色をした電気ブラン。ほんのりと甘い口当たりのため、くいっと呑めてしまいます。しかし、油断は禁物です。実はアルコール度数は30%。「3杯飲んだら感電したように足腰が立たなくなる」なんてことも言われていたりします。かの文豪、太宰治も「人間失格」の中で「酔いの早く発するのは、電気ブランの右に出るものはないと保証し……」と描きました。実は、電気ブランは文学とも縁が深いのです。
神谷バーの外観
神谷バーの外観
例えば、詩人で作家の萩原朔太郎は、神谷バーを指してこんな歌を残しています。
「一人にて酒をのみ居れる憐れなる となりの男なにを思ふらん」(神谷のバァにて)
 また、森見登見彦は07年本屋大賞で2位を獲得した「夜は短し歩けよ乙女」の作中に「偽電気ブラン」という飲み物を登場させ、ファンタジックな小説の世界をおいしく盛り上げています。フォークシンガー・あがた森魚の「乙女の儚夢」というアルバムには神谷バーと電気ブランを歌った「電気ブラン」という曲まであるようです。時代を切り取る作家たちの作品によって、このカクテルがいかに愛されてきたのかが伝わりますね。
 今もなお神谷バーには連日多くのお客さんが来店し、デンキブランを片手に交友を深めています。時代を超えて愛され続けているデンキブラン。グラスを傾ければ、そこに過ぎ去った時代を垣間見ることも出来るかもしれません。あなたも一夜のノスタルジーに酔いしれてみてはいかがでしょうか。(執筆・編集/mixiニューススタッフ)

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