タンザニアで迫害されるアルビノの命の歌

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2017年05月30日 19:33  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<アルビノの肉には魔術的な力がある──サハラ以南のアフリカに残る迷信のせいで動物のように狩られてきたアルビノの人々が、アメリカ人音楽プロデューサーの下でバンドを結成。彼らが歌に託した想いとは?>


タンザニア本土からその島までは、朝と夕に1便ずつしかないフェリーに揺られて約1時間。ビクトリア湖の中心に浮かぶウケレウェ島は、アルビノ(先天性色素欠乏症)の人々が比較的安全に暮らせる避難所として知られる。タンザニア本土では、アルビノは迫害され常に死と隣り合わせだ。獣のように狩られ、体の一部を切断されることもある。


遺伝性疾患であるアルビノは、体内でメラニン色素を生み出せず、皮膚や髪、目に色素がないために白い。タンザニアは、全人口に占めるアルビノの割合が世界で最も多い国だ。カナダの人権擁護団体「アンダー・ザ・セイム・サン」(UTSS)のタンザニア支部によれば、その割合は北米やヨーロッパの14倍に上る。


グラミー賞の受賞歴を持つ米カリフォルニア州出身の音楽プロデューサー、イアン・ブレナンは昨年6月、共同プロデューサーのマリレーナ・デリとともにウケレウェ島を訪れた。アルビノの人々とアルバムを制作し、アフリカで最も声なきマイノリティーともいうべき彼らの声を、世界中に届けるという計画を携えて。


「世界でも断トツに悲惨」


それから1年。ブレナンはアルビノと結成したバンド「タンザニア・アルビニズム・コレクティブズ」と共に、アルバム『ホワイト・アフリカン・パワー』を引っ提げてこれからツアーに出る。バンドのメンバーのうち5人は、夏にイギリスで開催される音楽フェスティバル「WOMAD(ワールド・オブ・ミュージック・アンド・ダンス)」に出演する予定だ。


音楽の質は、聴けばわかるというのがブレナンのスタンスだ。それでも、バンドの一部メンバーが生きてきた過酷な運命が、作品の意義を一層深めているのは間違いない。


「特定の集団が狙われ、レイプされ、殺害され、生きたまま体を切断されるという話は、世界で起こるあらゆる凶事の中でもダントツに悲惨だ」と、ブレナンは本誌に語った。


タンザニアではアルビノの人々を狙った襲撃が世界でも突出して多く、UTSSによれば、2006年以降に報告された襲撃事件が今年4月の時点で173件に上った。そのうち76件は殺人で、遺体が墓から掘り出されたケースは20件以上、レイプや誘拐も多数発生した。


タンザニアでは、身体を切断されることもある Marilena Delli


アルビノの人々が襲撃されるのは迷信のせいだ。マラウイやモザンビークを含むサハラ以南のアフリカ諸国の一部では、呪術医などが、アルビノの人肉には魔術的な力があり、幸運や富をもたらすという迷信を広めている。


タンザニアにおけるアルビノに対する仕打ちには、軽蔑と悪意が入り混じる。アルビノの子どもが生まれると、多くの父親は羞恥心から母親を家から追い出す。アルビノの臓器や手足は高値で売れるため、常に命を狙われる。2009年に赤十字が発表した報告書によれば、アルビノで全身のパーツが残った遺体は7万5000ドル相当で取引されるという。


予想を超える深い傷


ブレナンは、アルビノとタンザニア社会の共生を目指すイギリスの慈善団体「スタンディング・ボイス」から支援を得てアルバムを制作した。ブレナンを中心に、ウケレウェ島で暮らすアルビノ20人が加わり、11日間でバンドを結成。アルビノのメンバーは、最初困難にぶつかった。全員が音楽の素人というだけでなく、メンバーの多くが長い間家族の手で隔離されていたうえ、教会で歌うことも禁じられていたのだ。


「一部のメンバーにとっては、ゼロというよりマイナスからのスタートだった。文字通り、社会から締め出されてきたのだから」とブレナンは本誌に語った。「私たちが予期すらしなかった深い心の傷に遭遇することの連続だった」


それでもバンドのメンバーは徐々に心を開き始めた。アルバムの作詞や収録に参加した。メンバーは大半がアルビノだったが、アルビノの子どもを持つ母親も2人いた。ブレナンはメンバーに、個人的な経験を歌詞に込めるよう励ました。その結果、迫害された過去を振り返った『They Gossiped When I Was Born(私が生まれたとき、彼らは陰口を叩いた)』『Never Forget the Killings(あの殺戮を忘れない)』の他、アルビノの人々が持つ抵抗の意志を表す『Tanzania Is Our Country, Too(タンザニアは私の国でもある)』など、脳裏に焼きつく曲が次々に生まれた。


今回参加したアルビノのメンバーの中には、長年社会から隔離されてきた過去を乗り越えて、周囲との連帯を強める人もいた。歌とキーボードを担当した店主のリジキ・ジュリアス(40)は、妻にプロポーズしたとき妻の家族が反対し、妻は自分の肩を持ったせいで絶縁されたと明かした。「妻の家族は、家畜同然の私など、娘の夫に相応しくないと言い放った。心がズタズタになった」とジュリアスは通訳を通じて本誌に語った。


「私は音楽を愛しているし、歌うことで自分を表現できることが楽しい。今回の音楽プロジェクトで、自分たちには不可能だとあきらめていたことができた」


ブレナンの願いは、このアルバムで少しでも、アルビノに対する偏見や差別がなくなることだ。その想いを集約するのが、収録最終日となった昨年の6月13日──奇しくも国際アルビニズム啓発デーと重なった──に起きたエピソードだ。その日は地元のDJが、バンドのメンバーのためにアルバム完成を祝うコンサートを開いてくれた。するとアルビノ以外の多くの地元の子どもたちが音楽にあわせて踊り、最初はためらっていたアルビノのメンバー数人も一緒の輪に入って踊り出したのだという。


「みんな大はしゃぎで弾けまくって、1時間以上自由に気持ちよく踊ったんだ。あの瞬間、アルビノの人々を隔離してきた壁が崩れ落ちるのを見た気がしたよ」


(翻訳:河原里香)


アルバム:『ホワイト・アフリカン・パワー』(Six Degrees Records)


歌と演奏:タンザニアン・アルビニズム・コレクティブ


6月2日CD発売、ダウンロード開始


*タンザニアン・アルビニズム・コレクティブは7月27日〜30日、英WOMADで演奏する予定




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このニュースに関するつぶやき

  • こういうアルビノを迷信で食っちゃう話もそうだけど、「人間という生物」は同じでも「どこまでを人間と認識するか」は個人・民族・文化などで違う。すべての人類を人間として扱いたいものだが・・・
    • イイネ!13
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