「筋トレを一切せず」 アームレスリング日本王者に。“最強の腕”を作った“最高の環境”

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2024年06月21日 09:10  日刊SPA!

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宍戸俊之さん
フランスのヘルスケアデバイスを手がける企業「Withings」の調査によれば、日本人の筋肉量の低下は国際的にも顕著だというデータが存在する。しかし、これはあくまで平均の話。
人間離れした腕の筋肉を武器に、世界を相手に真っ向から戦い続けているのが、福島県郡山市に住む宍戸俊之さん(35歳)だ。一体どんな人物で、どんな生活をしているのか。本人を直撃した。

◆前腕が40センチ、上腕は50センチ…

身長188センチ、体重140キロと全体的に厚みがあり、まるでキン消しのようなフォルムだ。なかでも特に目を引くのが腕の太さだ。前腕の太い部分で40センチ、上腕にいたっては50センチにも及ぶ。これだけ太いと、生活に支障が出ている部分もあるようだ。

「とにかく服がありません。袖が通らないんですよね。普段の服もそうですし、仕事用の作業着にも着れるものがなくて。(腕に加えて)肩の筋肉も大きくなってきたので、スーツも既製品は無理なのでオーダーしています」

◆アームレスリングの戦法は「数百通り」

東京出身の宍戸さんは、スポーツが盛んな学校で学生生活を送り、野球・ラグビー・バスケットボールなど様々な競技を経験。しかし、10年前に仕事の都合で福島県に引越したことにより、環境や人間関係が変化し、身体を動かす機会が減っていた。そのタイミングで知り合いから「競技としてのアームレスリング」を勧められる。

「最初は興味本位でしたが、シンプルに見えてとても奥が深いと気づいて。遊びの腕相撲なら、検索すればすぐに勝つための『コツ』が出てきますが、アームレスリングはまず自分にあった戦い方を見つけなくてはいけませんし、相手によっても戦法を変える必要があります。ある程度パターン化しているとはいえ、その戦法は数百通りも存在します」

◆「筋トレを一切しない」のに、全国大会で3連覇

こうしてアームレスリングの沼に深くハマっていった。新しくスポーツを始めるには遅いようにも感じられる年齢だが、その才能は一気に開花することとなる。

「全国ではまだまだでしたが、競技を始めて1年で福島県の3位になりました。色々なスポーツを経験していたから、筋肉の使い方を理解するのが早かったんだと思います」

そして、2017年には福島県大会で優勝。さらには、2021年には日本アームレスリング連盟の全国大会で優勝し日本一に輝き、2023年に3連覇を達成。向かうところ敵なしの状態だ。

さて、“日本最強の腕”ともなれば、圧倒的な太さも納得。一体どんな筋トレで研鑽を積んでいるのだろうか。

「実は私、筋トレを一切しないんですよ。アームレスリングのトレーニングもイメトレと実践をひたすらやるだけです」

◆石材店での仕事がトレーニングになっていた

では、どのように鍛えているのか。普段の生活にその秘密があった。宍戸さんが2年前から働いているのは、福島県内の石材店だ。

「アームレスリングで知り合った人が石材店の経営者で。転職を考えた時期に人を募集していると聞き、採用してもらいました。志望動機は『仕事がトレーニングに直結する』と思ったからです(笑)」

石材店であれば、通常業務がトレーニングになると考えたのだ。実際の仕事内容を聞くと、かなりハードな肉体労働のようである。

「5〜6キロはあるハンマーを振り回すことも多く、まず手首が鍛えられますね。そして、重たい墓石を扱うので腕や背中と行ったアームレスリングに必要な筋肉がつきますね。石の重さは、持ち上げるもので80〜90キロくらい、横になっているものを起こすのであれば200キロくらいです」

◆一般人に勝負を挑まれることが多々ある

こうして、日々働きながら屈強な肉体を手に入れた。その肉体は街中でもかなり目立つようだ。

「居酒屋で飲んでいると、だいたい『何かスポーツやってるの?』と声をかけられます。『アームレスリングやってます』と答えると、ほぼ100%『1回やってみよう』という流れに……」

アームレスリング日本最強の男に、たまたま隣で飲んでいた一般人が敵うはずはない。全勝かと思いきや、プロならではの配慮が存在していた。

「勝つことはないですよ。ちゃんとやろうとすると、相手が怪我してしまうので(笑)。ひどい時は、骨が折れてしまうこともあるので、ただ勝負を受けるだけです」

◆世界大会で「パワーの差を感じた」

日本では敵なしとなれば次は世界。2023年、日本代表として初めて海外での世界大会に出場した。その結果は「右が9位」で「左が10位」だ。

「実は、両手でもエントリーできるんです。私も普段は右だけのエントリーが多いんですけど、初めての世界大会だったので雰囲気などもしっかり経験したくて。左のほうは全く練習してなかったんですが、両手でエントリーしてみました」

右で世界9位はもちろんすごいものの、全く練習していない左でも10位とは……。まさに天賦の才能というべきかもしれない。ただ、現状に胡坐をかくつもりはない。この大会を経て、世界との大きな壁を感じ、決意したことがあった。

「筋トレしようと思いました(笑)」

筋トレをせず日本一に上り詰めた宍戸さんにとって、大きなターニングポイントとなった。

「もちろんパワーの差を感じました。それに、取材をしていただくと腕の太さを取り上げてもらうことが多いんですが、海外に行くともっと太い人も当たり前にいて、恥ずかしくなるくらいだったんですよ。海外の選手は、プロとして契約してお金をもらい、さらに賞金も稼ぐという人もいますので、モチベーションもレベルも違います。もう一段レベルアップは必要ですね」

◆将来的に「真の世界一」を目指す

世界の壁を感じ筋トレを開始するというが、スポーツにおいて選手のピークは20代という場合が多く、30歳を超えると衰えてくるのが一般的。現在35歳の宍戸さんは、これから筋トレをはじめて強くなる目算はあるのだろうか。

「アームレスリングのピークは40代までとよく言われます。“20年選手”もいるので、私なんてまだペーペーですよ。だから、海外での経験も踏まえてこれから3〜4年でピークに持って行こうと思っています。目標はもちろん世界チャンピオンですが、世界一を決める大会はいくつかあって。それぞれの大会のチャンピオンが集まって、真の世界一を決めるような試合もありますから、『最終的な目標は真の世界一』ですね」

◆開始前に勝敗の70〜80%が決まる

さて、数年後、宍戸さんが世界一になる姿をより深く見届けられるよう、最後にアームレスリング観戦の楽しみ方を聞いてみた。

「試合時間は一瞬なんですが、開始前に手を握り合う時のせめぎ合いに注目してほしいです。相手の目と手をしっかり見ながら、駆け引きをしてるんですよ。セットアップというんですが、ここで勝敗の70〜80%が決まると思っています」

相撲で言えば立会い前の仕切りの緊張感から、選手同士の戦いは始まっているのだ。宍戸さんのスタイルでは勝負は一瞬で決まるのだという。

「優勝するまでに5試合あるような大会だと『トータルの試合時間を10秒以内にしろ』と教わっています。なので、1試合の平均は1〜2秒ですね。私はスピード型なので『レディーゴー!』の掛け声から、全力を出すまでの時間をどれだけ短くするかに懸けています。時間にしたら100分の1秒のような世界ですが、先に全力に到達して先手を取って戦います」

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アームレスリング日本最強の男の腕は、これからさらにたくましく進化するだろう。数年後、世界最強になっていることを期待したい。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

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  • 石材や納得・・・石材屋の大将は 車が大破しても無傷だったらしい。
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