弟ばかりに愛情を注いできた「毒親」から介護要請。周りはみんな“実家に戻るべき”と言うけれど……

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2024年06月25日 21:51  All About

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半ば絶縁状態の毒親から1本の電話が。父が脳出血で入院し、退院後は介護が必要になるから実家に戻ってこい、とのこと。親との同居介護に悩む50代男性に、介護アドバイザーの横井孝治が寄り添います。
高齢化が進む日本において「介護」は大きな社会テーマのひとつ。そこには、お金や人間関係などさまざまな問題が横たわっているようです。

本稿では介護に悩む人のエピソードを紹介しながら、介護アドバイザーの横井孝治が注意点などを解説します。

今までさんざんな扱いをしてきたのに?

「これまで自分に無関心だったどころか、仕送りをしても感謝のひと言すらなかった母から、『実家に戻って介護するのが当然』と言われても。どんな事情があっても、家族を優先するべきなんでしょうか」

今回、介護の悩みを打ち明けてくれたのはタツノリさん(50代男性)。子どものころから1つ年下の弟と比較され、両親からは差別的に扱われてきたといいます。

「本当は僕も大学に行きたかったんですけど、親に『弟の学費が優先だから、高校を出たら働いて、家に金を入れろ』と却下されちゃって。

結局、高校卒業後は地元の企業に就職しました。ただ、両親や弟と顔を合わせるのは嫌だったので、実家から少し離れたところで一人暮らしをしましたけど」

それからタツノリさんは、毎月5万円、ボーナス時は追加で10万円を仕送りし続けている。結婚して生活が変わっても、仕送り額は変えなかった。

なるべく家族との接触を避ける生活が続き、親や弟とは、数年前に亡くなった妻の葬儀で会ったくらいだったそう。

そんな中、突然1本の電話がかかってきました。

「お父さんが脳出血で入院したの。退院した後も体にまひが残るらしくて。弟にはほら、家族があるじゃない? 家も遠いし。だからタツノリ、長男のあなたが実家に戻ってきなさい」

「えっ、無理だよ今さら」

今まで弟のことばかり優先してきて、家にお金を入れても何も言ってくれない、半ば絶縁状態の母から「実家に戻って介護をするのが当然」と言われてイラついたタツノリさんは、介護要請を断りました。

しかし、怒り狂った母から電話の嵐。

「これからお父さんにもお金がかかるのよ。もっとお金を入れてよ」「あなたが実家で暮らせば、家賃分は追加で入れられるじゃない」「お父さんの介護も、女の私より男のあなたのほうができるでしょ」

弟からは「兄さんは独り身だから身軽でしょ? 親と和解するチャンスだし、ほら」と言われ、主治医からも「子どもとして親を支えるのは当然。実家に帰ってあげなさい」と同居介護を勧められてしまいます。

「正直、あんな家には帰りたくありません。今までさんざんな扱いをしてきたのに、素直に戻ってこい、なんて無理ですよ。ただ、気がかりもあって。主治医の言葉を無視し続けてもいいのかなって。困っています」

もう一生分の親孝行はやり遂げたのでは

さて、タツノリさんの悩みはどうしたら解消できるのでしょうか。

まず、タツノリさんはあまりにも優しすぎます。おそらく幼少期から親に尽くすよう刷り込まれて、呪いがかかったような状態といえそうです。

自身の大学進学を諦め、何十年も仕送りをし続けてきたのであれば、すでに一生分の親孝行はやり遂げたのではないでしょうか。むしろ、やり過ぎなくらい。

これまでタツノリさんが受けてきた冷遇を考えると、申し訳ありませんが、両親の言動は常識外れも甚だしい。まさに「毒親」だと思います。

重要なのは「自分はどうしたいのか」

仕送りについては停止、または減額でもいいくらいでしょう。介護費用はもちろん、親の生活費は年金や親の預貯金などでまかなうのが基本。

親が金銭的に立ちゆかないのであれば、生活保護の受給など、公的サポートの利用を促すべきです。親のためを思ってサポートをしても、それで自分自身が苦しくなってしまっては本末転倒ですから。

また、医師は基本的に“患者ファースト”であることが多いです。タツノリさんを取り巻くさまざまな事情のすべてを把握しているわけではないので、あくまで“患者にとっての最善策”を提案したのでしょう。

医師や介護のプロなど第三者のアドバイスに耳を傾けるのは大事なこと。独りよがりのまま、これからの介護計画を立てると失敗するリスクが高まってしまいます。

しかし、最後の意思決定は自分自身で行う必要があります。これから自分はどんな生活をしていきたいのか、どう生きるべきなのか、他人に言われるがままに決めてしまっていいはずがありません。

タツノリさんの人生が、親から搾取されるだけで終わっていいとは、筆者には思えませんでした。

介護の方針を定めるときに大切なのは「自己決定」すること。

人から押し付けられた方針は、何かつらいことがあったらすぐ腰砕けになってしまう。でも、自分で熟考して決めたことならば、いざというときに踏ん張りが利いたりするんです。

なので、さまざま情報を参考にしながら、「自分がどうありたいか」「自分はどうなるべきか」、ぜひ自分で最終決断を下してほしいと思います。

これまでに失ったものを取り戻すことは不可能です。ただし、これから先に奪われるのを止めることはできるのではないでしょうか。

横井 孝治プロフィール

両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。
(文:横井 孝治(介護アドバイザー))

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