聞いてた話と違う! 中途採用で「経歴詐称」が発覚、会社はどう対応すべき?

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2024年06月28日 08:50  ITmedia ビジネスオンライン

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 昨今何かと「経歴詐称」が話題に上がっています。


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 従業員を雇用した後に「大卒だと思って採用したのに高卒だった」「営業経験者として採用したのに職務未経験者だった」など、学歴や職歴を詐称していたことが発覚した場合、企業はそのことを理由に従業員を解雇できるのでしょうか?


 この記事では事例をもとに、経歴詐称による解雇可否の判断基準、採用時に経歴詐称を防ぐための注意点を解説します。


●「経歴詐称」で解雇は許される?


<事例1>


 食品加工、卸売を営む甲社(従業員数100人)は、営業社員が1人退職したので営業職の経験者を募集する求人広告を掲載。程なく後任として、前職で8年間営業を担当していたAさん(30歳)を中途採用しました。


 Aさんは入社2カ月で早くも新規顧客を獲得、半年後には部署内でトップの売り上げを達成しました。しかしその後、Aさんの高校時代の同級生である先輩社員の言動で学歴詐称が発覚。履歴書には大卒と記入があったところ、実は高卒であることが分かりました。


 甲社長は、「仕事ができるのは認めるが、会社にウソをついていたのは良くない」とし、Aさんを解雇することにしました。


<事例2>


 乙社(従業員数100人)は、新規事業を立ち上げることになり、プロジェクトリーダーとなる人材を募集することにしました。求人には「前職で企画を推進するリーダーの経験者であること」の条件を提示し、応募者には職務経歴書の提出を求めました。


 2週間後、前職で3つの新規プロジェクトのリーダーを務め、経験豊富なBさん(35歳)を採用しました。しかしBさんは、入社後3カ月が経過しても、プロジェクトを進めるためのスケジュール管理をし、部下に指示を出すなど、リーダーとしてしなければならない仕事がほとんどできません。現在はプロジェクトを総括している企画部長が中心となり、他のメンバーが互いにフォローしてなんとかBさんの穴を埋めていますが、そのせいで当初の計画から大幅な遅れが生じてしまいました。


 困った企画部長は「これ以上プロジェクトの進行を遅らせるわけにはいかないので、新しいリーダーを採用してほしい」とBさんを採用した総務部長に訴えました。


 その後、総務部長はBさんが以前勤めていた会社に連絡をし、職歴の確認したところ、確かに会社としていくつかの新規プロジェクトを行っていましたが、Bさんがそのメンバーだったのは退職前の半年間で、おもに外部用の資料を作成するなどの補助業務を担当し、チームリーダーとしての経験がないことが分かりました。


 総務部長は企画部長や乙社長と相談の上、Bさんを解雇して新たなリーダーを募集することにしました。


 従業員の経歴詐称が発覚した場合、解雇をするためには、就業規則に、経歴詐称した場合解雇にする旨の懲戒規程が明記されていなければならず、それに加えて解雇するに足る合理的、社会通念的な理由が必要です。


経歴詐称による解雇可能な判断基準


 (1)企業が採用する際に重視している「重要な経歴」が詐称されていたこと。「重要な経歴」とは、詐称された内容について企業が正確な情報を知っていれば採用しない判断を下す経歴のことをいいます。例えば事例2のようにBさんの本当の職歴が分かれば採用しなかったでしょう。


 (2)経歴の詐称により労働条件などの待遇が有利になること。例えば、大卒と高卒で給料に大幅な差があることなどがあります。


 (3)経歴詐称の発覚で、企業内の秩序が乱れたり、コンプライアンス違反などで顧客への信頼が失われること。


 事例1の場合、Aさんは学歴を詐称していましたが、現状は優秀な業績を上げており学歴と職務の関連性があるとは言えません。また、仕事の性質上、取引先との関係も損なわれる可能性は少ないと思われます。学歴により労働条件に著しい違いがある場合はまだしも、解雇した場合、本人の訴えがあれば無効になる可能性が高いでしょう。


 事例2の場合、Bさんは「プロジェクトリーダー経験者限定」という乙社が採用で最も重要視している職歴が詐称されていますし、プロジェクトリーダとしての任務がほとんどできていません。


 経験者として採用した場合、会社の即戦力になることが期待されているため、未経験者のように相応の時間をかけて一から教育・指導するまでの義務はなく、職務に対して能力不足か否かの見極めも早くなります。このまま改善が見込めなければ、最終的に能力不足での解雇が有効になる可能性が高いでしょう。


●「経歴詐称」を見抜く方法


 では、従業員の採用時に経歴詐称を防ぐため、何に気を付ければいいのでしょう。


 応募者と会社が直接顔合わせをする第一段階が面接であり、この段階で経歴詐称が分かれば従業員として採用しないことが可能です。


(1)面接時に経歴を証明する書類などを提出してもらう


 提出書類には、卒業証明書、募集職種によっては資格を証明する書類などが該当します。中途採用の場合、特に「経験者」「管理職」などを募集する場合、職務経歴書の提出を求めるようにします。


(2)面接官向けの質問集などのマニュアルを作成し運用する


 面接時に質問すべきこと、逆に質問してはいけないこと(家族に関する内容など)を事前に確認します。


(3)面接時のヒアリング内容を工夫する


 前職での職務内容、退職の理由、志望の動機など、履歴書、職務経歴書の記載内容を確認するため深く掘り下げたヒアリングを行います。


(4)リファレンスチェックをする


 リファレンスチェックとは、応募者が前職での職務内容、実績、勤務状況などについて応募書類への記載や面接時に話した内容に偽りがあるかどうかを前職の上司などに確認をする調査のことをいい、おもに外資系企業や日系グローバル企業などで導入されています。また、日系企業でも転職市場の活発化により中途で管理職者や経験者を採用する場合、リファレンスチェックを行う企業が増えていくでしょう。


 リファレンスチェックを行うことで、応募者と会社が求めるスキルや経験などのギャップの有無や採用後の部署に適応できるかなどの判断がつきやすくなり、優秀な人材の確保につながる可能性が高まります。


 ただし、リファレンスチェックを行う場合は、応募者には事前に説明し同意を得ることが必要です。同意を得ないでリファレンスチェックを行うと、個人情報保護法違反により後日トラブルに発展するリスクがあるので注意しましょう。


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