伊勢孝夫が岡田彰布監督の采配に喝 「もっと選手を信頼し、気持ちよく送り出してやるべきだ」

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2024年07月01日 17:20  webスポルティーバ

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 昨シーズン、18年ぶりのリーグ制覇、38年ぶりの日本一に輝いた阪神。今季は球団初の連覇がかかっているが、ここまで(6月30日現在、以下同)リーグ4位と苦戦している。現在セ・リーグは首位の広島から最下位のヤクルト、中日まで7ゲーム差と、混戦模様である。ここから阪神が抜け出すには何か必要なのか。解説者の伊勢孝夫氏に聞くと、指揮官への厳しい言葉が続いた。

【疑問に感じた大山、サトテルの起用法】

 折に触れ、私が口にしていることだが、今後のことを考えたら、相手投手が右であろうと左であろうと、使うべき選手を使うことが大事なのではないか。問題ばかりの打線に見えるが、大山悠輔、佐藤輝明、森下翔太......この3人が頑張らなければ阪神の先は見えない。ところが今季、この3人がどうもおかしい。

 不振から自信をなくし、自ら二軍行きを申し出た大山。彼については、6月10日に配信した記事で「1カ月くらいの調整が必要」と記したが、実際には2週間くらいで一軍に上がってきた。では、予想されたより打撃の修正が早く済んだのか?

 復帰直後の6月21日のDeNA戦、先発のジャクソンから154キロの真っすぐをライト前に弾き返し、次の打席もセンター前と2打席連続安打はさすがだ。最初の打席のライト前だが、二軍落ちする前なら引っかけてショートゴロになっていたボールだ。2打席目のセンター前も同様に、少し前なら内野ゴロになっていた球だ。

 そして翌日の試合では、東克樹のチェンジアップをレフトスタンドにホームラン。周りから見れば、"完全復活"と思えるような活躍だった。

 だが私の見る限り、まだまだ。以前に比べればかなりよくなっているが、70%程度の復調具合だろうか。体の開きはだいぶ修正されているが、まだ止まり(体重移動した際の踏み出す左足の踏ん張り)が甘い気がする。

 今の状態だと思いきった内角攻めにはまだ対応しきれない。詰まらされるのを嫌がって、また体が開いてしまうのだけは避けたいところだが。

 サトテル(佐藤輝明)については、打つんじゃないかと思っている。技術的な問題は見当たらないし、打てる雰囲気というか、そう感じさせるものがある。だが、肝心の心がね......モヤモヤしているんじゃないか。

 サトテルは入団して3年連続で本塁打20本打った実績がある。そんなバッターが、そう簡単に崩れるはずがない。とすれば、問題はメンタル面。要は、使われ方に不満を持っているのではないか。それが気持ちよく打席に入れない要因となり、集中力も欠如させてしまっている。彼の表情を見るたびに、そう感じてならない。

 二軍に落とし、代わりに別の選手を起用する。岡田監督の独特の刺激の与え方と言えるだろう。だが、それで奮起する選手もいれば、自信をなくす選手もいる。受け取り方は選手によって異なるだろうし、逆効果になることだってある。

 選手の起用法は難しい。去年のように乗っている時はいい。だが、調子を落とし、凡プレーをやらかした選手をバッサリやる岡田監督のやり方は波紋を起こす。それが"岡田流"と言えば、それまでなのだが......。

 いま、サトテルのプライドはズタズタだと思う。選手は腐ったらおしまいだ。逆にベンチからすれば、腐らしたらおしまいだ。あれだけボヤき、マスコミを使って選手を名指ししていたノムさん(野村克也)でさえも、チームの軸となるバッターはケガでもしない限り、二軍に落とすことはしなかった。プライドを重んじていたからだ。

【岡田監督がやるべきことは何か?】

 先日、岡田監督が森下翔太を直接指導したという記事があった。それを見て「岡田監督も相当イライラしているな」と思った。一日指導したからといって、すぐに治るわけがない。そんなことぐらい岡田監督もわかっているはずなのだが......。そもそも、森下は技術的に悪いところがあるのか。私が見る限り、そこまで悪い状態ではない。

 もちろん、森下はローボールヒッターだから、去年と違って高めを効果的に使われている。そのため森下もちょっとずつ崩されている......というより、崩されそうになりかけている。これは森下の欠点というより、"2年目のジンクス"だと思う。

 ルーキーイヤーの昨年、森下はシーズン中盤から中軸を任され、日本シリーズでもまずまずの働きを見せた。そりゃ相手チームとすれば、躍起になって封じ込めにかかる。

 それを克服するための準備は秋の練習なのだが、最後まで戦ったことも影響して、その時間がなかった。課題を掘り起こし、春季キャンプまでにどうやってクリアするかテーマを立てて練習する。そうしたプロセスを積み上げて、はじめて2年目の好結果がもたらされるのだが、それができなかった。だから監督が直接指導したところで、劇的に変わることはないのだ。

 では、岡田監督がすべきことは何か? まずは去年に立ち返ること。要するに、「選手を信じること」だと私は思う。

 もう少しすれば梅雨が明け、勝負の夏場がやってくる。当然、自慢の投手陣もへばってくるだろうし、その時に打線がどこまでカバーできるかどうかだが、活発化する保証はどこにもない。

 だからこそ選手を信じ、我慢し、ベンチから送り出してやる必要があるのではないか。近本光司にしても、あれだけの好打者が2割5分を切っているのは、4番に据えた影響が出たのではないか。サトテルの起用法にしてもしかりだ。

 なのに、そうした采配についてマスコミは指摘しない。とくに関西のマスコミは球団、そして岡田監督に睨まれるのを恐れてなのか、厳しいことは書かない。批判と誹謗中傷は違う。書くべきこと、伝えるべきことはしっかり伝えるべきではないか。

 ここに来て、去年に近いオーダーになりつつある。問題は、これをどこまで我慢できるかだ。無論、調子を落としている選手が多く、すぐに活発化するとは思わない。しかし、去年あれだけ頑張った選手たちなのだ。その選手たちを信用してやれなくてどうする。

 それでダメなら仕方がない。おそらくファンは納得するだろうし、なにより選手たちが意気に感じるはずだ。そうした関係性こそが、シーズンを通して戦うプロ野球には重要なのだ。

 球団初の連覇を目指すには、選手を信じて、もう一度チームをひとつにすること。それ以外にないと、私は思う。


伊勢孝夫(いせ・たかお)/1944年12月18日、兵庫県出身。62年に近鉄に入団し、77年にヤクルトに移籍。現役時代は勝負強い打者として活躍。80年に現役を引退し、その後はおもに打撃コーチとしてヤクルト、広島、巨人、近鉄などで活躍。ヤクルトコーチ時代は、野村克也監督のもと3度のリーグ優勝、2度の日本一を経験した。16年からは野球評論家、大阪観光大野球部のアドバイザーとして活躍している

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