「盗撮ではなく芸術だ」「尻には触っていない」 複数の性犯罪に問われた元歯医師の"あきれる"言い分

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2024年09月23日 07:50  弁護士ドットコム

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少女のスカートの中を撮影した画像について、「芸術だ」と反論する。目撃者もいる痴漢事件で「触っていない」と突っぱねる。


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元歯科医師の男性が罪に問われた刑事裁判で、弁護側は徹底的に無罪を主張し、有罪を立証しようとする検察側と全面バトルに発展した。



結局、男性は有罪判決を受けることになるが、最後まで反省の弁は口にしなかった。事件の発覚から判決まで追った。(ジャーナリスト・竹輪次郎)



●脱ぎ捨てられた「スニーカー」

2022年9月のある日の正午過ぎ、会社員の足立さん(仮名・60代)は、東京・渋谷の商業施設のエスカレータ近くであやしい動きをする男を見つけた。



背が高くやせ型で、メガネをかけており、周囲をキョロキョロとうかがうなど、落ち着かない様子。過去に捕まえたことがある盗撮犯と似た動きだった。



離れたところから観察していると、この"メガネ男"は商業施設のエスカレーターを上ったと思ったら、また下りるという挙動を繰り返した。しかも、そのたびに必ず若い女性のすぐ後ろに立つのだ。



何度か往復するうちに、男は若い会社員風の女性の後ろについた。足立さんも一緒にエスカレーターに乗って様子をうかがっていると、メガネ男は女性の尻に手をつけた。



足立さんはのちに裁判でこう証言している。「ちょんちょんと触る感じで何度も確認したが痴漢をしていた」。女性も警察に対して「手のひらで尻を触られた。許せない行為」と供述している。



エスカレーターを上がったところで、足立さんは男に声をかけた。「あなた痴漢していましたよね?」。



すると、男はものすごい形相で逃げだした。それに気づいた女性は男を捕まえようとそのカバンを掴んだが、振り切られてしまい、転倒してしまう。男はあっという間に渋谷の雑踏に消えた。



だが、男は現場に「証拠」を残していた。逃げる際に左足のスニーカーが脱げてしまっていたのだ。足立さんは脱げたスニーカーの写真におさめている。



そのスニーカーを持って、足立さんは被害にあった20代女性と共に交番に向かい、女性は被害届を提出した。話は一旦ここで終わる。





●スニーカーの「持ち主」が判明した

事件が急展開を見せたのは、およそ4カ月後の2023年1月。足立さんのもとに渋谷署から電話が入った。靴の持ち主=メガネ男が判明したというのだ。スニーカーに残ったDNAから特定されたという。



男は渋谷の痴漢事件から5日後に別の事件も起こしていた。大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)で痴漢と盗撮をしたとして、2つの件で起訴されていた。いずれも否認しているため、渋谷の事件について法廷で証言するよう、足立さんは求められた。



3つの事件の公判は、大阪地裁でまとめておこなわれることになった。



足立さんから情報提供を受けて、筆者は2023年10月に開かれた裁判を傍聴する。現場にスニーカーを忘れた男は、一見して、事件を起こすようには思えない、真面目そうな雰囲気だ。



彼の隣には弁護士3人が並んでいた。通常、迷惑防止条例違反のような法定刑が軽い裁判では、被告人が全面的に罪を認めて終わるケースがほとんど。しかし今回、メガネ男は自ら選んだ「私選弁護士」をつけて、全面的に無罪を主張していた。



弁護人はみな東京の弁護士。私選で3人もつければ、相当な金額になるだろう。しかも、裁判のたびに大阪までやって来るわけで、出張費もかさむ。そんな高額の費用を払えるのだろうかと余計な心配をしてしまう。



しかし、男の素性を調べていくと、そんな気持ちも吹き飛んだ。報道によると、男は10年以上前、少女をナイフで脅かして、人のいない場所に連れ込んで強制わいせつした疑いで逮捕されていた。



当時、男の職業は「歯科医師」だったが、やがて免許をはく奪された。



その後も、図書館の駐輪場にいた小学生女児の尻をなでたとして、強制わいせつの疑いで逮捕されている。しかもこのとき、別の強制わいせつ事件で起訴されている最中だったという。



そして2022年、渋谷とUSJで3つの事件が発生した。



男は、渋谷で20代の女性に対する痴漢行為(東京都迷惑防止条例違反の罪)とUSJの施設内で10代少女に対する痴漢行為、高校生くらいの女性に対する盗撮(ともに大阪府迷惑防止条例違反の罪)で起訴された。



いわゆる性犯罪の常習犯で、目撃者もいる。裁判はすぐに決着がつくと思われた。



●女性が振り向かないので「痴漢」でない?

だが、そう簡単にはいかなかった。裁判では、渋谷で起きた痴漢事件について、男はエスカレーターで同じ場所を何度も往復しながら女性の後ろにいたことは認めた。だが、痴漢については認めなかった。



弁護人:なぜ女性の近くにいったのか?
男:好みの女性を探して、その後ろに立っていた。違和感なく女性に近づける手段としてエスカレーターを選んだ。
弁護人:ただ触ることはしていない?
男:前科があるので触ったらどういうことになるかわかっている。女性には触れていない。
弁護人:目撃者に腕をつかまれて痴漢したことを指摘されたが。
男:会話をしたわけではないが、ヤバいことにからまれたという認識だった。自分は触っていないが、警察にいけば勾留されるという頭があったので逃げる選択をした。
弁護人:女性たちの後ろにいて、彼女たちは後ろを振り向くなどしていたか?
男:していない。



弁護側は、目撃者がいることから、女性の後ろに立っていたことは認めざるを得ない。そこで、女性の後ろにいただけという主張に徹した。また、女性が後ろを振り向かなかったことをとって、痴漢をしていないことの根拠の一つとした。



●写真は「芸術だ」と言い放った

被害を受けた側の気持ちからすると、恐怖心から振り向くことすらできないということもあるのではないか。弁護側はわかったうえでやっていると思うのだが、被害者からすると不快なやりとりだろう。次は検察官からの質問。



検察官:触っていないということは、触ったと言っている目撃者はウソを言っているのか?
男:状況は誤解を生むようなもの、目撃者は痴漢を捕まえようという正義感から勘違いをしているのだと思う。
検察官:触ったら犯罪だということは知っていた?
男:はい。だから絶対に触らないように注意していた。
検察官:あなたには前科があるが、女性に触りたいという気持ちはあるのか?
男:心のどこかにあったかも知れない。でも前科があるので触らないように注意していた。
検察官:触りたいという欲望は消えていない?
男:触りたいというのは男として普通にあると思う。



被害者も目撃者もいる中で、男は「絶対に触っていない」と断言する。そこに戸惑いや羞恥心は見られない。えん罪を悲痛に訴えるという姿ではなく、淡々している感じだった。



次にUSJで起きた盗撮事件。男は若い女性たちが集まるスペースで、地べたに座る女性をスマートフォンで撮影した。



女子高生くらいの女性のスカートから下着が見えているが、下着のアップという写真ではなく、風景も写っている。男はこれを「芸術だ」と主張した。



弁護人:女性が床に座っているのは気が付いていながら、あえて写真を撮ろうと思った理由は?
男:USJならではの風景と、なんとなくきれいだなと思って撮った。背景と女性の組み合わせが良いと思った。
弁護人:写真はズームして撮影してあるが、なぜか?
男:女性と背景の組み合わせが良いと思ったので、周囲の人が写らないようにタテ画面でズームした。
弁護人:女性の下着が写っていることは気が付いたか?
男:警察署で刑事に撮った写真を見せられたときに初めて気が付いた。下着が写っているとわかれば撮らなかった。



●検察側と弁護側の応酬もあった

検察側は、逮捕後にメガネ男の自宅から押収した別のスマートフォンにも盗撮とみられるような画像が多くあったことに言及した。



検察官:あなたは別のスマートフォンにも盗撮と思えるような写真がありますね?
弁護人:本件と関係ない質問だ。
検察官:過去にも本件と関係あるような写真をとっていると見受けられるので、それについても質問したい。
弁護人:どういう関係があるのか?
検察人:過去の撮影と今回の撮影のつながりがあると思える。電車内で目の前に座っている女性を撮影したことがあるか?
弁護人:異議あり。本件と関係ありません。
検察官:関係あると思います。許可なく撮ったものですか?
男:許可はとっています
検察官:撮影される気持ちを考えたことがあるか?
弁護人:異議あり、この質問はただの意見です
検察官:考えたことがあるのかという質問です。意見を聞いているわけではない。許可なく撮ったことはあるのか?
弁護人:今回の件と関係ありません。
検察官:今回の件です。
男:あくまでも風景を撮っただけ、盗撮のつもりではない。
検察官:なんで女性がいることがわかったのか?
男:あたりを回っていたら女性がいた。座っている人がいることがわかって撮影した。



●誰からも見える状態であれば盗撮でない!?

裁判官も質問した。USJ独特の背景と女性2人が地べたに座っているという写真が良いと思って撮った写真らしいが、被写体の女性の顔は楽しそうな表情ではなかった。



裁判官:女性は今回撮影された人たちでなくても良かった?
男:はい。ただ男性だったら撮っていない。女性が写っているのが良いと思った。
検察官:写真に写っている女性たちは楽しそうでないが?
男:結果として、そういう写真になってしまったが、良い写真を撮ろうと思ったのがきっかけだ。



弁護側は、女性のスカートがはだけていて、衣服で覆われておらず、下着が普通に見られる状態にあったため、大阪府の迷惑防止条例で規定されている「衣服等で覆われている内側の人の身体又は下着を見、又は撮影すること」にあたらないと主張。



また、写真は芸術的な意図を持って撮影されたものであって、盗撮は意図していないので「無罪である」とうったえた。



●検索履歴に「USJ 痴漢」とあった

USJ内でおこなわれたとされる痴漢行為について、新たな事実が明らかになった。



実は、痴漢被害をうったえた10代少女の母親がその場で男を問い詰めていたのだ。その過程で、男は逃走。警備員に取り押さえられたという経緯があった。このとき、男は犯行を認めていたが、裁判になって翻した。



逃走の理由について「過去の性犯罪の事件もあるので捕まれば、無罪であっても言い分は聞いてもらえず逮捕されてしまう。なので逃げるのが一番良いと考えた」と説明した。



検察側は、押収した男のスマートフォンから施設の来園前に、インターネットで「USJ 痴漢」で検索していた履歴を発見した。そのため、痴漢が計画的であったと主張した。



一方の弁護側は、ただのネットサーフィンの域を超えないと反論。被害女性の証言も「警察に誘導されて供述したもので、証言はあいまい。信用ができない」と主張した。



未成年が被害にあうと、一貫性がなくて証言として採用されづらいケースがある。筆者には、そこを突いた法廷戦術のように思えた。もちろん正当な弁護活動の一環だろうが、場合によっては、被害者を貶める側面もある。



わが娘が痴漢されていたと聞いて、男を呼び止めて必死に問いただした母親の姿が頭に浮かんだ。一方、男は口をとがらせて無罪を主張する。鋭い目つきで語る彼の姿に筆者は身震いした。



渋谷の痴漢行為についても、目撃者の足立さんが立っている位置から痴漢行為がきちんと確認できたかあやしい、誤解があった可能性があると反論した。



また、被害女性が「尻を触られた」というのに対して、足立さんは「ちょんちょんと触っていた」と述べたため、証言が一致しないので、痴漢もおこなわれておらず、無罪であると主張した。



●1審・2審ともに「有罪判決」を下した

今年3月、男に懲役10カ月の有罪判決が下った。



3つの事件のうち、渋谷の痴漢事件とUSJの盗撮事件について、罪が認められた。渋谷の痴漢行為については、目撃者がいて、その証言に疑う余地がないことから客観的に明らかであると判断された。



また、USJの盗撮についても、ズーム機能でカメラのサイズを調整していることや、撮影するときに下着が見えていたことは明らかであると認定された。一方、USJの痴漢については、証言があいまいという理由で無罪とされた。



男は控訴したが、大阪高裁は今年9月、大阪地裁の判決を支持する有罪判決を下した(上告なく判決確定)。渋谷に靴を脱ぎ捨てて逃げてからおよそ2年。最後まで謝罪や反省の弁は聞かれなかった。



そう遠くない未来、真顔で絶対やっていないと訴えた"メガネ男"がシャバに戻ってくる。今度こそ更生して戻ってくることを期待したい。



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