業界20年以上の筆者が解説 「人材育成の道しるべ 」コンピテンシーマップの作り方

0

2024年09月25日 15:01  ITmedia ビジネスオンライン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

ITmedia ビジネスオンライン

アルーの落合文四郎社長

 関連記事【社員がリスキリングしてくれない 体系化を促進する“コンピテンシーマップ”の必要性】で、リスキリングを実際に進行するためには“コンピテンシーマップ”の作成が重要、というお話をしました。コンピテンシーマップとは「企業の成長を促す鍵となる人材育成のロードマップ」のことです。


【その他の画像】


 研修や育成施策の目標は曖昧になってしまうことが多く、企業も従業員も取るべき方向性が不明確となり、施策の成果が十分に現れない、といったことが多々あります。また、個々の施策に対する目標を設定できたとしても、それらがどのように相互に関連しているかが不明確になってしまうケースもあると思います。こうした問題の解決に役立つのがコンピテンシーマップです。


 コンピテンシーマップ制作によって達成できる一番のポイントは「自社において高いレベルの成果を生み出すための行動特性の整理」です。個別の育成施策を統合し、それらが全体の目標にどう貢献するかを明確にできるので、一貫性と連動性を確保し、育成の取り組み全体の成果最大化を図った戦略立てを可能にします。


 さらに採用や人事評価といった分野においてだけではなく、人材活性化や人材育成においても、どのような行動を発揮することが大切なのかの共通認識の浸透や、研修などの育成施策の位置付け、ゴールの明確化を狙えます。


●コンピテンシーマップ 実際の作成フローは?


 それでは、実際にコンピテンシーマップを作成するためのフローを見ていきましょう。 コンピテンシーとは「社員が職務や役職において優秀な成果を発揮する行動特性」を指す言葉です。そのため、職種や仕事内容によって異なることが一般的です。


 階層ごとに特有のコンピテンシーを個別に定義することも手順としてはあり得るのですが、仕事の種類ごとにこれらを詳細に定義する作業はかなり労力がかかってしまいます。そのため、より実践的なアプローチとして、当社としては「職種や階層に共通するコンピテンシーが何になるかを特定し、全体の枠組みを形成すること」を推奨しています。階層に共通するカテゴリーを設定し、それらをマトリックス形式で整理する流れで進めるため、階層間の一貫性と関連性を確保しやすい利点があります。


 このような階層別の設計の方が、リスキリングや人材育成において従業員が企業の期待する行動を把握しやすくなるため、良いと考えております。


 コンピテンシーマトリックスの構築にあたっては、まず縦軸となる階層の定義を行います。


 基本的に人事制度上で定義されている階層をそのまま用いれば大丈夫ですが、育成の観点から階層の幅が広すぎたり、狭すぎたりする場合は調整が必要となります。今回の記事ではイメージが付きやすいよう「課長」「部長」の2つを例に挙げます。


 そして階層を設定できたら1つのコンピテンシーカテゴリーを設定し、それぞれの階層ごとで定義づけしましょう。例えば、企業全体で一貫した育成方針を打ち出していくべく「リーダーシップ」というコンピテンシーを設定するとします。その上で、各層で求められるレベル・種類を言語化していきます。前の例をもとに話を進めると、課長層のリーダーシップはいわば「理感一致のリーダーシップ」と置くことができます。というのも課長層では「組織と個人を結び付け、各メンバーのやりがいを引き出すことで職場をけん引する能力」が求められるためです。日々の業務を通じて部下との信頼関係を築き、それぞれの個性を尊重しながらチーム全体を動かしていくリーダーシップが必要なのです。


 一方、部長層に求められるリーダーシップは「変革のリーダーシップ」、現在・未来の問題に対して先んじて警鐘を鳴らし、変革に向けて組織をけん引する能力が求められます。部長は部門全体を見渡しながら、未来に向けた戦略を立て、組織を変革していく力が重要なのです。


 このように階層ごとに各コンピテンシーで求められるレベルを定義づけすることで、各社員の成長段階に応じた具体的な目標を持つことができます。階層を超えてリーダーシップを重視しつつも、各階層で期待されるリーダーシップの質に差異を設けられるのです。


 続いて横軸には企業の理念や価値観を反映したコンピテンシーカテゴリーを設定します。ここでは、自己成長(ジブン領域)と事業の運営・成長(コト領域)、そして人と組織の発展(ヒト領域)の3つの側面からバランス良くコンピテンシーを定義する必要があります。


 例として、当社内の整理として作成した図をご覧ください。それぞれの領域ごとに会社として目指していきたい理念を掛け合わせ、各項目を設定していきます。


 例として、一番イメージが付きやすいであろう「ヒト:対人影響力」のチームワークの列を参照ください。最終的なゴールを「社外のビジネスマンとの連携」と置いたときに、社内コミュニケーションでどのようなステップを踏んでいくのが良いのか、といった部分を段階的においています。


 縦軸と同じく「課長」「部長」で細分化しますと、「課長」では社内での円滑なコミュニケーションと信頼関係の構築が求められます。例えば、課長は「チームメンバーの意見を最大限に引き出し、共通の目標に向けて意識を統一する力」を発揮する必要があります。これは「チーム内の対話を促進し、個々のメンバーの強みを理解して最適な役割を割り当てる」ことで実現されます。


 また、課長は「部門間の協力を推進する役割」も担います。具体的には、他部門との共同プロジェクトで調整役を務め、相互理解を深めるための会議を主催するなどが該当します(上記の表で言うと「本音を引き出す」「コミュニケーションのハブ」の能力にあたります)。


 一方で部長層には、組織全体を超えた協力関係の構築が求められます。「組織の目標を達成するために、他部門や外部のステークホルダーと効果的に協力する能力」が必要です。具体的には、「複数の部門をまたぐプロジェクトでリーダーシップを発揮し、全体の調和を図る」や「社外のビジネスマンとのネットワークを構築し、長期的なパートナーシップを形成する」ことが求められます。つまり、部長は自部門内にとどまらず、会社全体の視点から社内外のリソースを有効に活用し、最終的には「社外のビジネスマンとの連携」をスムーズに進められる体制を作ることが重要です(表の中でいう、「コミュニケーションのハブ」〜「全社連携」までの能力が段階的に求められます)。


 このように、最終的に達成してもらいたいゴールから逆算しながら各ステップを分けていく形で作成していくことがポイントです。


 上記の例から察した方も多いかと思いますが、これらの各コンピテンシーを定義していく際には実務者のインタビュー、経営層の視点などといった生の声を社内から集めることがカギになってきます。コンピテンシーは最終的なパーパスから逆算しながら設定していくため、求めるカルチャーなどに応じてレベル・方向性が大きく異なるためです。


 もし社内だけでは情報が足りないと感じた際には、外部の研究やベンダー提供のデータの活用も積極的に検討していきましょう。このように実際のファクトをベースに仮説を立て、整理・作成を進めていくことで、最終的には企業独自のニーズに合わせて最適なコンピテンシーを定めることが可能になるのです。


(アルー社長 落合文四郎)



    前日のランキングへ

    ニュース設定