限定公開( 13 )
「ポケモンカードゲーム」初期の「リザードン」が約4350万円、未開封のGB「ポケットモンスター 赤」が約706万円──。日本のアニメやゲームのアイテムが世界のオークション市場で高く売れている。
こうした動きを受け、オークション会社として売上高ベースで世界第3位のヘリテージが、日本市場の拡大に強い意欲を示した。ヘリテージオークションズは10月23日、東京・虎ノ門で戦略発表会を開催。今後の方針や狙いを語った。
ジョー・マッダレーナ副社長はITmedia ビジネスオンラインの取材に対し「日本のアニメーション、コミックは世界に通じるものがあり、今後、出品されることを望んでいます。当社はスポーツ関連のオークションでは強みがあるので、米大リーグ、ドジャースの大谷翔平選手関連のグッズにも期待しています」と話す。
ヘリテージは今年4月に東京オフィスを開設。これを機に日本でのオークション市場の拡大を狙う。日本ではYahoo!オークション(ヤフオク)などがサービスを展開しているものの、鑑定されていない商品が多く、出品者と落札者のやり取りが発生するなど特殊な事情がある。一方、世界のオークション企業といえば、英国で設立されたサザビーズとクリスティーズが有名で、ヘリテージは2023年の売上高が2640億円と、第3位の会社だ。
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同社は日本上陸を記念して、オークションに出品されるハリウッド映画不朽の名作『オズの魔法使い』(1939年)に登場する小道具「ルビーの靴」を世界で初めて、東京・銀座三越で10月28日から11月3日まで展示した。今後、米ニューヨーク、英ロンドンでも展示した後、今年12月にオークションにかける予定だ。この靴は盗難された後に米国の連邦捜査局(FBI)の捜索により13年の時を経て発見された“いわくつき”の品物で、同社が試算した推定価格は4億5000万円だという。
マッダレーナ副社長と東京オフィスの松本麻生マネージングディレクターに、日本市場進出の狙いと今後の展望についてインタビューした。
●「大谷翔平グッズ」が注目 ヘリテージに追い風のワケ
――日本に事務所をオープンした狙いは何ですか。
マッダレーナ: アジアでは香港にオフィスがありますが、次のアジアの拠点をどこにするかを考えていたところ、アニメーションやビデオゲームの創出が盛んな日本には多くの貴重なアイテムが存在していて、海外のコレクターから高い評価を受けていました。わが社としては収集品市場の開拓の余地があると見込んで、東京オフィスをオープンしました。現在、東京のオフィスではアニメやゲームの出品数が増えていて、今後の日本人出品者と落札者の増加を期待しています。
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――ヘリテージの強みは何ですか。
マッダレーナ: サザビーズやクリスティーズはこれまで美術工芸品を中心にオークションを展開してきましたが、値が上がり過ぎて売り上げが伸び悩んでいます。その中でわれわれは、ポップカルチャーアイテムのコレクションに卓越性があり、例えば日本独自の「ポケモン」グッズやアニメの原画を通してオークション市場に新たな刺激を与えることを目指しています。最近では、競合もこうしたグッズに関心を示しており、彼らがわれわれの得意なアイテムに入ってきています。
――ドジャースの大谷選手の活躍に伴い「大谷グッズ」も注目されていますが、スポーツ関連のアイテムは取り扱っていますか。
マッダレーナ: わが社は有名選手のスポーツグッズを得意としていて、トップレベルの実績があります。NBAのマイケル・ジョーダン選手が1992年に着用していたユニフォーム、大リーグのジャッキー・ロビンソン選手のバットなど多くのグッズを出品してきました。大谷選手がメジャー通算で松井秀喜選手を抜いて日本人として最多となる176本目のホームランを打ったボールを今年8月に出品しました。同月には大リーグのベーブ・ルースが1932年に着用していたユニフォームも出品され、35億円で落札されました。
――偽物が出品されないためにどのような対策をしていますか。
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マッダレーナ: 出品する前に、米国にあるトレーディングカードなどの真贋鑑定をしているPSAやCGCといった鑑定専門の会社に鑑定を依頼して、本物だという証明書をもらってから出品しています。
――出品に当たり、生成AIなどテクノロジーを活用していますか。
マッダレーナ: 膨大な数の出品数のカタログを作る際に活用しています。出品の写真が出ると、その品物の説明文が生成AIによって自動的に表示されるなど、テクノロジーには投資をしています。
――今後、どこに注力して売り上げを伸ばそうと考えていますか。また、サザビーズとクリスティーズにはどのように対抗しようとしていますか。
マッダレーナ: この半年は順調に伸びています。今後は売り上げを伸ばすために、各アイテムの専門家を雇用したいと思います。この業界は専門家を養成するために時間もかかるので、段階を追ってわが社が得意とする分野を核にして、日本を含む世界のオークション市場で売上高を伸ばしたいと思います。サザビーズとクリスティーズは美術工芸品などそれぞれ特徴のある分野を持っているので、競合はしていません。お互いに特徴を生かしながら成長していきたいと考えています。また特定のコレクターだけを対象にするのでなく、より多くの出品者に出品してもらいたいと思っています。
――日本市場は今後、どこまで成長するとみていますか。
松本: コレクションのマーケットが世界的に成長しているのは実感しています。最近は日本のアイテムに対するコレクターの人気、熱量が高まってきています。世界的に人気の高いアニメやゲームは元をたどれば日本で最初に発売されたことが分かり、日本のものがオークションとして注目を集めています。ビデオゲームは1本で2億円するものも出てきており、まだ成長の伸びしろが大きいと思います。
――オークション会社に入る手数料はどれくらいですか。
松本: おおよそ落札価格の2割が手数料としてオークション会社に入ります。ヘリテージの手数料は他社と比べて割安になっています。
――日本人がヘリテージを選ぶ理由は何でしょうか。
松本: 売る場合に、当社に出品すると海外の収集品市場にアクセスできるのが大きなメリットだと思います。最近は日本人コレクターも高齢になり、収集品を手離す方も多くなっていますが、その際に大きなコレクションを扱えて、コレクションが本当に好きな方に売りたいというのでヘリテージを選ぶ方が多くなっています。
●「趣味」からコレクション市場の発展へ
以上がインタビュー内容だ。日本ではこれまでコレクション市場はあるものの、個人の趣味の延長でしかなく、テレビ東京の人気番組「何でも鑑定団」やヤフオクなどの場で、個人所有物である「お宝」に高額の値段が付けられると話題になる程度だった。しかし、この数年の間に、日本独自の文化とも言えるアニメ、ビデオゲームの多くが商品化され、世界的にも認められるようになってきている。
冒頭で触れたように「ポケモンカードゲーム」や「トレーディングカード」に高い値が付けられて世界のコレクション市場でも注目を集めるようになってきた。このトレンドにいち早く目を付けたのがヘリテージというわけだ。マッダレーナ副社長も日本市場の盛り上がりに強い期待感を示している。
こうした日本独自のコレクショングッズがオークション会社の競売を通じて世界的に正当に評価されれば、現代の日本文化の価値向上にもつながり、日本企業にもこうしたグッズへの創造意欲を駆り立てることになる。コレクション市場が順調に、そして健全に発展することを願いたい。
(中西享、アイティメディア今野大一)
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