2026年ワールドカップ・アジア最終予選の第4節・オーストラリア戦で引き分けて公式戦の連勝が7でストップした日本代表。迎える11月シリーズの2試合は、ともにアウェーでの戦いとなる。
11月15日に行なわれた第5節のインドネシア戦。この試合で最終予選は折り返しを迎えた。高温多湿の気候で、なおかつ雨も降るピッチコンディションの悪いなか、日本は4ゴールを奪い、なおかつ無失点でインドネシアを一蹴。結果だけを切り取ると楽勝のように見える。現地で取材を重ねる元日本代表FW佐藤寿人氏の目には、日本代表のアウェーの戦いはどう映ったのか。
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最初はちょっとバタついた感がありましたね。おそらく相手が前線の配置を変えてきたことが影響したと思います。そこにアジャストするのに、少し時間を要してしまった印象です。
僕は今回もDAZNのピッチ解説という立場で現地に行かせていただきました。本来はピッチから情報をお伝えしたかったのですが、スコールの影響でそれが叶わず、スタンドから試合を見ることになりました。
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ピッチの上から俯瞰して見たことで、日本の組織は明らかに間延びしているのがわかりました。相手が高い位置を取ってきたことで、両ウイングバックも含めて最終ラインは下がってしまい、逆に攻撃陣には前から行きたいという雰囲気があったので、全体のコンパクトさを欠いてしまいました。
そうした展開となったのは、スタジアムの雰囲気も影響していたように思います。
無料ということもあり満員の観衆が詰めかけたなかで、本当に何でもないようなプレーでも大歓声が沸き起こりました。まるでアイドルのコンサートのような雰囲気に日本の選手たちは戸惑ったところもあったと思います。ですが、それ以上にインドネシアの選手たちのテンションがかなり上がっているように感じました。
【熱狂ぶりに久保建英も「うらやましい」】
彼らはリスクを取るというよりも、自信を持ってプレーしていましたね。インドネシアのこれまでの試合を見ると、うしろの人数を多くして、少ない人数で攻めていく形でしたけど、前半の立ち上がりは特に両ウイングバックが高い位置を取り、前線に5枚が並ぶ形を取っていました。
そうすると縦パスの入るコースが多くなりますし、実際にそれがうまくつながるシーンもあった。そこで大声援が送られることで、それほどチャンスではなくても、大きなチャンスのように思えてしまう。スタンドの雰囲気がインドネシアの選手たちに幻想を抱かせ、それが積極性へとつながっていたんだと思います。
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スタジアムだけではなく、インドネシアのサッカー熱の高さというものは至るところで感じられました。日本でもそういった報道があったと思いますが、実際に現地に来てみると、想像以上の熱狂ぶりでした。自国の代表だけではなく、日本代表に対する関心度も高く、練習にも多くのメディアが訪れていました。
ここまで国を挙げてサッカーを盛り上げてくれているのは、久保建英も「うらやましい」と言っていましたけど、僕自身も率直に同じことを感じました。
試合の前日にはインドネシアサッカー協会の主催で、両国のメディア関係者同士の試合が行なわれました。キックオフは22時で、試合終了が24時。こんなところにもサッカーを愛する彼らの情熱が感じられました。ちなみに僕は途中から出場して、1得点2アシストを記録。"前哨戦"で5-1の勝利に貢献しました(笑)。
話を戻すと、間延びした日本に対して、インドネシアのカウンターが脅威を与えていました。最初のピンチを鈴木彩艶が防いでくれましたけど、あそこで決められていたら、試合は難しくなったと思います。
とはいえ、先手を取られても十分に巻き返せるとも思っていました。ゴール前のクオリティだったり、一つひとつのプレーの質というものは、やはり大きな差があると感じられたからです。実際に日本は徐々にリズムを取り戻し、前半のうちに2点を奪うことができました。
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【菅原由勢は心が折れそうになった】
攻撃の形としては、ふだんよりも中から攻める形が多かったですね。インドネシアが高い位置を取る分、日本の両ウイングバックが攻撃に転じられなかった一方で、中盤中央にはややスペースがありました。
その位置に鎌田大地と守田英正がローテーションしながらうまく入り込み、前方へのパスを引き出すことができていました。実際に前半のふたつの得点は、彼らを起点に生まれています。
後半立ち上がりにも相手のミスから3点目を奪い楽勝ムードは漂いましたが、そこから再び押される展開となってしまいます。そんななか、嫌な流れを断ち切るゴールを決めたのが菅原由勢だったのは、個人的には大きかったと思っています。
右サイドバックのレギュラーだった菅原は、3バックがベースとなった最終予選では出場機会を得られていません。難しい状況のなか、与えられたチャンスで見事に結果を出したのは、日本の総合力の高さをあらためて知らしめたと思います。
菅原の活躍の裏には、日本代表の雰囲気のよさもあるはずです。なかでも、バーレーン戦後のコラムでも話したように、長友佑都の存在がやはり大きいでしょう。
試合に出られない時間が続くなかで、菅原は心が折れそうになったと思います。でも、長友の振る舞いを見れば、クサったり、恨み節を言うことはできないはずです。
あんなにキャリアのある選手がベンチにも入れない試合が続くなかでも、常に声を張り上げ、チームのために動いているわけですから。菅原がゴールを決めたあとのベンチの喜び方を見ても、今の日本代表には確かな一体感が備わっているように感じられました。
これで日本は4勝目をマークし、早くも独走態勢を築きつつあります。でも、試合後に何人かの選手にインタビューをしましたが、油断や隙はまったく感じられませんでした。むしろ今回の試合では、自分たちで難しくしてしまったと感じている選手もいました。
そこをどう修正していくかが、今後の彼らのテーマになるでしょう。ただ、選手全員が自分たちに矢印を向けて、自分たちがどこを目標にしているのか。今の代表チームからはそういう意識の高さが感じられるので、さほど心配はしていません。
【上田綺世が不在のFWにも注目】
以前の日本であれば、立ち上がりの嫌な流れを断ち切れずにもっと苦しんだでしょう。下手したら勝ちきれなかったかもしれません。
しかし、嫌な時間帯でも点を与えず、要所でゴールを奪い、再び相手の時間となっても、相手の息の根を止めるゴールで突き放す。スコアほどの余裕のある試合ではなかったはずですけど、結果的には4-0の快勝ですからね。本当にすごいとしか言いようがありません。
11月19日には、再びアウェーで中国戦が控えています。ホームでは7-0と大勝しましたけど、今回は少なからず、アウェーの難しさはあるはずです。
森保一監督はこの2試合をトータルで考えていると思うので、インドネシア戦とはある程度メンバーを代えてくるでしょう。今回出られなかった選手にもチャンスが与えられると思うので、彼らのパフォーマンスに注目したいです。
ただ、前線の選択肢は豊富にある一方で、守田と遠藤航のふたりは、もはや替えの利かない存在となっています。ここは固定される可能性が高いでしょう。
少し贅沢かもしれないですが、特定の個人に依存せず、誰が出てもチームとして変わらぬクオリティを発揮できるところまでいってほしいなと、個人的には思っています。だから、藤田譲瑠チマにもチャンスを与えてほしいですね。
また、上田綺世が不在のFWにも注目しています。今回は小川航基がスタメンで出て先制点に絡むなど、まずまずのパフォーマンスを見せました。途中からは大橋祐紀が出場して、代表デビューを果たしています。
それに今回は、古橋亨梧が久しぶりに代表に招集されました。並々ならぬ意気込みで臨んでいると思いますし、危機感もあると思います。結果を出せば森保監督のチョイスに再び入ってくると思うので、FWの選択肢を増やすようなパフォーマンスを見せてほしいですね。
【profile】
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。