「腸の粘膜にすき間ができてバリア機能が下がり、全身に不調が出る症状。食生活を中心とした腸活で腸に負担をかけない生活を心がけて」そう話すのは10万人の腸を診てきた消化器専門医。患者数が増えつつあるという、その聞きなれない「腸漏れ」、予防と対策を伺いました。
近年、タンパク質不足によって心身の健康が損なわれることが広く知られるようになった。そのおかげか、今年8月、厚生労働省から発表された令和4年「国民健康・栄養調査」によると、中高年世代の1日当たりのタンパク質摂取量は平均60g強。女性(18歳以上)の推奨量である50gを超えており、タンパク質不足は解消されつつあるように見える。
「ところが、当院に来られた患者さんの栄養状態を詳しく検査すると、約8割の人がタンパク質不足でした」
と話すのは、たまプラーザ南口胃腸内科クリニック院長の平島徹朗先生。
隠れタンパク質不足の可能性
「これらの方に食生活を伺うと『肉も魚もしっかり食べている』と答える人がほとんど。このことから、多くの人がタンパク質をとっているのに吸収されない〈隠れタンパク質不足〉の状態にある、と私は考えています」(平島先生)
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なぜそんなことが起こるのだろうか? 平島先生と福岡天神内視鏡クリニック院長の秋山祖久先生にその原因と対策を教えてもらった。
「隠れタンパク質不足の主な原因と考えられるのは〈腸漏れ〉です。私たちが食べた食物は、消化酵素によって分解され、腸から吸収されます。このとき、腸が正常なら、すき間なく並んだ腸粘膜の細胞から栄養素が選択的に吸収されますが、腸に異常があると腸粘膜の細胞にすき間が発生。そのすき間からアレルギーの原因物質、ウイルスなど本来、ブロックされるはずの身体に不要な物質が漏れ出して吸収され、そのぶん、栄養素が正しく吸収されなくなるのです。この状態を〈リーキーガット症候群〉、通称〈腸漏れ〉といいます」(秋山先生)
“腸漏れ”の原因は
必要な栄養素が吸収されない上に、有害な物質まで入ってくるのだから、腸漏れが健康に与える影響は大きい。
「身体を構成する約60兆個の細胞は、タンパク質を材料に絶えずつくり替えられています。腸漏れがあると、その材料が不足。細胞の新陳代謝が正常に行われなくなり、内臓の機能低下、貧血、肌あれや髪のパサつきなど、さまざまな部位に不調が起こりやすくなります」(秋山先生)
腸漏れを起こした腸を内視鏡検査で診ると、未消化の食べ物がベットリ張りついていることも珍しくないそう。
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「アレルギーの原因物質やウイルスなどが入り込み、体内のあちこちでも炎症が発生。頭痛や腹痛、だるさ、疲労感など不快な症状を招きやすくなります」(秋山先生)
そもそも健康だった腸が、腸漏れを起こすのはなぜ?
「その原因は主に2つ。1つ目がタンパク質不足で、細胞の材料が不足することによって、腸粘膜の細胞の新陳代謝がスムーズに行われなくなり、細胞間にすき間が生じます。2つ目が腸内環境の悪化。悪玉菌が増えると、腸粘膜が傷つき炎症が起こりやすくなるのです。逆にいうと、この2つの原因にアプローチすることで、腸漏れはよくなります」(平島先生)
平島先生と秋山先生は、研究データをもとに腸漏れを改善する方法を自分自身で実践して検証。多くの患者さんにもそれらを試してもらった。
「その結果、まず〈漏れない腸〉づくりを目指し、その後にタンパク質摂取を心がけると、腸漏れが改善しやすくなることがわかりました」(秋山先生)
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炭水化物と食物繊維
ここでは取り入れやすい4つの方法を紹介。
(1)《炭水化物は適量》がベスト
「一般的にうどんやご飯は消化がいいと思われていますが、私たちが内視鏡検査で見てきた限り、胃から小腸に移動するのにうどんは5〜6時間、米やパンは早くて4時間ほどかかります。このように消化に時間がかかる炭水化物を1日3食でとりすぎると、消化吸収が終わらず消化管が疲弊して、腸漏れが起こりやすくなります」(平島先生)
とはいえ、極端な糖質制限は体調を崩すおそれがありNG。
「炭水化物の1日の最低必要量は、1日当たり約100g。ご飯でいうと、茶碗2杯程度となります。活動量や体調に合わせてこの分量に茶碗1杯分をプラスするなどして、糖質の摂取量を調整するといいでしょう」(平島先生)
(2) 2種類の食物繊維をとる
「善玉菌には腸漏れを改善し、タンパク質の吸収をよくする働きがあります。そのエサとなるのが食物繊維。食物繊維には2種類あり、善玉菌のエサとなるのは〈水溶性食物繊維〉ですが、もう1種類の〈不溶性食物繊維〉には便の量を増やして排便を促す働きがあり、どちらも腸の健康に必要。多くの人は水溶性食物繊維が不足ぎみなので、特に意識してとることをおすすめします」(秋山先生)
食物繊維をバランスよく含む食品は、上の表をチェック。
「ちなみに炭水化物もとり方を工夫するだけで、食物繊維と同様の効果が期待できる食品に早変わりします。その工夫とは冷ますこと。ご飯や麺を冷やすと〈レジスタントスターチ〉という成分が増えますが、これには不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の両方の特徴があり、善玉菌のエサとなり、便のカサを増して便通を促してくれます。ですから、私たちは2人とも〈冷やごはん派〉です」(秋山先生)
頼もしいビタミンも
(3) 小麦&乳製品を控える
「タンパク質摂取は大事ですが、中には腸漏れを招きやすいタンパク質もあります。それが小麦粉に含まれる〈小麦グルテン〉と乳製品に含まれる〈カゼイン〉。小麦グルテンには粘りと弾力があり、腸にベタベタと張りつき炎症を誘発します。カゼインも未消化になりやすく、腸漏れの原因に。これらを毎日のようにとっているなら、一度やめてみて、体調の変化を観察するといいでしょう」(平島先生)
疲労感がとれる、胃もたれしなくなるなどの変化があれば、腸に悪影響を及ぼしていた可能性大。今後はできるだけ控えることをおすすめ。
(4) ビタミンDをとる
「腸粘膜の細胞がしっかり結合していれば、腸漏れは起こりません。この細胞間の結合を強化してくれる頼もしい栄養素がビタミンD。卵、マグロ・鮭など魚類、干ししいたけや乾燥きくらげなどに多く含まれるので、意識してとりましょう」(秋山先生)
この4つを実践した結果、便通がよくなったりおならが臭くなくなったりしたら、腸漏れが改善されたサイン。栄養素が正常に吸収される腸を取り戻したら、次は効率よいタンパク質摂取を心がけたい。
「身体が一度に利用できるタンパク質の量は1食当たり20〜40gで、とりだめはできないといわれています。食事や間食でこまめにタンパク質を補給しましょう」(平島先生)
お話を伺ったのは──平島徹朗先生●日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本抗加齢学会専門医。国立佐賀大学医学部卒業後、国立がん研究センター中央病院内視鏡部などの勤務を経て、たまプラーザ南口胃腸内科クリニック、福岡天神内視鏡クリニックを開設し、院長、理事長を務める。
お話を伺ったのは──秋山祖久先生●医学博士。日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医、日本肝臓学会専門医。長崎大学医学部卒業後、長崎大学消化器内科に入局。多くの総合病院勤務を経て、福岡天神内視鏡クリニック院長に就任。年間4000例以上の内視鏡検査を行っている。
取材・文/中西美紀