婚約した彼の「借金癖」が耳に入る
「彼は短気ではなく、のんびり屋。いつもニコニコしていて、見るからにいい人なんです。こういう人と結婚したら、楽しい日常生活が送れそうだと思っていました」マナミさん(35歳)は、そんな彼と気が合って1年ほど付き合ったところで婚約した。彼はマナミさんが勤めるグループ企業の1つに所属していた。会社は違うが、グループ企業の集会で出会ったのだという。
「婚約してから、彼の友人や同僚、私の友人たちにも紹介することが増えていきました。ある日、共通の知り合いから連絡があったんです。彼、いろいろな人に借金をしているって。彼は派手な暮らしもしていないし、ぜいたくはもったいないってよく言っているから、まさかと思ったんですよね。そうしたら、小銭を借りることが多いらしくて」
ちょっと人と一緒にランチをとり、帰りに自販機で飲み物を買おうとして小銭がないことに気付く。そうすると彼は、一緒にいる人に「ごめん、150円貸して」と言うそうだ。そのくらいならと思って貸すと、返ってこないのだそうだ。その程度のことで催促するのも嫌だからと、貸した人も催促はしない。そういうことをやられた人が、数限りなくいるのだとか。
「うっかり」とは違う? 目つきに違和感
「借金しているという感覚ではないんでしょうね、本人は。だけど貸した方はどうして返してくれないんだろうと思うはず。彼はのんびり屋だから忘れているのかもしれないと思ったけど、一度借りた人には二度借りないらしいので、なんとなく嫌な予感がしました」ある時、彼に「例えばお金を持ってなくて、でも飲み物を買いたかったとする。そうしたらどうする? そばに同僚がいるんだけど」と言ってみた。すると彼は「当然、借りるでしょ」と。すぐに返すかと聞くと、忘れなければと彼は言った。だが、その時の彼の目つきが、どことなくずる賢く見えて、マナミさんは警戒心を強めたという。
「婚約者を悪く思いたくないけど、そういうのって絶対に人間関係に影を落とすでしょう。小銭だから返さなくていいわけではない。きちんと覚えておいてすぐに返さなければ不誠実です。意図的にやっているならもっとひどい。彼が何か隠しているようで不安だったんですよ」
結婚へのカウントダウンが始まっている中、彼女は少しだけ焦ったそうだ。
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次第に彼の本音があらわになってきた
彼との関係に特に問題はなかった。だが、小銭借金の話を聞いてから、どうしても彼女の中で黄色信号が消えない。「そんなときふたりともファンである、あるアーティストのライブのチケット予約が始まったんです。なかなかチケットがとれないと噂だったんですが、私は先行販売で買えた。彼にそう言うとすごく喜んでくれたんだけど、『あなたも先行予約した?』と聞いたら、してないって。どうしてと言ったら、きみがとってくれると思ったからって。え、と思いました」
その後、チケットを発券、彼に渡すと「ありがとう」と彼はしまい込んだ。ちょっと、代金ちょうだいよと彼女が言うと、「あ、今度払う」という返事。
「そこで争うのも嫌だったので、ライブ当日まで待とうと決めました」
そして当日。ライブを楽しみ、ふたりで食事をしているときに彼女は「チケット代、もらってないよ」と言ってみた。
「せっかくいいライブを見たのにお金のことを言うなんて、と彼は私を睨むように見たんです。まだ結婚しているわけじゃない、私がプレゼントするとも言ってない。払うのが当然だと思うと言ったら、『なんかさあ、きみはもっと鷹揚(おうよう)な人だと思ってたんだよね』と言い出した。
自分がお金を払いたくないだけじゃない、言っておくけどあなた、あちこちに借金癖があるって噂になってるのよ、その癖を直さないといつか大変なことになるよと言って、自分の分のお金をテーブルに置いて、さっさと帰りました」
彼からの連絡が途切れ、横領のうわさが流れる
その後、彼からは連絡がなくなった。結婚する気はなくしていたが、それでも何かしらのけじめはつけたい。マナミさんから連絡してもつながらない、LINEも既読にならない。どうしたんだろうと思っていたら、彼が会社の金を持ち逃げしたといううわさが流れた。
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彼女との関係が壊れたから、彼はやけになってそんなことをしたのか。あるいは彼女と結婚していても、そういうことをする可能性があったのか。そこまではわからないが、彼女は大きなショックを受けた。
「結局、彼はそこまで悪いやつだったわけではなかったようで、数日後に会社に戻ってきたんです、お金を持って。ほんの出来心だったと言い訳したそうです。
お金は50万ほどだったので警察には届けず、懲戒免職になりました。私にはそのまま連絡がなく、彼と親しかった同僚によるとそのまま実家に戻ったって。私のせいだったのかなと思ったけど、いずれにしても結婚しなくてよかったのかもしれない」
些細であっても疑問や不安がある場合は、しっかり解決したほうがいいのかもしれませんねと彼女はしみじみと言った。その“事件”があってから1年半、彼女はようやく新しい彼と付き合い始めたところだそうだ。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。(文:亀山 早苗(フリーライター))
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