鉄道の「自動改札機」はどのように進化したのか 97年の歴史と未来の姿

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2024年11月24日 10:21  ITmedia Mobile

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自動改札機がどのように進化したのかを振り返る。写真はスカイレールサービスで運用していたQRコード対応の自動改札機

 意外と思われるかもしれないが、日本の鉄道で自動改札機が1937年に登場してから97年。昭和の時代はスローペースで進化していたが、平成に入ると多機能化などが目立つようになった。


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●日本最初の自動改札機はシンプル


 日本最初の自動改札機は、1937年12月30日(金曜日)に開業した東京地下鉄道(現・東京メトロ銀座線)である。当時は上野―浅草間で、均一運賃だったことから、10銭硬貨を直接投入すると通過できるターンスタイルを採用した。米国のニューヨーク地下鉄で使っていたものを輸入し、小改造を施したもので、人件費の節減に成功した。


 しかし、路線網の延伸に伴い、約2キロまでを5銭に値下げ、それ以上を10銭にする対キロ制運賃(乗車区間によって運賃が異なる)の切り替えに伴い、1931年9月16日(水曜日)に廃止した。


 2年後の1933年5月20日(土曜日)、大阪市営地下鉄(現・Osaka Metro)梅田―心斎橋間が開業すると、ターンスタイルの自動改札機を導入するも長く続かなかった。


●電気製品による自動改札機が登場


 1960年代に入ると、世界中で電気製品による自動改札機の開発が進められていた。鉄道の運賃は対キロ制が一般的なので、これらに対応するものが必要とされたのだ。改札を自動化することで、人件費の節減、検札の精度向上、不正乗車の防止が期待できる。あわせて、若年労働者不足や生産性に関する課題も解決できる。


 海外では1964年1月から英国のロンドン地下鉄、7月から米国のロングアイランド鉄道で、一部の駅にて小規模な実用試験に入った。1966年1月から米国のイリノイセントラル鉄道では大規模な試験に入ったという。


 日本でも1963年頃から近畿日本鉄道(以下、近鉄)と立石電機(現・オムロン)が共同で自動改札機の検討を開始した。定期券専用ながら、歩きながら定期券を挿入し、取り出すというノーマルオープン式の試作機を開発した。自動改札機のゲートを常時開いた状態にすることで、有効期限内の定期券客はそのまま通過、期限切れ、区間外、強引に突破しようとするお客がいた場合、検知器によりゲートが閉まる。


 1966年3月から阿倍野橋駅(現・大阪阿部野橋駅)で、近鉄社員を対象にした小規模な実用試験に入った。結果は良好だったものの、実用化には時間を要した。


 世界初の実用化は京阪神急行電鉄千里山線(現・阪急電鉄千里線)の北千里駅で、立石電機と共同開発したものが設置され、1967年3月1日(水曜日)の開業と共に供用を開始した。


 当時、自動改札機は定期券用と普通乗車券用に分け、正しいきっぷのみゲートが開く。2種類に分けたのは、定期券用は穿孔(せんこう)された特殊なプラスチック製、乗車券は磁気インクでバーコードが印刷されたもので、構造が異なるからだ。


●自動改札機が普及するも、関西と関東で異なる状況に


 1968年11月、京阪神急行電鉄は伊丹線伊丹駅にも自動改札機を導入。高見沢電機(現・高見沢サイバネティクス)製で、初めて1台で定期券、普通乗車券の両方に対応できるものとした。


 以降、名古屋鉄道、東京モノレール、国鉄、富山地方鉄道、東京急行電鉄(現在は鉄軌道事業の分社化により、東急電鉄として再始動)の一部の駅にも自動改札機が導入された。ただ、メーカーが異なるため、自動改札機やきっぷの仕様、規格が統一されていない難点があった。


 それを解消するため、日本鉄道サイバネティクス協議会は1971年5月にサイバネ規格を制定。自動改札機の機構標準を確立し、近鉄が実用化を進めていたノーマルオープン式に統一。あわせて「サイバネコード」と称する磁気式乗車券に関する規格を定め、乗車券、定期券とも記録容量が多い磁気エンコード方式(きっぷの裏面を磁気化して、必要な情報を読み書きできる)に統一することになった。当時の磁気式乗車券はウラが茶色のガンマ・ヘタマイトである。


 自動改札機は1970年代から1980年代にかけて、関西の大手私鉄、地下鉄を中心に普及した。相互直通運転が少なく、路線や列車も自社線内で完結するところが多いからだ。一方、関東地方は相互直通運転、各鉄道事業者間の連絡運輸が多く、乗車券類のエンコード化が進まなかった影響で、時が止まったような状況だった。


●「新サイバネ規格」で関東地方の課題を解消、全国に拡大へ


 1989年3月、日本鉄道サイバネティクス協議会は磁気エンコード方式を改良した「新サイバネ規格」を制定。磁石などの影響で情報が簡単に消滅させないよう、保磁力を大幅にアップ。情報の記録方式もNRZ−1からFMに変えることで高密度な記録が可能になった。ウラも茶色のガンマ・ヘタマイトから黒色のバリウム・フェライトに変えることで、普通乗車券で約3倍、定期券で約6倍の情報量を記録できる。


 これにより、鉄道ネットワークが広大な関東地方にも自動改札機が導入できることになり、1990年から急速に普及した。


 さらに新サイバネ規格の制定により、自動改札機に直接投入し、その場で運賃を差し引くストアードフェアシステムの実用化が可能になった。


 先陣を切ったのはJR東日本で、1991年3月1日(金曜日)にイオカードの販売を開始。当初は山手線内の31駅に限定されていたが、のちにエリアを拡大した。


 2番目は阪急電鉄で1992年4月1日(水曜日)にラガールスルーの販売を開始。これに先立ち、自動改札機をラガールスルー対応型に更新し、投入口を5度右に傾けることで、左手でも入れやすくした。


 券売機や精算機も接客面を斜め45度に傾けることで、視認性や操作性の向上を図る。サービス開始に向けて駅全体の充実に努め、万全盤石の体制を整えた。


 1994年4月1日(金曜日)から、ストアードフェアシステムでは初めて能勢電鉄との共通化を図る。2年後の1996年3月20日(水曜日・春分の日)から大阪市営地下鉄、阪神電気鉄道、能勢電鉄、北大阪急行電鉄との共通利用が可能になり、「スルッとKANSAI」というネーミングでアピールした。


 3番目は営団地下鉄(現・東京メトロ)で、1991年11月29日(金曜日)にNSメトロカードを発売。この日に開業した南北線駒込―赤羽岩淵間の専用だったが、1996年3月26日(火曜日)の駒込―四ッ谷間の延伸開業に伴い、「SFメトロカード」に改称。営団地下鉄全線の他、都営地下鉄全線にも共通利用できるようにした。2000年10月14日(土曜日・鉄道の日)から関東の私鉄・地下鉄を中心とした「パスネット」として、共通利用エリアが大幅に拡大された。


 なお、これらのカードは全て発売終了となった。


●自動改札機にまつわる2つの課題


 自動改札機が普及しても課題は2つあった。


 1つ目は不正乗車。磁気乗車券および入場券は入場の記録がなくても、出場(下車)が簡単にできることからキセルがしやすい難点があった。1994年9月1日(木曜日)に阪急電鉄がフェアライドシステムを導入。成果を得たことで、同業他社にも波及した。


 2つ目は1枚しか投入できないこと。在来線は基本的に1枚で十分だが、新幹線などは乗車券と特急券の2枚を持つ乗客が多いことから、改札は従来通り係員が目視していた。


 2枚以上の投入に対応すべく、JR西日本は開発に乗り出し、1996年12月から大阪環状線鶴橋で供用を開始。近鉄との乗り換え改札に設置され、最大3枚の投入に対応した。


 JR東海も東海道新幹線に最大4枚まで投入可能の自動改札機を導入することになり、1996年11月に試作機を開発。2年にわたる検証の末、1998年2月から10月にかけて供用を開始した。


●交通系ICカードの普及、QRコード乗車券の台頭で投入口が消える


 2001年11月18日(日曜日)、JR東日本の首都圏エリアで交通系ICカード、Suicaの運用を開始。当初、自動改札機は新型と改造の2種類でまかなわれていた。その後、エリアの拡大、同業他社との共通利用、電子マネーとしての利用が可能になると、乗車券の購入客が減少していった。


 JR東日本などはIC専用の自動改札機を導入し、きっぷの投入口をなくしたことでメンテナンスの省力化を図った。また、無人駅や自動改札機を設置する必要性がない駅についても、簡易型のIC専用改札機を導入し、エリア拡大や利便性の向上につなげた。


 2010年代に入ると、QRコード乗車券用の自動改札機も登場。きっぷを磁気式から普通紙に変更し、QRコードを印刷することで、コストの削減を図った。多くは交通系ICカードにも対応しており、利便性の維持に努めている。


 関西では、スマートフォンによるデジタル乗車券の導入にも積極的で、駅の一部の自動改札機を改造して設置。QRコードの読み取り口を右斜めにするところもあり、左手でも容易にタッチできるようにしているものと思われる。


●顔認証改札も実用化


 2020年代に入ると、大手の鉄道を中心にクレジットカードでも“タッチ&ゴー”ができる自動改札機がお目見えした。普及すると交通系ICカードを脅かす存在になりそうだ。


 究極の自動改札機は顔認証システムで、あらかじめ顔を登録すると、自動改札機が容易に通過できるもの。きっぷの投入、交通系ICカードの読み取り部にタッチする必要がなく、“手ぶらの改札”といえる。2024年6月15日(土曜日)に山万で初めて実用化された。あわせて乗車券も磁気券からQRコードに切り替えた。自前の住宅地にアクセスする鉄道なので、エリアが小さく、導入しやすいのだろう。


●未来の自動改札機はこうなる


 2023年11月8日(水曜日)から11月10日(金曜日)まで開催された第8回鉄道技術展(2年おきに開催)で、日本信号は“未来の自動改札機”を展示した。


 1つ目は、ガラス張りでオシャレな交通系ICカード専用機。2つ目は交通系ICカード、クレジットカード、QRコード乗車券、顔認証の4つに対応したマルチ認証改札機である。


 特にマルチ認証改札機は、磁気券の投入を除き、あらゆるシーンに対応できるのがウリ。山万の顔認証改札機は利用客が限定されることから、大都市にはうってつけであろう。


(岸田法眼)



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  • 日本最初の自動改札機が登場した銀座線の開業は昭和2年(1927年)。記事を訂正しませう。
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