しゃぶしゃぶ業界に地殻変動 「しゃぶ葉」が「温野菜」を追い抜いた納得の理由

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2024年11月27日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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なぜ、「しゃぶ葉」の店舗数が増えているのか

 「しゃぶしゃぶ温野菜」の不調が続いている。2016年時点で国内に400店舗弱を運営し、しゃぶしゃぶ業界でトップの座についていたが、コロナ禍で店舗数を縮小。11月21日現在では216店舗となっている。


【画像】「しゃぶ葉」と「温野菜」は何が違う? 温野菜の食べ放題コースの価格や60種類以上のおかわり自由商品、しゃぶ葉の食べ放題コースの価格や内容、自分で取りに行くサラダや寿司、子ども向けメニュー(全9枚)


 一方、すかいらーくホールディングス(HD)が運営する「しゃぶ葉」は2018年に200店舗を達成。近年も出店を続け、10月末時点で295店舗を展開する。コロナ禍で業界内の順位が入れ替わった形だが、両者の明暗はなぜ分かれたのか。メニューやシステムから違いを考察する。


●2007年オープン、後発組のしゃぶ葉が業界トップに


 しゃぶしゃぶ温野菜は、コロワイド傘下のレインズインターナショナルが運営する、しゃぶしゃぶ食べ放題店だ。同社は牛角の運営企業としても知られる。しゃぶしゃぶ温野菜の1号店を2000年に開店したところ、当時しゃぶしゃぶ食べ放題が珍しく、全国に勢力を伸ばしていった。対するしゃぶ葉は2007年に1号店をオープンし、後発としてゆっくり勢力を伸ばした。


 現時点におけるしゃぶしゃぶ業態の店舗数ランキングは次の通りだ(各社10月末時点。温野菜は11月現在、どん亭は8月1日時点)。なお木曽路はすき焼きを提供するほか、食べ放題は一部店舗に限られるため、他4チェーンとやや異なる点を補足しておく。


1位 しゃぶ葉(295店舗、10月末時点)


2位 しゃぶしゃぶ温野菜(216店舗、11月21日時点)


3位 木曽路(126店舗、10月末時点)


4位 ゆず庵(98店舗、10月時点)


5位 しゃぶしゃぶどん亭(31店舗、8月1日時点)


 今や業界2位に甘んじているしゃぶしゃぶ温野菜だが、もともと業界トップだったこともあり、知名度はしゃぶ葉よりも高いと思われる。両者の順位が入れ替わったのは2020〜21年ごろ。レインズインターナショナルは、しゃぶしゃぶ温野菜事業の単体業績を公開していないため詳細は不明だ。


●大きな違いは「価格帯」


 業界1位、2位の両チェーンは似ているようで違いが大きい。まずはしゃぶしゃぶ温野菜のメニューを見てみよう。基本となるディナーの「温野菜コース」は3828円で、2種類のだしを選べる。肉は牛・豚・鶏から全11種類を提供する。野菜のほか、米や中華麺、うどんなどの炭水化物も食べ放題に含む。


 上位コースの「たんしゃぶコース」は肉12種類で4158円。さらに高いコースもあり、最も高価な「霜降り黒毛和牛コース」は1人前で6578円だ。それぞれのコースで、デザートは最後に1人1品注文可能となっており、ドリンクバーやアルコールの飲み放題は別料金としている。


●しゃぶ葉の特徴は?


 対するしゃぶ葉は、しゃぶしゃぶ温野菜と比較して低価格路線とされる。平日・休日の曜日や時間帯によって価格帯が異なるため、ここでは最も高い休日のディナーを見ていこう。


 最も安い豚バラと鶏肉・つくねのコースは2199円。だしは2種類から選べ、野菜や炭水化物も食べ放題に含んでいる。現時点で最も高いコースは「ラムしゃぶ&国産牛」で4289円。肉はラム肉に国産牛、九州黒豚など9種類を提供し、小籠包や握り寿司も提供する。ドリンクバーやアルコールの飲み放題は、しゃぶしゃぶ温野菜と同じく別料金だ。


 筆者の所感だが、しゃぶ葉は安価なこともあり、しゃぶしゃぶ温野菜ほど味にこだわっていない印象を受ける。肉や野菜は良くも悪くも「普通」で特段印象には残らない。制限時間も100分で、温野菜より20分短い。


●しゃぶ葉がファミリー層に人気なワケ


 システム面でも両者は異なる。しゃぶしゃぶ温野菜は肉や野菜、飲みものを席までスタッフが配膳するのに対し、しゃぶ葉では基本的に肉類こそ配膳するが、それ以外は客が取りに行くスタイルだ。野菜類はサラダバーでまとめて提供している。アルコールの飲み放題は、一定の場所に業務用のウイスキーや焼酎が置いてあり、客が自分で分量や割り材を決める。


 子どもたちでにぎわうデザートコーナーも同様で、しゃぶ葉は客の自由度が大きい。1人1品のしゃぶしゃぶ温野菜に対して、しゃぶ葉ではセルフで自由に楽しめるようにしている。ソフトクリーム機の周りには数種類のトッピングがあり、ワッフルも液状の生地を自分で焼く仕様となっている。しゃぶ葉は他の飲食チェーンと比較して子連れ客が多い印象だが、子ども受けの良いデザートコーナーが充実している点がポイントかもしれない。


●数千円の差が、消費者の評価を分けたか


 ディナーの基本的なコースで大人2人、子ども1人を想定した場合、しゃぶしゃぶ温野菜はソフトドリンクの飲み放題を付けて1万円を少し超える程度、しゃぶ葉は7000円前後である。両者の差は数千円で、物価高が話題になる昨今、この差は大きいのではないか。近年の順位が逆転した要因は、価格差も大きいだろう。


 先述した配膳スタイルの違いも関係していそうだ。しゃぶ葉の自分で取りに行く自由度の高さはレジャー性もあり、子どもから大人まで楽しめる。非接触を求めるムードがほとんどなくなった今、こうしたスタイルは強みといえる。


 しゃぶしゃぶ温野菜は、質にこだわっているのは確かだが、強みを消費者に訴求できていないのではないか。しゃぶ葉とともに、大衆向けのしゃぶしゃぶ食べ放題というイメージが強く、そう考えるとまだ中途半端な価格設定である。


 とはいえ安易に安売り競争へ走るようでは、重厚長大なグループを持つすかいらーくHDに負けてしまうだろう。今後は、いかに高級路線として質感を訴求できるかがポイントかもしれない。


●著者プロフィール:山口伸


経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。



このニュースに関するつぶやき

  • 木曽路としゃぶ葉を同列に論じるのは、ちょっと無理な気が…。たしかに「しゃぶしゃぶ」が共通キーワードなんだろうけど。
    • イイネ!8
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