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携帯電話ショップで働く――少し前までは高い時給の求人も多く、“稼げる”仕事として人気が高かった。
しかし、最近は求人を出していてもなかなか人が集まらないという。ショップの店長、あるいはショップを運営する代理店の採用担当者から「働き手不足で困っている」との嘆きの声もよく聞く。
なぜ、携帯電話ショップに働き手が集まらなくなっているのだろうか? 現役ショップスタッフの声を交えながらご紹介していく。
●携帯電話ショップのスタッフは「稼げる仕事」だった
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かつて、筆者は携帯電話ショップで働いていた。理由の1つは、ずばり稼げるからだ。
当時、筆者の経済状況的に「稼げる」は最優先事項。その結果、たどり着いたのが、家電量販店にある「携帯電話コーナー」のスタッフという求人だった。もちろん、携帯電話そのものが好きで、携帯電話に関わる仕事がしたかったのもあるが、あくまでも当時の自分には副次的な理由でしかなかった。
携帯電話ショップの販売員の雇用形態は、意外と多岐にわたる。ショップを運営する代理店が正社員、あるいはアルバイト/パートタイマーとして直接雇用するケースもあるが、人数的には人材派遣会社を介して派遣されるスタッフも多い。特に大規模な店舗では、派遣スタッフが最多数というケースもある。
先述した「家電量販店にある『携帯電話コーナー』のスタッフ」の求人も、実は人材派遣会社が募集していたものだった。派遣会社が販売代理店にスタッフを派遣し、代理店が管轄する家電量販店の携帯電話コーナーに送り込むという仕組みだ。
この当時、20歳になったばかりの筆者に提示された時給は約1500円だった。他のアルバイトと比べると時給は500円近く高く、週5日/8時間働けば30万円近く稼げる。かなり割は良かったと思う。
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筆者が駆け出しスタッフだった頃、一緒に働いていた“現役の”携帯電話ショップ店員に、当時について振り返ってもらった。
あの頃は、本当に時給が良かったですよね。未経験でも(時給)1400〜1500円は当たり前だったし、経験者であれば(時給)2000円程度が普通で、それ以上もらっている人もいるなんて話もありました。 ちょっと語弊があるかもしれませんが、仕事の内容も今よりは“簡単”だったように思います。サービスも比較的シンプルで、お客さまに案内することも難しくなかったですからね。だからこそ、未経験でもすぐに働けるようになるという感じでした。 ついでにいうと、残業に寛容だったですよね。労働法制の強化もあって、今は残業時間に厳しくなっていますが、その影響でもっと稼ぎたくても稼ぎにくい状況です。もっとも、現在は残業をたくさんするほど仕事がないですし、端末の売れる台数も知れています。必然的に、昔より稼げる額は減りました……。
やはり、昔は携帯電話ショップのスタッフは「稼げる仕事」というイメージがあり、稼げる割にスキルを問われず、残業に寛容なので稼ぎたい人はもっと稼ぎやすい仕事だったのだなと思う。
今だから言えることだが、筆者も「残業が1日6時間」「休日は月間6日」といったこともある。結果として、手取りの月給が100万円目前だった月もあった。しかし、これはさすがにやり過ぎで、翌月は燃え尽きた感じになってしまったことも覚えている。
ともあれ、「稼ごうと思えばいくらでも稼げる」という意味で魅力的な仕事だったことは間違いない。
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●求人を出しても「人が来ない」「稼げない」 なぜ?
かつては「稼げる仕事」のイメージの強かった携帯電話の販売スタッフ。しかし、冒頭で触れた通り、昨今は求人を出しても応募が芳しくないのだという。時給だけを見ると、かつてと同様に普通のアルバイトやパートタイムの求人よりも条件は良い。それでも、集まりづらいのだという。
好条件を出しているのに、なぜ人集めに苦戦してしまうのか――複数の採用担当スタッフに聞いてみた。
携帯電話の(販売をする)仕事って「何となく難しそう」「何だか大変そう」って思われているのは大きいと感じます。 昔の販売スタッフは、服装や髪型といった身だしなみが比較的自由でした。言い方が難しいですが、「接客業として、それはやんちゃが過ぎない?」という外観のスタッフも少なからずいましたよね。しかし、昨今はキャリアや代理店からドレスコードに関する指導が厳しくなり、しっかりとした身なりでないと就業できません。「やんちゃ」な店員をほとんど見かけなくなったのは、そういうことです。 あと、実際に使うと分かることですがスマートフォンって、設定が大変ですよね。なので、自分が「お客さまにスマートフォンに使い方を教える」となると、結構大変なことかもしれません。要するに「難しい仕事」だと思われて敬遠されているんじゃないかなと思います。
店舗の種類や立地次第にもよると思うんですが、今の携帯電話販売店って高齢のお客さまの対応をずっとやっているイメージをもたれているのかもしれません。キャリアショップだと、朝から高齢のお客さまが並んでいて、高齢者向けの「スマートフォン教室」を開催するのも当たり前になっていますしね。、相対するお客さまの高齢化が、若い人からすると「やりづらそうな仕事」と映ってしまい、携帯ショップで働くという選択肢を遠ざけてしまっているのかもしれません。
他のアルバイトやパートタイム求人と比べると時給は高めなのは確かですが、最低賃金の引き上げの影響も手伝って他の仕事と比べて特別に高いわけではなくなりました。求められる知識量が増えたこともあって、今は「楽して稼げる仕事」でもありません。 「稼げそうな仕事」という観点なら、他にも選択肢があると思うので、そちらに流れてしまっているのかなと……。
今ってキャリアショップや携帯電話コーナーは混雑する傾向にありますが、だからといって残業しないとお待ち頂いたお客さまをさばききれないということもありません。 来店予約を優先し、基本的に決まった人数のお客さまの対応をするようにしていることもあって、残業手当込みで「稼げる仕事」ではなくなってしまったように思います。
携帯電話ショップ、特にキャリアショップはにぎわっているのに閉店に迫られたり、すいているように見えるのに、予約なしだと手続きを断られてしまったりと、いろいろな意味で苦境に陥っていることは過去の連載でも取り上げた。1年間で一番盛り上がる「新型iPhoneの発売」も、年を追うごとに盛り上がらなくなってきている。
販売スタッフの声にもあるように、キャリアショップについては予約を前提としていることもあり「スマホ(携帯電話)を買うために何時間も並ぶ(待つ)」ということもない。一方で、スマホはフィーチャーフォン(ケータイ)と比べると操作が煩雑で、サポートにより時間を要する傾向にある。
以前と比べると稼ぎづらく、大変さが目立つようになった携帯電話ショップのスタッフの仕事が敬遠されるのは、無理もないのかもしれない。
●人手減少への対策は急務
携帯電話の販売スタッフに限らず、昨今は多くの業種で人手不足が問題視されている。国も人手不足への対策の一環として企業にDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を促しているものの、業種や会社ごとの仕事のやり方の違いから、“万能な”DXソリューションというものは存在しない。かといって、自社向けにゴリゴリとカスタマイズされたソフトウェアやシステムを作ると、費用がかさんでしまいがちだ。
携帯電話ショップに絡んだDXというと、キャリア自身がオンラインショップに注力したり、オンライン窓口で行える手続きを拡充したりすることで、店頭に出向かなくても済む環境が整えられてきた。総務省の政策で「通信(回線)」と「端末」の販売を分離する取り組みも進み、スマートフォンの買い換えをキャリアを介在しない形で行う人も増えた。
ただ、以前も言ったことだが携帯電話ショップを必要としている人は少なからず存在する。「店員と相談しながらプランや機種を決めたい」「携帯電話の使い方を教わりたい」というニーズは根強いからだ。
しかし、先述の通り、携帯電話ショップのスタッフの求人は、出しても人が集まりづらい状況にある。それと同時に、今働いているスタッフの離職も徐々に進んでいる。代理店では店舗単位で「所定スタッフ数」を定めていることが多いが、ずっと所定スタッフ数を満たせていない、言い換えると慢性的に人手不足となっているショップも少なくない。代理店内、場合によってはキャリアから応援スタッフがやってくる場合もあるが、抜本的な対策になっているかというとそうでもない。
携帯電話ショップの人手不足にどう対処していくのか――携帯電話業界全体の当面の課題といえるだろう。
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