「安くて当然」を覆す! 「豆腐バー」「うにのようなとうふ」なぜヒット? “豆腐革命”の正体に迫る

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2024年11月30日 06:51  ITmedia ビジネスオンライン

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一般的な豆腐は価格競争に巻き込まれやすい(提供:ゲッティイメージズ)

 豆腐は日本の伝統的な食品だ。大豆を原料としていて、タンパク質が豊富で栄養価が高い。コレステロールが含まれないのもポイントだ。


【画像】豆腐がすごいことになっている! 大ヒット「豆腐バー」、うにのような豆腐、白子のような豆腐、マスカルポーネのような豆腐、新しい可能性を感じさせるランチの豆腐御膳、豆腐めし(計14枚)


 しかも、値段が安い。激安のスーパーやドラッグストアでは、1丁50円を切る価格で販売するケースもある。物価高の時世、豆腐の値段もじりじりと上がってはいるが、食用油や牛肉に比べれば、まだまだお財布にやさしい“物価の優等生”と言えるだろう。


 一方で、輸入大豆の価格や石油製品である容器が値上がりしている。工場の機械を動かすエネルギーコストも上昇傾向にある。人件費や配送費も上がっている。コスト増に対して、消費者離れを気にして値上げができないと、利益を削って営業しなければならず、持続可能ではない。


 実際、帝国データバンクの調べによれば、2024年1〜7月に負債1000万円以上で倒産した豆腐メーカーは36件となり、過去最多のペースとなっている。


 豆腐メーカーは、互いに似通った商品を売っているため、消耗戦を強いられてきた。製造設備の性能が高い大手がより安いコストで量産するため、中小は赤字覚悟でスーパーの棚を確保する交渉をせざるを得ない。


 このような不毛な我慢比べを脱して、従来になかった異次元の付加価値を備えた商品を開発して、新しい市場を開拓するメーカーが出てきた。“豆腐革命”が進行している状況と言える。


 豆腐を手軽なプロテイン食品に変身させた「豆腐バー」のアサヒコ(東京都新宿区)、豆腐の思いも寄らない可能性を知らしめた「ビヨンド豆腐」の相模屋食料(前橋市)、外食からの新提案でSDGsを実践する「豆富食堂」(東京都渋谷区)の事例を紹介する。


●ヒットメーカーが手掛けた「豆腐バー」


 新発想、スティック状の豆腐である豆腐バーをヒットさせたのは、アサヒコという豆腐メーカーだ。


 創業して間もない1972年、埼玉県行田市に業界初の「衛生的で均一な品質の豆腐」を量産する工場を新設しており、革新的な気風のある会社。2016年までの社名は朝日食品工業だった。


 開発したのは、2023年5月より同社の代表取締役を務める池田未央氏。約20年間にわたり、菓子メーカーを3回転職してヒット商品を手掛け、あらゆる分野、チャネルの商品開発に携わってきた。正直、菓子はやり切った感があった。


 新分野でのチャレンジとして、2018年にマーケティング本部長として同社に転職した池田氏は、米国に出張した時、非常に硬い豆腐が売られていて、肉や魚の代わりに食べられていることに気づいた。そこで、豆腐の定義を、植物性のタンパク源と変えることで、新しい発想の商品がつくれないかと、ひらめいた。


 大豆の値段が上がったといっても、肉や魚と比べればまだまだ価格競争力がある。単純に80円の豆腐を改良して100円で売るのでなく、競争のステージを転換した。


 「豆腐バーは、通常の豆腐に比べてグラム単価が約8倍以上に跳ね上がっている。豆腐という伝統ある食べ物の価値を、問い直す提案を行ったつもり」と、池田氏は豆腐バーにかける想いを語った。


 豆腐バーの発売は、2020年11月。東京五輪は残念ながらコロナ禍で1年延期されたが、当初はそれを目標に開発してきた。日本はビーガン食品が発達していないので、海外からの観光客の急増が見込まれる、五輪をチャンスと見たためだ。


 また、今はサラダチキンを買っているような、健康志向が強くタンパク質が効率的に取れる食品のユーザーに、豆腐は刺さると考えた。


 五輪は無観客となり、当初見込んだ外国人は来なかった。しかし、日本人がステイホームで運動不足になって、コロナ太りが増えてきた。なんとか痩せたいと思っていた人たちが、豆腐バーに注目。発売して1年で、約1000万本を販売する大ヒットとなった。


 技術的には木綿豆腐をつくるのとプロセスは同じだが、より多く水分を絞り出して硬くする。しかし、豆腐が固まってから水分を抜くのでは上手くつくれない。豆乳ににがりを加える段階で、水分が排出しやすいように、タンパク質の濃度やにがりの種類・量・加え方を工夫し、製法を確立した。


●「硬い豆腐が売れるとは思えない」を覆す


 最初にできたはんぺん状のプロトタイプを、セブン‐イレブン・ジャパンに持ち込んだところ、「面白いがこのままだと心許ない。もっとしっかりした硬さで、味もしっかりしていて、手を汚さずに食べられて、タンパク質が最低10グラムは入れてほしい」と、宿題を出された。


 それらの課題を解決して、発売に漕ぎつけた。


 セブン‐イレブンが売ってくれそうだとなると、社内の空気が変わった。それまでは、「硬い豆腐が売れるとは思えない」と白い目で見られてきたという。池田氏と1名の部下で、工場の片隅で試行錯誤を続けきた。ところが老舗豆腐メーカーの高度な知見が投入され、アサヒコならではの完成度の高い商品に仕上がった。


 最初に発売したのは、プレーンタイプの「旨み昆布」。1年間はアサヒコのナショナル・ブランド(NB)として販売。2022年1月からは、セブン&アイ・ホールディングスのプライベート・ブランド(PB)となった。同年秋からは、競合の「ファミリーマート」「ローソン」でもPBとして販売されている。


 意識的に「サラダチキンバー」の隣へ置かれ、顧客がその日の気分で、タンパク源をチキンと豆腐から選べるようにした。


 このようにコンビニから火が付いた豆腐バーは、今ではスーパー、ドラッグストアなどでも売られるようになり、定着したと言えるだろう。2024年10月末までに累計約7500万本が販売されている。


 現在販売されているのは、「旨み豆腐」「バジルソルト風味」「すき焼き風」「蓮根と枝豆」「日高昆布と大豆」の5種。また、豆腐のおやつとして、「スイートポテトバー」「濃抹茶バー」「香ほうじ茶バー」の3種がある。合わせて8種となっている。


●ガンダム好きの3代目社長の趣味でつくった商品


 相模屋食料の「BEYOND TOFUシリーズ」は、おいしさと植物性由来食品のヘルシーさの両立を追求。「植物性タンパク質の食品=ヘルシーだけどおいしくない」という、従来のイメージの払拭を目指している。


 不二製油の特許技術を用いてつくられた、油分が多いプレミアム豆乳の「豆乳クリーム」や、油分が少ない「低脂肪豆乳」を、原料に使用。


 現状、「マスカルポーネのようなナチュラルとうふ」「BEYOND TOFU ピザ・シュレッド」「うにのようなビヨンドとうふ」「白子のようなビヨンドとうふ」を、主にスーパーで販売している。


 一番人気の、うにのようなビヨンドとうふは、まるでうにのような味わいや食感を実現した豆腐。そのままわさび醤油をかけたり、ご飯に乗せて贅沢なうにご飯のようにしたりして食べる。かき混ぜるとソース状になるので、パスタなどにアレンジする人が多く、SNSにアレンジレシピが数多く投稿されている。2022年3月に発売し、2024年7月には累計出荷数1000万パックを超えている。


 白子のようなビヨンドとうふは、高級で希少な冬の味覚であるふぐの白子を豆腐で再現しようとした商品。白子のようなとろける口どけと、濃厚な魚介のうまみがたっぷりあるのが特徴。昆布ぽん酢ともみじおろしで食べる。2024年8月発売で、当初見込みの3倍売れている。


 マスカルポーネのようなナチュラルとうふは、クリーミィな食感と濃厚でコクのある味わいの豆腐。スプーンですくって食べるスタイルで、オリーブオイルや蜂蜜を掛けて食べるという、従来の絹や木綿とは異なる食べ方を提案する。


 BEYOND TOFU ピザ・シュレッドは、ピザ用チーズのようにシュレッド状になった商品で、ピザ、グラタン、パスタなどのトッピングとして人気。チーズのような味わいと食感、加熱するとトロリと溶ける性質を持つ。他にブロック状になった「BEYOND TOFU ブロックタイプ」、オリーブオイル漬けでお酒のおつまみになる「BEYOND TOFU オリーブオイル漬け」もある。


 BEYOND TOFUシリーズが生まれてきた背景として、2012年3月に期間限定で発売した「ザクとうふ」のヒットがある。アニメ『機動戦士ガンダム』に出てくるモビルスーツ「ザク」の頭部をかたどった、パッケージが特徴的。累計出荷数は500万機(ガンダムへのリスペクトから機と数える)に上った。ガンダムシリーズは他に「百式とうふ」など。


 同社広報によれば、「ガンダム好きの3代目・鳥越淳司社長の趣味でつくった商品で、ガンダムのコアファン層である、30〜40代の男性が豆腐売場に押し寄せる現象を起こした」とのこと。ザクとうふの登場以前には、豆腐にはターゲットを絞った付加価値の高い商品という概念がなかったという。同社のユニークな商品群は、鳥越社長のアイデアによって生み出されている。


 2014年8月に発売したマスカルポーネのようなナチュラルとうふのターゲットは、20〜30代女性。ダイエットや健康のために食べるという、潜在的なニーズがあると考えた。この商品も人気となった。


 相模屋食料は創業73年の老舗豆腐メーカーで、売上高は410億円(2023年度)。過去10年で5倍と鰻登りだ。これは、革新的な商品づくりだけでなく、継続困難な全国の豆腐メーカー12社を次々にグループ化して、再建に取り組んでいるからでもある。


●ユニークな豆腐専門店


 JO(東京都品川区)という外食企業が経営する、豆腐専門店「豆富食堂」とおからパン「豆富パン」もユニークだ。


 同社は2011年、東京・五反田に日本酒専門店「酒場それがし」をオープンして以来、主に居酒屋を都内の五反田や恵比寿、目黒に出店。現在は10店を展開している。


 豆富食堂は2021年11月、恵比寿にオープン。コロナ禍で居酒屋の営業を自粛せざるを得ない状況下、豆腐という日本人の日常に欠かせない商材を扱って売り上げの安定化をはかり、外食のみならずテークアウトのニーズも拾える業態として考案された。店内に工房を持ち、宮城県産大豆「ミヤギシロメ」を使って、職人が毎日、大豆から豆腐をつくるクラフト豆腐の専門店として異彩を放っている。


 ランチには、豆腐料理7品で構成する「豆腐御膳」(1540円)、「豆腐屋の麻婆豆腐御膳」(1980円)などの定食を提供。


 夜は豆腐料理居酒屋となり、「豆腐と鶏のすき焼き」(3080円)、「湯葉春巻き」(1100円)、「揚げたてがんも」(880円)などを提供。締めには干し豆腐を麺に使った「豆腐白湯麺」(1430円)、甘味に豆花(770円〜)など。お酒はナチュラルワイン、日本酒、焼酎など各種そろえる。


 また、豆富パンはその姉妹店として2023年4月、五反田に開店したベーカリー。豆富食堂でつくられる、豆腐、豆乳、おからを使用したパンを販売している。


 豆腐製造を行う工程で、豆乳の搾りかすである「おから」が大量に排出される。おからは大量の水分を含むことによる劣化の速さから、食用利用率はわずか1%程度と言われる。豊富な栄養素、食物繊維を含むスーパーフード、おからの魅力を伝えるべく開発された店だ。


 牛乳の代わりに豆乳を使用、小麦粉におからを混ぜてグルテンを抑えるなど、体に優しいパンを目指している。パンは毎日、職人が店内で生地をつくり焼き上げる。


 また、豆富食堂が製造する豆腐や三角揚げも販売している。


 主な商品は、「食パン」(500円)、「豆腐カレーパン」(320円)、「味噌パン」(270円)、「あんバター」(300円)など。


 豆腐を大豆からつくり、廃棄物のおからも有効利用。SDGsを実践するビジネスモデルだ。


 その他にも、サンマルクホールディングスが経営する、「鎌倉パスタ」の新業態、和風パスタと和スイーツの店「おだしもん」では、店内で製造するクラフト豆腐の食べ放題のサービスを行っている。


 同社のサンマルクや鎌倉パスタでは、焼き立てパン食べ放題が売りになっている。おだしもんでは、よりヘルシーにでき立て豆腐が食べ放題になった。


 以上、これまで栄養価が高い食品であるにもかかわらず、メーカーが利益を出すのも厳しくなるほど価格が抑えられてきた豆腐は、先進的な企業による異次元の商品開発、業態開発によって、適正な利益が取れる魅力的なビジネスに進化している。


 豆腐産業のルネサンスはまだ、始まったばかりだ。


(長浜淳之介)



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