「プロ野球代理人」大友良浩は、社会人野球でプレーしたあと3年で司法試験に合格した

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2024年12月15日 07:30  webスポルティーバ

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スポーツを支える仕事〜プロ野球代理人・大友良浩

 日本のプロ野球選手に移籍の自由=FA(フリーエージェント)の権利が与えられたのは1993年。その後、2000年のシーズンオフに、代理人による交渉が正式に認められた。

 プロ野球選手の待遇が格段によくなり、5億円を超える年俸を稼ぐ選手はもう珍しくなくなった。球団に対して、選手たちの要望を伝える代理人が重要な役割を果たしていることは間違いない。

【立教大時代に東京六大学で2度のリーグ優勝】

 プロ野球選手の代理人をつとめる弁護士の大友良浩は言う。

「代理人による交渉が認められた当時、プロ野球の代理人をしている弁護士自体が少なかったですし、どんな仕事なのかを説明できる人もほとんどいなかったんじゃないでしょうか」

 立教大学野球部時代に東京六大学で2度のリーグ優勝に貢献し、社会人野球(リクルート→ローソン)でもプレーした大友は28歳の時、会社を辞めて司法試験の勉強を始めた。

「野球を引退したあとでリクルートに戻ったとして、どんな仕事ができるだろうかと思いました。私は理系で物理専攻だったので、特許の出願などをする弁理士の資格を取ろうかと考えたのですが、弁護士資格を取れば、弁理士、税理士としても仕事をすることができるとわかりました。もう野球で一番上を目指すことはできないけど、司法試験の合格を目指してみようと決意しました。終わってみれば3年間でしたが、自分にとっては長い長い3年でした」
 
 大友は2002年に弁護士登録をして、晴れて弁護士として活動するようになった。

「私も機会があれば代理人をやってみたいとは思っていましたが、代理人を立てて交渉したいという選手がいなければできません。仕事は縁のものですから」

 FA制度の導入から10年ほどが経ち、スター選手の流出を避けたい球団側が複数年契約にも応じるようにもなった。大友は言う。

「でも、2000年代の前半は、球団と選手が対等とは言えませんでした。球団と対立することで、選手が得をすることは少ないですから。その後、少しずつ選手の希望が通るようになっていきました」

 プロ野球選手の代理人として交渉に当たる際に議題となるのは、お金のことだけではない。

「金額について交渉することもありますが、選手の要望や言いたいことを伝える役割もあります。選手には、自分が口に出すことでカドが立つんじゃないかという心配もあったでしょう。所属球団といい関係を保ちたいという気持ちは当然あるので」

【交渉決裂で年俸調停に】

 大友が初めてプロ野球の球団と交渉に当たったのは2009年、西武ライオンズのエース・涌井秀章(現・中日ドラゴンズ)の代理人としてだった。

「涌井投手が当時所属していたスポーツエージェントからの依頼で、1年目にいろいろな交渉をしました。翌年は最初は関わっていなかったんですけど、球団との交渉が難航したところから依頼を受けて、交渉の席に加わることになりました」

 その時のことをこう振り返る。

「私が交渉の席に着いた時、球団は『上げないというスタンスを絶対に変えない』と決めていたんでしょうね。こちらが数字を示しながら説明しても、まったく聞いてくれない雰囲気でした」

 涌井と相談のうえ、年俸調停を申請することになった。

「5つほど前例があったのですが、選手側にとっていい結果は出ていませんでした。球団の提示額より上がったのは2例だけで、最高でも150万円でした。年俸調停することで選手としてのイメージが悪くなる可能性もあります。しかし、彼が『納得した形で新しいシーズンに臨みたい』と言うことで、調停を申請することを決めました」

 当時の記事を引用してみる。

<調停委員会(熊崎勝彦委員長=コミッショナー顧問)は28日、西武との契約交渉が難航していた涌井秀章投手(24)の今季年俸を2億5300万円とすると発表。東京・内幸町の日本野球機構(NPB)事務局で球団、涌井側の双方へ調停額を通達した。昨季年俸から3300万円増は、球団提示額と涌井の希望額の差の66%。調停委はエースとして年間通じての評価を求める涌井の主張を支持した。

 調停で明らかになった昨季年俸は2億2000万円。球団の現状維持に対し、申請書で3億円を求めた涌井は21日のヒアリングで2億70000万円に下げた。両者の差額は5000万円。調停委が妥当とした3300万円増(15%増)は両者の差額の66%に当たる。つまり66対34で涌井の主張が認められたわけだ>
                     (2011年1月29日付 スポーツニッポン)

 年俸調停は涌井の勝利に終わった。大友は言う。

「私の気持ちとしては、もう少し上がってもいいかなと思いました。ただ、2月1日から始まる春季キャンプの前に決着がついてよかったですね。選手は球団から『今年頑張れば年俸は上がる』と言われますが、いつ故障するかわかりません。いい結果を残した年には、年俸を上げてもらいたいというのが選手の本音ですから」

【プロ野球の代理人になるためには?】

 プロ野球の代理人、弁護士になるためにはどうすればいいのか。

 難関大学で法律を専攻し、若くして資格を取る弁護士もいるが、そうではない大学、法学部卒でない学部で学んだあとに司法試験に合格する人も多い。

「必ずしも難しいとされる大学を出ていなくても大丈夫です。社会人になってから法律の勉強を始めたという人もたくさんいます」

 中学生、高校生の時に大切なのは、定期試験の勉強をすることだと大友は言う。

「『ちゃんと勉強しろよ』と言われても、何をすればいいかわからないという人もいると思います。どの学校でも定期試験、中間とか期末テストがあるので、そこでしっかりと点数を取れるように。それが基礎学力になりますから」

 大友は続ける。

「司法試験だってテストです。試験には必ず答えがあります。世の中には、答えのないものの答えを自分で見つけなければならないことが多いけど、見つけ方の訓練はしておいたほうがいい。そのひとつが勉強だと思います。

 正解があるもので、そこにたどりつく方法があるんだったら、それを自分で探しておいたほうがいいんじゃないかなと思います。考え方を学ぶことは本当に大事ですね。普段からコツコツ勉強しておけば、そういう考え方を使って正解を導き出すことができる。何をするのでも、基礎は必要です」

 目の前のことに、あきらめずにしっかり取り組むことが大事なのだと大友は強調する。

「勉強もスポーツも一緒だと思います。早く答えにたどりつこうと思っても、近道はどこにもありません。私にとって、大学時代にリーグ優勝したことが大きかった。『やればできるんだな』という成功体験になりました」

 厚木高校時代、夏の神奈川大会で1勝もできなかった大友は、大学野球で実績を残して、社会人野球でもプレーした。アスリート時代の成功体験があったから、司法試験の勉強漬けの日々に耐えることができたのだ。

「スポーツが好きなら、できるところまでとことんやればいい。ただ、スポーツだけではなくて、学校のテストでしっかりと点数が取れるように勉強することも大切です。特別なことはしなくてもいいから、それだけでも頑張れば力はついてきます」

 プロ野球の代理人のなかで、大学や社会人でプレーした経験を持つ弁護士は珍しい。

「もともと私は長く野球をしてきましたし、選手の想いを球団に伝えたいという気持ちがあります。年俸が上がるに越したことはありませんが、それだけが仕事ではありません。球団の事情とか組織の大変さも理解したうえで、球団の人や選手の話を聞くことも面白いし、弁護士として野球に関われることはうれしいですね。『選手を守る』ということにやりがいを感じています」

(文中敬称略)

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