【ニューデリー時事】人口14億人超のインドで日本酒(清酒)を造り、販路を拡大しようと福岡の老舗酒造会社が現地に打って出た。日本の「伝統的酒造り」が無形文化遺産に登録されたことも追い風に、ほぼ手付かずの巨大市場攻略に挑む。
進出したのは「繁桝(しげます)」の銘柄で知られる1717年創業の「高橋商店」(福岡県八女市)。今年2月に現地法人を設立した。当局からまだ製造のライセンスは得られていないが、現地で試験生産や製造拠点の選定を進めている。日本の酒製造会社によるインド現地法人の設立は「知る限りでは初」(在印日本大使館)という。
インドでは宗教的な理由で酒を飲まない人も多いが、仮に飲酒人口が1割としても日本の全人口を上回る計算だ。中川拓也社長(50)は「若い人が多く、市場の可能性を感じた」と語る。
日本の財務省の貿易統計によると、昨年のインド向け日本酒輸出額は約2900万円。人口規模が近い中国の約124億円には遠く及ばない。知名度も低いものの、国連教育科学文化機関(ユネスコ)による無形遺産登録で説明がしやすくなり、「すごくありがたい」と喜ぶ。
こうじ菌を除くコメや水といった原料は現地のものを使い、「インドの地酒」を目指す。日本産とは異なる味になる可能性があり、「不安や楽しみもある」と話す。
現地法人のアディティヤ・クマル・ビジャイ社長(42)によれば、日本酒の輸入には高関税がかかり、飲食店によっては販売価格が約10倍になることも。現地製造でコストを下げ、全土での流通を狙う。「3年以内には本格生産したい」とビジャイさん。日本酒と合うインド料理の組み合わせも模索している。