長く続く不景気のなかで「仕事辞めたいなあ」と考えている人は多いかもしれない。とはいえ、転職支援会社などの調査によると、転職回数の平均は2〜3回と言われており、実行に移すことは意外と少ないのである。一方、SNSでは仕事が長続きせず、やたらと早期離職を繰り返し、“キャリア迷子”になっている人たちも見受けられる。
マーシーさん(X:@100Marcy100)は、就職氷河期の真っ只中に専門学校を卒業。この20年余りで渡り歩いた職場は、非正規雇用なども含めて140以上にのぼる。そんなマーシーさんによれば、「面接には受かるコツがある」とか。
また、近年では辞め方に悩んで「退職代行」を利用する若者も増えているというが……。
◆100回以上転職した41歳男性の「正社員長く続いた仕事ランキング」
――Xの投稿で拝見したんですが、マーシーさんって仕事に遅刻したことがないんですか?
マーシー:遅刻はゼロですね。“遅刻するぐらいなら飛んだ方がマシ”というのがモットーなので。正確には1回だけあるんですが、非公式記録ということにしています。
――真面目なのか不真面目なのか……。マーシーさんは何か趣味などはありますか?
マーシー:最近はもっぱらYouTubeの動画編集です。収入面での下心もありつつ、自分のような仲間と繋がりたいという気持ちもあって始めたので、趣味みたいなものですね。もう閉鎖しましたが、昔はブログもやっていました。
――YouTubeの収益は今どのくらいですか。
マーシー:幅が大きくて今年9月は21万円ぐらい、3月も15万円ほどあったんですが、少ない月は2〜3万円ですね。
――Xの投稿では様々な“お仕事ランキング”も発表されていて、もちろんマーシーさんの主観によるものですが、「ガチできつかった仕事ランキング」は興味深く拝見しました。
マーシー:高原野菜農家の仕事はダントツでキツかったですね。標高1000m以上の空気が薄い環境での重労働なので。住み込み系は気が休まらないですし、農家さんもそこまで悪気はないと思いますが、言葉遣いの荒い方が多くて精神的にもシンドイです。これまで10回ほど経験しましたが、一度も長続きしたことがありません。
――なんで10回も応募するんですか(笑)。
マーシー:採用されやすく、わりとすぐお給料がもらえるので、金欠だと手を出しがちですね。
――アルバイトで長く続いた仕事ランキングの1位が客室清掃なんですよね。それはどんな理由ですか?
マーシー:客室清掃も仕事内容は大変ですが、一人の作業が多かったことが奇跡的に10ヶ月以上続いた要因ですね。
――正社員として長く続いた仕事ランキング1位の養豚(6ヶ月)も同じような理由ですか?
マーシー:すくすくと育つ豚の姿を見ると、生き物を相手にした仕事のやり甲斐がわいてきて、けっこう続きました。豚って赤ちゃんは400g程度なんですけど、半年で120キロとかになるんですよ。最後は人間関係が嫌になって6ヶ月で辞めましたが、養豚も一人作業が多かったので。お給料は手取り12万円とかでした。
◆「性格のキツい人がいる職場は即辞める」
マーシー:長続きするお仕事の傾向として、一人の作業が多いというのは間違いなくあります。逆にお局みたいな性格のキツい人がいる職場は即辞めます。あと、苦手なのは愛知県の自動車工場の仕事とかですね。
――意外ですね。工場は黙々と作業するイメージですけど。
マーシー:密にコミュニケーションをとることはないんですが、性格的に難がある人とかも全国から集まって採用されているので。本当にいろんな人が多すぎて、精神的な消耗が激しかったです。
――とくに印象的だった職場のヤバイ同僚とかいますか。
マーシー:ヤク中っぽい人がいました。僕も意味不明な言いがかりをつけられて何回か絡まれたんですが、「ガンギマりってこんな状態か」と納得するくらい、瞳孔がぱっちり開いていました。
――マーシーさんは正気を保ったまま仕事を辞め続けているだけですもんね。
マーシー:仕事はよく辞めますが、気は確かです。
――自暴自棄になったことはないですか?
マーシー:東日本大震災の影響で仕事探しが大変だった頃は、かなりメンタルを追い詰められましたけど。そういう状況でやっと見つけた仕事もすぐ辞めてしまい、仕事を続けられない自分に対する嫌悪感がありました。でも、グレたことはないです。
――酒、タバコ、ギャンブルもやらないそうで。ストレス解消方法は?
マーシー:食べるくらいですね。新しい仕事を始める2日前とかに“気合いを入れる”と称して、「ラーメン山岡家」でドカ食いするのが、自分の中でお決まりの儀式になっています。
◆面接に受かるコツと辞め方のコツ
――様々な仕事を経験して培ったスキルはありますか?
マーシー:資格は普通自動車免許だけで、誰でもできるような仕事ばかりやってきたので、スキルというスキルはありません。場数だけやたら踏んで唯一身につけたのは、面接スキルくらいですね。約170社受けて142回転職していて、採用率は9割近い実績もあるので。“就活のプロ”を自称しています。面接ウケがやたら良いという。
――面接のコツをぜひ教えてください。
マーシー:コツと言っても基本に忠実ってだけですけど。服装は紺色を基調にして、髪の毛は男性なら黒髪・短髪。笑顔と声のトーンをひとつ高くすることを意識するという。あとは職歴を2〜3社にまとめて、志望動機をびっしり書けば、地方の中小企業はだいたい受かります。面接で聞かれることも、どこもだいたい同じです。
――字が綺麗なことが特技だとか。
マーシー:面接でも字は褒めていただきます。大切な第一印象なので、綺麗な字を書くように意識していますね。
――最近は退職代行も人気ですが、辞め方のコツは?
マーシー:変に心配かけるのは私の本意ではないので、バックレてもショートメールや書き置きで、「一身上の都合で退職させていただきます」というかたちで意思表示を残しています。派遣の営業が自宅に来たって話をよく聞くんですが、私は経験ないですね。鬼電が掛かってくることはありますけど(笑)。
――住み込みの仕事はどうやって辞めるんですか? 住み込みなので、バックレというわけにもいかないはずです。
マーシー:だいたい夜逃げみたいな感じです。岩手の農家さんで働いたときは農家さんに見つからないように夜暗くなってから荷物を自分の車に積み込み、夜中0時に夜逃げを決行しました。寮のトイレが不衛生で臭かったのが辞めた理由でした。
――辞め方も堂に入っていますね。
マーシー:劣悪な職場を辞めるときは罪悪感もないんですけど、やはり従業員思いの親身な会社を辞めるときは、申し訳なくて自己嫌悪に陥ります。
◆「ここに142回転職した男がいます」
――いま一番買いたいものや、やりたいことはありますか?
マーシー:500万円ぐらいの中古住宅を買って田舎に移住したいです。生業を見つけて自分で稼ぐ方向に主眼を置きたくて、そこを拠点に動画撮影や何かしらモノづくりしたいなと。
――YouTubeなどでの活動を始めて人生も上向いてきた感覚もありますか?
マーシー:相変わらずお金はないんですけど、意外にストレスもなく充実しているかもしれないです。何気にYouTubeがきっかけで出会った彼女もいるので。
――え、それは実在の? 最後にぶっ込んできますね。
マーシー:実在しています(笑)。ちょっと遠距離なので、毎週は会えないんですが、SNSでDM(ダイレクトメール)をくれて交際するようになって。すでにデートとかもして。
――たいへん失礼しました……。
マーシー:あとは仕事さえ続けられたら最強なんですけど。最近はスキマバイトなどもありますが、結婚も視野に入れて安定的な収入の柱をつくっていきたいです。
――世の中にはなかなか仕事が続かなくて悩んでいる人も多いと思うんですが、最後にメッセージをお願いします。
マーシー:Xでは「新卒の会社をすぐ辞めて数年で何回も転職していて私は社不(社会不適合者)なんだ」みたいに落ち込んでいる人を見かけますが、どうか自分を社不なんて思わないでください。ここに142回転職した男がいますから。そんな思いでいっぱいですね、はい。
――「自分より下を見て元気を出せ」と。そうなると、マーシーさんの魂は誰が救ってくれるんでしょうか。
マーシー:自分はすでに解脱を果たして神の領域に至っているので心配ご無用です。
<取材・文/伊藤綾>
―[100回転職した男]―
【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii