【前編】アルプス山脈で結婚式、両親は飛行機事故に…波乱万丈な登山家・今井通子が『テレフォン人生相談』を32年続けるワケは?から続く
来年1月で60周年を迎える、ニッポン放送の最長寿番組『テレフォン人生相談』。平日の昼の20分間、リスナーから電話で直接悩みを聴き、専門家たちがその場で解決するこのラジオを、誰もが1度は耳にしたことがあるだろう。
この番組の名物パーソナリティといえば、今井通子さん。32年間の出演で磨き上げた舌鋒鋭い物言いにファンの多い彼女は、なんと医師兼登山家という異色の経歴の持ち主だった!
■“悩みはその日に解決”がモットー。収録しない相談もすべて専門家につなぐように
毎週火曜日と水曜日の午後、電話で悩み相談を受け付けるところから“人生相談”は始まる。
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電話受付を行うスタッフは約10人で、40年以上相談者の声に耳を傾けてきた精鋭ぞろい。相談者一人当たり約30分間会話し、内容を整理していく。
「受付はとにかく聴くだけ。そして、聴いているときは、相手の言うことを絶対、否定しません」(電話受付チーフ・広瀬さん)
「最初に『いつも人生相談を聴いてくださってありがとうございます』と言い、名前を呼び掛けるだけでも、相談者さんのお声がガラッと柔らかくなります。
なかには『おかげさまで問題が解決しました』と後日お電話をくださる方もいて、うれしいです」(電話受付スタッフ・伊藤さん)
相談件数は週に約50件。1日に受け付けられた相談内容はカードにまとめられ、その日の回答者の専門分野と照らし合わせてスタジオ収録を進める。電話を受けている場所には、カウンセラーや専門家などが常に待機しており、放送に採用されなかった相談にも彼らが必ず回答している。
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番組チーフディレクターの宅野淳さんは胸を張って語る。
「“悩みをその日のうちに解決する”というのが番組スタート当初からの基本方針なので、決してほったらかしにはしません。パーソナリティも回答者も、相談者が納得するまで時間をかけて向き合っています」
20分番組のなかで、相談の中身が放送されるのは正味14分ほど。しかし、実際の収録には倍以上の時間をかけており、なかには、1回で1時間半近く相談に乗るパーソナリティもいる。収録時間が長くなれば、当然、編集作業も時間を要する。7〜8時間かけ、最終的に300カ所以上をカットしたことも。
編集作業に時間がかかる理由の一つに、相談者の匿名性を重視している点もある。「再放送はしない」「ラジコのタイムフリーによる聴取を不可」にしているのも、そのためだ。
「不倫やDV被害などトラブルに発展しかねない問題も少なくありません。放送を聞いて、『今日の相談者はうちの妻じゃないか?』と、電話をかけてくる方もいます。なので、収録してもすぐに放送せず、1年、2年と、年単位で寝かすものもあります」(宅野さん)
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この優しい心遣いと温かさが、悩める人々の駆け込み寺になっているゆえんだ。
■番組から影響を受けたことはない。「私もこうしようとか思うことはないです」
「最近、女性の相談で多いのは、70〜80代の母親が、家族と疎遠になっているというもので、特に、娘と音信不通だと悩む方が増えています。逆に、娘世代は親の介護が多い。毒親で、幼少期に散々傷つけられたのに、そんな親でも介護をしなきゃいけないのか、と。高齢化社会ゆえの問題でしょう」
前出の宅野さんはこう語ると、「しかし、いっぽうで元気な高齢者も結構多い」と高揚した様子で話を続けた。
「12月9日からの1週間は『これが私の重大事件2024』と題し、今年を象徴する内容を放送していますが、夫に先立たれた80代の女性が、親子ほど年齢の離れた男性と交際し、性に目覚めたが異常だろうかという相談がありました。
過去にも、マッチングアプリを使っているという70代の女性もいれば、80を過ぎた夫の浮気を心配しているという方もいて、みなさん、まだまだお若いなあと。ビックリですよ」
また、電話の進化によっても相談内容が変化してきたという。番組が始まった’60年代の半ば、一般家庭において、100人当たりの加入電話普及率は7.5%ぐらい。その後、黒電話の時代が来て、追ってコードレスフォンが出てきた。
「すると、家族と離れた場所から相談の電話ができるようになりました。次に携帯電話の時代になると、家以外でも電話をかけられることで、男性からの電話相談、特に妻の不倫の相談が増えました。
そして、スマホが一般的な現代では、それまでは相談に使うツールだった電話が、相談の原因になっている、ということが増えて。SNSのやりとりを妻に見られて浮気がばれたとか、日常茶飯事」
高齢者もスマホやネットを使いこなす時代だ。ラジオの役割についてどう考えているのだろうか。
「パーソナリティの加藤諦三さんの格言に〈話すというのは、情報を伝えることではない。情緒を伝えることだ〉という言葉があります。この情緒で伝えるというのが、音声メディアの使命じゃないかなと思いますね。情報を伝えるだけでいいならAIで十分なんです」
さらに、悩みに隠された真の動機を丁寧に解き明かすのが『テレフォン人生相談』の役割だという。
「相談者はなかなか本心を言いません。それは、自分の本心に気づいていないからです。そこを優しく聞き出すパーソナリティもいますが、今井さんは、また違った視点で相談者と向き合い、相手のためだと思えばキツいことも言う。両極端だからいいんですよ。
今井さんは数々の日本初をやってのけた、女性の憧れ的存在。彼女に話を聞いてもらえるのがうれしいという方も多いと思います」
医師としての知識や山で身につけた“臨機応変さ”を人生相談で生かすことができた、と今井さん。
「山では、状況を瞬時に判断して動かなければならない。そういう意味では、人生相談は、相談者の話を聴いて、そのとき考えたことを話していくので、柔軟な対応が不可欠になってくるんです」
自然に親しむ生活はいまも変わらず。長野県白馬村では、山の仲間とともに手作業で、無農薬・有機栽培の米を作り続けている。
「山はね、最近はもっぱら森林浴です。人間は森林のなかにいると健康になるぞ! ということをアピールしていきたい。それが、今後も挑戦していきたいことです」
いまの幸せは、健康でやりたいことがやれること。ところが、「ちょっと長く生きすぎちゃったかな」と今井さん。
「老後どうするかとかまったく考えていない。まあ、どこまで行けるかなあという感じですね(笑)」
ここで、この番組が自分自身の考え方や生き方に影響はあったかどうか聞いた。
すると、間髪をいれずに「ない」と答え、「私もこうしようとか思うことはないです」ときっぱり。それでは、なぜ、人生相談を続けてこられたのだろうか。
「人のいろいろな話を聞くのは大好きなのよ(笑)。人生相談には、本を読むよりもずっとたくさんの人生のエピソードがあって、それに対するアイデアを出したとき、相手の方の声が元気になるとうれしいです」
そして、今日もいつもの挨拶から『テレフォン人生相談』は始まる。
「こんにちは、今井通子です。人にはなかなか言えない相談ってあるものですよね。電話一本くだされば参考になる意見、心がほぐれるお話ができるかもしれません。あなたのご相談は、同じ悩みを持つ方の支えになるはずです」
(取材・文:服部広子)
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