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タブレットにセルフレジ、配膳ロボなど大手飲食チェーンではDXが当たり前になりつつある。そんな中、他社と異なる独自のDXを進めているのがサイゼリヤだ。
【画像】最新のサイゼって、こんなことになってるの!? 紙ではなくスマホで注文する方式、セルフレジの伝票を読み取る機械、セルフレジの全体像(全6枚)
同チェーンでは、QRコードを用いたスマホ注文方式を採用しているが、画面上に料理の写真は表示していない。この他、配膳ロボの導入も他社より進んでおらず、DXは進めつつも徹底したコスト削減の姿勢が現れている。
●ファミレス“3種の神器”中心に、外食ではDXが進んだ
今や、多くのファミレスではDXが進み「タッチパネル注文」「配膳ロボ」「セルフレジ」と、“三種の神器”が標準となっている。特にすかいらーくホールディングス(HD)は2020年からタブレットを各席に配置し、タッチパネル注文の導入を進めた。紙のメニューも置いているが、タブレットには料理の写真を表示するため、メニュー代わりになる。紙のメニューを開かずに注文する人も多いだろう。
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トレー4段構造の配膳ロボは2021年に導入を開始。席の近くまでロボットが料理を配膳し、客が取り出すシステムだ。客にとって若干の面倒さはあるが、猫をイメージしたロボットのかわいさが高評価を受けている。セルフレジは2022年度から本格導入を進めた。
大手牛丼チェーンでは松屋が先行しており、券売機で注文と支払いを済ませ、料理は客がカウンターまで取りに行く方式を拡大しつつある。当初は対面にこだわっていた吉野家もC&C(クッキング&コンフォート)で同様のシステムを導入し、すき家も都心のセルフサービス店で同じ方式を採る。
このように大手飲食チェーンはDXや「客を動かす」方式を導入し、注文と配膳と支払い、3つの動作で省人化を進めてきた。
●あくまで簡素な、サイゼの注文方式
一方でサイゼは異色ともいえる方法でDXを進めてきた。
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注文に際しては、2020年に「手書きオーダー」制を導入。料理名を店員に伝える従来の手法から、客が注文用紙にメニュー番号を記入し、店員が読み上げて確認する手法へと切り替えた。店員は手持ちのデジタル端末に番号を入力し、注文を取る。
一見するとあまり効率化できていない印象だが、店員がテーブルに滞留する時間が短くなり、効果があったという。料理名を読み上げる時間を短縮できた他、注文しながら料理を選ぶ行為を省くことができたためだ。
その後、深刻化する人手不足を受けて、2023年からはQRコードを用いたスマホ注文方式へと切り替えを進めている。既に400店舗で導入し、2025年8月までに全店導入を目指す。
スマホ注文方式は、客が自分のスマホで席のQRコードを読み取ると、注文画面を表示する仕組みだ。注文には4ケタのメニュー番号を入力するフローで、客は紙のメニューで番号を見る必要がある。その後、数量を選択して注文を確定する。つまり、客の作業と簡素なアプリを組み合わせた“半DX”の施策といえる。
今やスマホ注文は、居酒屋などで既に標準化しつつある。ただ、サイゼの注文方式は、注文画面に料理の写真を表示しない点がユニークだ。タッチパネル注文でもなく、写真も表示しない仕様にした理由は、やはりコスト削減の徹底だろう。
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飲食店が用いるタブレット端末は安いもので4万円台。20万円以上の製品もある。1店舗当たり120席、少なく見積もってテーブル数を40とすると、全国1040店舗(11月末時点)でタブレットを導入するのに少なくとも15億円以上が必要である。モバイルオーダーでも、初期投資額が1店舗で10万円以上することがある。画面の簡素さからも伝わるようにサイゼの注文方式にお金がかかっていないのは明白だ。
●サイゼの店員は「時速5キロ以上」で歩く
サイゼでは配膳ロボについて、すかいらーくHDほど普及していない印象だ。試験導入は開始しているものの、店員が配膳する店舗が多い。社長が配膳ロボに対して否定的な発言もしており、従来通り人に頼る方針に戻ったとみられる。
サイゼの店員はテキパキ動く印象を受けるが、それもそのはずである。時速5キロ以上の速度で歩くよう指示されており、皿の持ち手も細かくマニュアル化している。優秀な店員をそろえている手前、配膳ロボの効果は少ないのではないか。
また、サイゼは調理工程もできるだけ削減しているため、キッチンが比較的狭い。ホールが一般的なファミレスより狭い店舗も多く、配膳ロボを導入するスペースが少ないことも、導入へのハードルになっていると考えられる。
コスト面を考えると、配膳ロボの初期投資額はばく大だ。すかいらーくHDでは、2022年末にガストが全国約2100店舗、3000台の配膳ロボを導入。仮に1台300万円とすると、ロボットだけで90億円にもなる。2021年6月に新株発行で調達した428億円を、この配膳ロボやレジの刷新、セルフレジなどへの投資に充てている。
このように他社がDXを進める中、サイゼは一部に限って取り組みを進めてきた。注文では簡素なシステムによる取り組みを進めているが、配膳は依然として人に頼っている状況だ。一方、支払いは8月にセルフレジの全店導入を完了した。店員を介する従来の会計は1組当たり平均80秒であり、こうした作業から店員を解放する効果は明らかである。
DXと聞けば、見栄えの良いロボットやアプリの導入が思い浮かぶが、サイゼのDXは最小限。同社の徹底したコスト削減の姿勢が現れており、学ぶところも多いだろう。
●著者プロフィール:山口伸
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
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