【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】
◆アメリカンターフSが米G1に昇格
アメリカン・グレーデッド・ステークス・コミッティー(北米重賞競走委員会)から、2025年の重賞格付けに関する発表が18日にあり、415競走が重賞として施行されることが明らかになった。2024年の重賞競走は429だったから、14競走の減少になる。
コミッティーでは、総賞金7万5千ドル以上のステークスの内容を精査し、このうち415を重賞競走に、210を準重賞と認定している。
昇格するレースは全部で13ある中、G2からG1に格上げとなるのが、ケンタッキーダービーのアンダーカードとしてチャーチルダウンズ競馬場で行われる3歳馬による芝8.5FのアメリカンターフSだ。
創設されたのは1992年で、1998年にG3の格付けを獲得。2010年にG2に昇格して、2024年まで施行されてきた。2004年には、このレースの優勝馬キトゥンズジョイがその後、G1セクレタリアトS(芝10F)やG1ジョーハーシュターフクラシック(芝12F)を制覇。その年の米国最優秀芝牡馬に選出されている。
2024年の勝ち馬は、単勝オッズ48.17倍で、出走14頭中の最低人気だったトリカリ(牡3、父オスカーパフォーマンス)。前走ターフウェイパーク競馬場の条件戦(AW8.5F)をクビ差で制して2勝目をあげての参戦で、格下と見られての人気薄だったが、道中好位追走から抜け出す危なげない内容で完勝。同馬はその後、アケダクト競馬場のG1ベルモントダービー(芝9.5F)、コロニアルダウンズ競馬場のG2セクレタリアトS(芝8F)でも優勝を果たし、アメリカンターフSがフロックではなかったことを実証している。
G3からG2に昇格するのが、アケダクト競馬場の3歳馬による芝11Fのジョッキークラブダービーなど3競走だ。そして、LRからG3に昇格するのが、サラトガ競馬場を舞台とした3歳牝馬による芝5.5FのコロネーションカップSなど9競走となっている。
昇格する13競走のうち、実に10競走が芝のレースとなっている。
その一方で、残念ながら33競走が降格処分となった。
中でもG1からG2に降格となるのが、サラトガ競馬場を舞台に行われる、3歳以上によるダート6F戦のアルフレッドG.ヴァンダービルトHだ。
前身となったのは、1985年にア・フェノメノンSとして創設されたレースである。ネイティブダンサーのオーナーブリーダーで、ニューヨーク競馬協会の会長を務めたアルフレッド・グウィン・ヴァンダービルト2世が、1999年11月に逝去。その功績をたたえるべく、ア・フェノメノンSは2000年からアルフレッドG.ヴァンダービルトHに名称が改められている。
レースは、1990年にG3の格付けを得た後、1995年にG2に、そして2010年にG1に昇格。以降、2024年までG1として施行されてきた。
近年も、2022年の勝ち馬ジャッキーズウォリアーは、前年の最優秀短距離牡馬だったし、2023年の勝ち馬エリートパワーは、前年もこの年も最優秀短距離牡馬に選ばれた馬だった。2024年の勝ち馬ナカトミも、前年のG1・BCスプリント(d6F)やこの年のG1ドバイゴールデンシャヒーン(d6F)でいずれも3着に入った実績のあった馬で、最近のアルフレッドG.ヴァンダービルトHがレース内容を落としているという印象はなかったのだが、残念ながら降格となってしまった。
このほか、デラウェアパーク競馬場を舞台とした牝馬限定のダート9.5F戦で、88年の歴史を誇るデラウェアHなど、10競走がG2からG3に降格。さらに、デルマーを舞台とした2歳馬によるダート7FのボブホープSなど22競走が、G3からLRに降格となった。
重賞格付けを失ってしまったレースの中で目を引くのは、アケダクト競馬場を舞台とした3歳以上の牝馬によるゴーフォーワンドSだ。
前身となったのは、1954年にマスケットSとして創設された競走である。1989年、1990年と2年連続で牝馬チャンピオンとなり、1990年のこのレースの勝ち馬でもあるゴーフォーワンドの名を戴くレース名に改められたのは、1992年からだった。
1990年のBCディスタフで、レース中に右前脚骨折を発症して、安楽死処分となったのがゴーフォーワンドで、同馬を偲ぶ目的があっての改称だった。2009年まではG1として施行されていたが、2010年の開催が中止になると、再開した2011年にG2に降格。さらに、2014年にG3に降格し、2024年まで施行されてきた。悲運の名馬の名を冠したかつてのG1が、ついにノングレードというのは、寂しい限りである。
(文=合田直弘)