小林製薬が製造販売していた紅麹原料を含むサプリメントを摂取した人に、大規模な健康被害が起きていたことが公になったのは、2024年3月22日のことだった。
「小林製薬は、2024年1月15日には“紅麹を含むサプリを摂取した人に健康被害が疑われる症例が出ている”と外部の医師から連絡を受けていました。その後も、同じような問い合わせがあったにもかかわらず、同社が自主回収に動いたのは、その2か月後だったのです。サプリを摂取して体調を崩して入院した人が、因果関係がわからないまま退院後にサプリの摂取を再開し、体調を崩す事例もあったようです」(テレビ局報道記者)
異常を把握していたにもかかわらず公表しなかったことで、何も知らない消費者は、健康維持のために小林製薬のサプリを摂取し続けた。これにより、被害が拡大した可能性がある。
広報が答えた見解
小林製薬はその後、被害者への補償を進めているが、進捗はどうなっているのか。
同社広報に話を聞いた。
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「2024年10月31日時点で、入通院に関する補償を行わせていただくため申請書類を送付したのが約1150件です。そこから書類を返送いただき、弊社で申請を受け付けたのが約650件でした」
紅麹を含む製品を摂取した影響から亡くなったと判定を受けた人は、どれだけいたのか。
「“死亡”というワードが含まれたご相談は、2024年12月15日時点で397件ありましたが、272件が製品の摂取実態を確認できなかったため、残りの125件を詳細調査対象として調査を進めております。そのうち48件の調査が完了しており、このうち弊社製品を摂取したことで死亡したとの因果関係があった方は現時点においてゼロでした。まだ72件が調査の同意を得られておらず、5件が調査を継続している段階です」(小林製薬の広報担当者、以下同)
どのように調査をして、因果関係の有無を判定しているのかを尋ねると、
「今の段階では、その詳細についてはお話ししておりません」
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と話すだけだった。
「十分に補償しているとは評価できない」
一方、2024年10月には、大阪弁護士会に所属する弁護士17人が『紅麹サプリ被害者救済弁護団』を結成している。
現在は、どのような状況なのか。同弁護団の事務局長を務める、三浦直樹弁護士に話を聞いた。
「2024年4月に大阪弁護士会で相談を受ける“健康被害110番”を実施したのですが、“小林製薬の対応が遅い”とか“全然誠意が感じられない”という声が多くありました。その後も、企業の対応に不安を感じる声が続いたため、弁護団を立ち上げました。100人近くのお問い合わせがあり、すでに10人以上は代理人として受任しています」
企業の姿勢に疑問を感じる被害者が多くいるようだ。というのも、
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「ご相談を受けている方から話を聞くと、小林製薬側は“医師にサプリの影響によるものかを判断してもらってください”と確認書を渡しているのです。しかし、医師も一般的に“サプリの影響によるものだ”と、科学的に断定することが難しいわけです。ある意味、医師としては誠実なのかもしれないのですが……」(三浦弁護士、以下同)
厚生労働省は、青カビから発生することのある『プベルル酸』が、紅麹の製造過程で混入したことが原因だと発表している。
しかし、仮に『プベルル酸』が混入したサプリメントを摂取していたとしても、ほかの要因によって、体調に異変が起きた可能性も否定できない。
「小林製薬が被害者に渡した書類を見ると、因果関係が《ある》《ない》《わかりません》の三択を医師に選ばせるものなんですが、断定的なことを医師はなかなかしてくれません。相談を受けている被害者には、安易に書類を提出しないよう伝えています」
そのうえで、小林製薬とはどのような話し合いをしているのか。
「小林製薬には、健康被害を受けた被害者であると認定してもらうには、どういうエビデンス(=根拠)が必要なのかや、摂取したことのエビデンスをどこまで求めるのか、どういった基準で補償を行うのかを問うている段階です。被害者の中には、月々の治療費は出してもらったと話す人もいるのですが、それがどういうエビデンスに基づいて、どういう計算式で支払われているかは、わからないんです。なので、われわれとしては、十分に補償しているとは評価できません」
例えば、サプリを摂取したことで腎機能が低下して透析が必要になるなど、治療を行っても改善の見込みがない“症状固定”の状態になった人は、従来のような生活を送ることが困難になる。
こうした将来の不安についても、補償が必要となるはずだが、
「私の知る限りでは、そういった補償の話にまで進んでいる人はいないはずです」
変わらない企業の実態
こうした状況を踏まえると、小林製薬が誠実な対応をしているのか、疑問が残る。
「前会長が、特別顧問に就任し、いまだに多額の報酬をもらっています。これが示すのは、今も創業家が絶大な権力を握っており、企業の実態は何も変わっていないということです」
そう話すのは、企業のコーポレートガバナンスの専門家で青山学院大学の名誉教授である八田進二氏。
事件発覚時、同社の会長であった創業家出身の小林一雅氏が辞任をするも、その後は特別顧問に就任。現在、一雅氏には、通常顧問の4倍となる月額200万円の報酬が支払われており、今も同社の会長室を利用しているという報道もある。
前出の同社広報に、この件も確認すると、
「確かに、現在も特別顧問が会長室を利用しています」
と回答した。
そのうえで前出の八田氏は、こう指摘する。
「独立の立場で業務執行を監視・監督すべき社外取締役が十分に機能していなかった。企業というのは、不祥事が起きた際には隠ぺいしたり、公表を先送りにしたりするものです。今回も対応が後手になったのは、そういった理由からでしょう。そこで本来であれば、問題が発覚した段階で、執行部に対して毅然たる態度を持って、事態の改善を図っていくのが社外取締役の役割です。それなのに、前会長が特別顧問に居座っている。今も社外取締役は何らの説明責任も果たしていないのです」
これが被害者への補償についても、影響を及ぼす可能性があるという。
「会社の中の人間だけでは、内向き思考からお互いをかばい、責任追及についても、中途半端になってしまう。だからこそ社外取締役には、社会全体が納得できるような感覚が求められるわけです。しかし、その社外取締役に対しての信頼性が毀損しているわけですから、期待するのは無理でしょうね」(八田氏)
被害者が本当の救済をされる日は、いつ――。