クックパッドのポッドキャスト番組「ぼくらはみんな食べている」。食や料理に熱い思いを持ち活躍するゲストを迎え、さまざまな話を語ります。クックパッド初代編集長の小竹貴子がパーソナリティを務めます。第19回目・20回目のゲストは、料理家の有元葉子さんです。
器の取材がきっかけで“料理家”への道に…
小竹:まずは私から有元葉子さんのプロフィールをご紹介させていただきます。千葉県のご出身で雑誌『Mc Sister』などの編集者を経て、専業主婦として3人の娘さんの子育てに専念されていましたが、雑誌の取材をきっかけに40代後半から料理家としてのキャリアをスタート。料理教室の開催やオリジナルのキッチン道具「ラバーゼ」をはじめ、使い勝手と美しさを兼ね備えた台所用品を数多く開発。東京のほか、長野県の野尻湖、イタリアのウンブリアにも家を持ち、その自然体な生き方に共感するファンも多くいらっしゃいます。
有元さん(以下、敬称略):よろしくお願いします。
小竹:私は中学生時代に『Mc Sister』が大好きで、切り抜いてスクラップブックを作っていたほどでした。あの雑誌はどのようにして作られたのですか?
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有元:私は最初、VAN JACKETという石津謙介さんの会社でお仕事をしていて、婦人画報社から出ている『MEN'S CLUB』という雑誌を作っていたんです。その中でメンズクラブシスターという女の子用のページを私が担当していて、それを 1冊にまとめようということになり、メンズクラブシスターなので『Mc Sister』 という名前になったんです。
小竹:一部から1冊の雑誌するのはすごく大変だったのではないですか?
有元:大変でしたけど面白かったですね。最初は企画、構成、撮影など、全てのことをほとんど1人でやっていました。もともと何かものを作るということが好きだったんですよね。
小竹:そこから専業主婦を経て、40代後半で料理家になられたのですよね?
有元:実は料理家という仕事があること自体、私は知らなかったんです。お友達の家で取材があったときに、「大きな器がない」と言うから「それならうちのを使えば?」となり、スタイリストさんがうちに来て器を全てご覧になっていくつかを持って行ったんです。
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小竹:うんうん。
有元:そのスタイリストさんがきっかけで、彼女が働いていた集英社の雑誌の中で「器を取材させてほしい」と言われて。その辺りからですかね。
小竹:その器の取材からから料理家につながっていたのですか?
有元:私もまさかそうなるなんて思ってもいなかったのですが…。取材とかを受けているうちに「料理のページもあるので作ってくれませんか?」と言われるようになり、そんなことをやっているうちにこのようなことになりました。
小竹:そのときはどういった料理を作られたのでしょうか?
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有元:その頃はみんなが器に関心を持っている時代だったので、いろいろな器を紹介しながら、この器にはこんな料理がいいという提案をしていました。だから、何を作るかは私の勝手でしたね。そんなに大層なものは作っていないのですが、普段作っているいつものご飯というのがよかったのかもしれませんね。
有元さんが自身のオンラインストアでも取り扱っている、BrickettDavdaの器
小竹:普段のご飯というのはどういうものだったのですか?
有元:そのときは子どもたちがまだ小さかったから、子どもたちにも喜んで食べてもらえるものが多かったです。ただ、子ども用のご飯というのは一切作ったことはなかったです。辛いものは辛くして、甘いカレーなどは一切なしみたいな感じでした。
小竹:私も子どもがいるのですが、辛いものを食べたいけど我慢しています…。でも、作っていいのですね。
有元:むしろ慣れさせたほうがいいですよ(笑)。私は料理にお酒もバンバン入れます。どうせアルコール分はなくなって旨みだけが残るわけだから。そういったおいしさを子どもたちに体で体験させて覚えさせてくことが一番大事。自分の食べたいものをきちんと作ることが大切ですよ。
1から料理をすることは自分を作ることの1つ
小竹:そういった料理を提案していく中で書籍も出されていますが、最初はどういった感じだったのですか?
有元:最初はお弁当の本を作ってくださいとか、酒の肴の本を作ってくださいとか、途切れなく本のお話が来て、それをやりながら私も勉強したのかもしれないです。料理の勉強というより、世の中にどういうものが求められているのかといったことがわかってきた感じでしたね。
小竹:私は最近、『簡単料理は簡単か?』という本を読ませていただきました。
有元:不思議なタイトルでしょ。これはわからないかもと思いながら、わからなくてもいいかという感じもあって、どうしてもこのタイトルにしてほしかったんです。表紙も円相といって、無心で円を描くというものがあるのですけど、それをイメージしています。
小竹:この本に書かれている「どんなものを食べているかがその人を作っている」「どんな人と付き合うかで自分の暮らしが決まっていく」という言葉に感動しました。料理本を超えた、有元さんの思いが伝わってくる本ですよね。
有元:料理は暮らしの一部だし、大きく言えば人生の一部でもある。どんな人にも食べるということはすごく大事な部分じゃないですか。人間だけではなくて、全てのものが生きるためには食べないといけない。
小竹:そうですよね。
有元:だから、食べるということにすごく興味があって、人間だけではなくて、虫が食べているもの、動物が食べているもの、お魚が食べているもの、そういうものをよく見てみると人間みたいに何から何まで全部食べるという生き物はいないんですよ。
小竹:そして料理をするというのも人間だけですよね。簡単に作れる料理や時短料理がもてはやされていますが、みんなそんなに忙しすぎるのでしょうかとも本には書かれています。
有元:「簡単って何?」というところから始まりました。簡単を一言で言うと、手がかからないということだとは思うんです。食べたいと思うときにパッとできる。それは今で言うと、コンビニで買ってきたりとか、チンすればすぐにできあがったりとかですよね。
小竹:うんうん。
有元:今はそれも必要な部分はもちろんあると思いますが、やはり1からきちんと料理をすることが自分を作ることの1つになっていく。例えば、秋から冬にかけての時期は根菜類がとても多い。根菜類は下ごしらえが大事だから、ごぼうを洗ったり、芋を洗ったり、灰汁を抜いたりみたいなことをやってみる。食べるものにそうやって真摯に向き合うのはものすごく集中力を高めないとできないんです。
小竹:そうですね。
有元:例えば、ごぼうを洗うとかささがきにするとかは集中していないとできなくて、ほかのことを一切考えずに集中しているとすごくいいものができる。その時間がとてもいい時間なんです。そこだけに気持ちを集中させてみると、自分の中がスッキリするし整う。
小竹:集中することは日常の中ではなかなか難しいですしね。
有元:だから、自分を整える意味で料理はすごくいいことだと思います。それでいて、つらいのではなくて楽しいし、おいしいものが食べられる。こんなにいいことはないですよ。
小竹:食べる人も幸せになりますしね。
有元:それなのに、その一番大事な部分をなぜ飛ばすのかと考えたら、そこは人に見られない部分なんです。誰も褒めてくれないし、全然派手じゃないし、本当に地味な部分じゃないですか。だからかなとは思いますね。
小竹:なるほど。
有元:炒めたり焼いたりするところが料理だと思われがちですが、本当はその前が一番大事で一番面白いところ。そこができなかったら鍋の中のことはできないんです。
食材の生産者にできるだけ会うようにしている
小竹:おいしい料理を作るための4つのパーツとして、食材の選び方、扱い方、下ごしらえ、調理・味付けを本では紹介していて、中でも下ごしらえでおいしさは決まると書かれていますよね。
有元:食材選びも本当に大事です。最近、あるリンゴ園さんからリンゴの紅玉が届いたので、すぐにレモンとグラニュー糖と一緒に煮たら、素晴らしく美しい赤い色で食べてもおいしかったんです。完熟するまで木になっていたものを採ってすぐに送ってくれて、それをすぐに料理したのがこの結果だとわかって、どんな食材を使うかが本当に大事だと実感しました。
小竹:有元さんは普段はどういう風に食材を手に入れているのですか?
有元:野菜はスーパーマーケットで買うこともあるけど、生産者さんから買うこともあります。果物は生産者さんから直接いただくことが多くて、オリーブオイルや酒や醤油、みりん、味噌などの基本的なものは、大体誰がどうやって作っているかがわかっています。
農園の新鮮な野菜
小竹:作っている人ですか?
有元:そうです。そして、できるだけその人に会っています。どういう人が作っているかがわかっただけでもありがたいですし、本当に信頼して買えますね。
小竹:本の中でほうれん草のお話があったのですが、ほうれん草の下ごしらえにはポイントがあるとか。
有元:ほうれん草を選ぶポイントは葉っぱが元気なこと。そして、料理をする前に畑にいたときのように葉っぱをピンと立たせてあげる。そこから始めるとおいしくなります。ボールの中に水を張ってつけておくのですが、茎の下のほうにちょっと切り込みを入れると水をよく吸ってくれます。
小竹:切り込みは入れたことがなかったです。
有元:表面を水につけるのではなくて、葉っぱの細胞の中に水を吸わせたいんです。しばらく置いておくとピンとするので、それから茹でたり炒めたりサラダにしたりするといいですよ。
小竹:有元さんは後片付けのことも本によく書かれていますよね。
有元:仕事をうまく回すためにも大事なことです。きちんと片付いていないとどこかでつっかえてしまいます。だから、キッチンも手順がうまく流れるように考えて作っていますね。
小竹:具体的にはどういった感じなのですか?
有元:どっち利きなのかというのもあります。右利きなら右から左に行ったほうが楽ですよね。洗い物も洗ったら左に置いておく。そして拭いたものをさらにその先に置いてしまっていくという流れです。
噛みしめておいしい“食感”があるものが好き
小竹:ちなみに、好きな食べ物とか嫌いな食べ物とかはありますか?
有元:嫌いというか、食べられないものはあります。柔らかいものとか、トロトロとかふわふわとかはあまり好きではないです。カリカリとかボリボリとかコリコリとか、そういう噛みしめておいしい食感があるものが大好きです。
小竹:揚げたナスに生姜と鰹節をまぶしたもののレシピが本にありましたが、あれも生姜のパリッとした食感がナスに合う一品ですよね。有元さんはやはり食感をすごく意識されている?
有元:そうですね。このナスは揚げ方にコツがあるんです。ナスは切って水にさらしてから料理することが多い。でも、それが違うんです。まず、まな板の上にナスを1個だけ置いて、揚げ鍋の油を熱くしてからナスを切る。切ったらすぐに鍋に入れると色がすごく綺麗に揚がる。それを1個ずつやっていけばあっという間に終わります。
小竹:トロトロふわふわは日本では人気ですが、イタリアではあまり使われていない言葉ですか?
有元:使いませんね。誰もおいしいとは言わないでしょうしね。日本のみなさんは噛むのが嫌なんですかね。なんでも飲み込んでしまうようなものが多いように思います。でも、それは体にはすごく良くないです。ちゃんと噛んで、顎をしっかり使って噛み合わせることによって、脳にもいい刺激がいきます。
小竹:有元さんにとって食べること、料理というのは何ですか?
有元:生活や暮らしていくうちのごく一部です。私は料理の本ばかり出していますけど、別に料理だけをしているわけじゃないので(笑)。本当にごく一部だけど、とても大事なことですね。
小竹:生活の中で料理以外ではどういったことに興味がありますか?
有元:私がすごく好きなのは、自然の中でボーッとしていること。何も考えたくないというか、ボーッとする時間がすごく好きです。
小竹:それはすごく難しいですよね。私はつい何かを考えてしまいます…。
有元:例えば、山のほうの家に行って、高い木のちょうど中間にリビングがあるので、木の動きを見たりとか、そこに鳥が来たりとか、フクロウが目の前に来てジッと見ていたりしたこともありました。風がヒューッと抜けていったりとか、そういうことを見ているのが好きですね。
小竹:そこから料理のアイデアが浮かんだりとかでもない?
有元:本当に無心です。あと、イタリアの場合は、ちょうど西側がすごく光が入るちょっと高いところにあるので、ペルージャの向こう側の山に陽が落ちる様を太陽がまだ上にある頃からずっと見ています。
小竹:クックパッドユーザーには料理が楽しいという方がたくさんいるのですが、最後にそういう方々にメッセージをいただけますでしょうか。
有元:料理が楽しいというのはすごく幸せなことです。まだまだこれからそういう時間を持ちたいという方や1人の生活を始める方もいると思いますが、自分が食べるものは自分で作るというのをまず当たり前のことにしてほしい。その時間を短時間でもいいから楽しむように、ある程度努力して楽しんだほうがいいと思います。
小竹:努力して楽しむ。
有元:そうすると当たり前になってくる。料理ってすごく面白いことだと思えるようになる。誰も評価してくれなくても自分で評価して自分が幸せであればいいんです。
(TEXT:山田周平)
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【ゲスト】
第19回・第20回(12月6日・20日配信) 有元葉子さん
VAN Jacket企画部、雑誌mc Sister編集、専業主婦を経て、料理家に。料理教室を主宰し、台所道具のシリーズ「la base(ラバーゼ)」を新潟県燕市のメーカーと共同開発、同ブランドのディレクターを務める。またYOKO ARIMOTOブランドの限定生産キッチンウェア開発に携わる。レシピ本のみならず、食を通じて暮らしや生き方を見つめるエッセイなど、著書は100冊以上に及ぶ。東京、長野、イタリアに拠点を持つ。
公式サイト: https://www.arimotoyoko.com/
Instagram: @arimotoyokocom
Instagram: @chantotabeteru
【パーソナリティ】
クックパッド株式会社 小竹 貴子
クックパッド社員/初代編集長/料理愛好家。 趣味は料理🍳仕事も料理。著書『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』『時間があっても、ごはん作りはしんどい』(日経BP社)など。
X: @takakodeli
Instagram: @takakodeli