義姉の家にお呼ばれした時の出来事
「夫は子どもの頃に母親が病死して、10歳年上の姉に育てられたようなものだそうです。その話は聞いていたんですが、私たちの結婚後は、義姉一家は遠方にいたのでほとんど会うことはありませんでした。一家が関東圏に戻ってきて、先日、義姉が私たち一家を呼んでくれたんです」アミさん(39歳)は複雑な表情でそう言った。アミさんには同い年の夫との間に、7歳と4歳の子がいる。夫は義姉に久しぶりに会えるので、とてもうれしそうだった。
「夫の母が亡くなったのは彼が8歳の時。母親が恋しい年頃ですよね。当時18歳の姉がとにかくかわいがってくれたそうです。姉はその後、専門学校を出て就職、夫が高校を出るまでは実家から仕事に通い、彼の心の支えになっていたようですね」
父と姉との3人暮らしだったが、父は仕事が忙しく、あまり子どもたちの気持ちを聞いてはくれなかった。今思えば、姉だって若かったのにずいぶん苦労をさせてしまったと夫は折に触れて語っていたという。
「私たちの結婚式の時には義姉はとても喜んでくれました。それからすぐ義父が亡くなり、私たちが夫の実家をリフォームして住んでいるんです」
テーブルにペットボトルだけが……?
義姉の家に着くと、彼女は大喜びで迎えてくれた。リビングに招き入れてくれたのだが、テーブルにはペットボトルのお茶が置いてあった。「昨今、仕事先でペットボトルのお茶をもらうことは多いですが、仮にも家庭ですし、弟一家が来ているのにペットボトル? 一瞬、あれと思ったけど、夫は義姉と楽しそうに話し込んでいるので何も言いませんでした。義姉の子どもたちは大学生と高校生で、その日は2人とも出かけているという。義兄は出張だそう。なんだか私たち、歓迎されてないのかなと思いました」
子どもたちがいるのにペットボトルはお茶か水だけ。お菓子ひとつない。アミさんはあわてて買ってきたケーキを差し出した。義姉は「ありがとう」と受け取ったが、出してくれることはなかった。
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夕食に出てきたのはパック寿司
夕方になり、義姉は「ごはん食べていってね」とキッチンに立った。出てきたのは、スーパーで買ったらしいお寿司。しかもパックのままだ。さすがに夫がけげんな顔をした。「おねえちゃん、料理しないの? と夫はストレートに尋ねました。すると義姉は『うちはもう、それぞれが勝手に食事をするのよ。あ、お寿司じゃない方がよかった?』って。
ずっとこういう感じなのと夫が聞くと、『下の子が中学生になったころからかな。その前は夫の母が同居していたから、全部やってくれていたのよ。私も仕事が忙しかったし』と。
おねえちゃんの料理、おいしかった記憶があるんだけどと夫が言うと、『おばあちゃんが亡くなってから、うちの家族は個食が好きみたい』って。なんだか少し寂しそうだったから、スーパーのお寿司をおいしくいただきました」
「個食」ばかりの食スタイルに違和感
まだ高校生の子がいるのに、家族それぞれが好きなものを買ってきて食べるというスタイルはどうなのかなあと、アミさんは考えながら食べていたという。「うちも共働きですが、基本的に作り置きをしたり冷凍食品を使ったりしながらも、家族で同じものを食べています。栄養のこともあるので、私は子どもたちが社会人になるまではちゃんとごはんを作ろうと思いましたね。ただ、全員がいや、好きなものを買ってきて食べると言ったら、どうしようもないけど……」
そんなスタイルに慣れているとはいえ、少なくとも弟一家という「お客さん」に、スーパーの寿司とインスタント味噌汁はどうなのかと、やはりアミさんは納得がいかなかった。
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お客さんとはいえ、自分の弟だから、身内の気楽さであのお寿司だったのかもしれない、と夫は自分に言い聞かせるようにつぶやいていました。夫がちょっと気の毒でしたが」
夜になって大学生の娘や高校生の息子が帰ってきた。あいさつをしてキッチンの方で、それぞれが買ってきたものを食べている様子だった。
「お寿司の残りがあるよと義姉が言うと、息子が喜んで食べていましたね。家庭内が不和というわけでもなさそう」
最後までお持たせのケーキが供されることはなかったが、帰りには車を取り囲んで3人が「また来てね」と笑顔だった。
「義姉一家が幸せならそれでいいんですけど……」
最後までアミさんはどこか腑(ふ)に落ちない顔をしていた。
亀山 早苗プロフィール
明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
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